質問主意書

第77回国会(常会)

答弁書


答弁書第六号

内閣参質七七第六号

  昭和五十一年三月三十日

内閣総理大臣 三木 武夫   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員神沢浄君提出宮入バルブの労使紛争に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員神沢浄君提出宮入バルブの労使紛争に関する質問に対する答弁書

一について

 株式会社宮入バルブ製作所(以下「宮入バルブ」という。)とその従業員が組織する総評全国金属労働組合山梨地方本部宮入バルブ支部(以下「宮入支部」という。)との間で、昭和四十九年末に、同年の年末一時金、希望退職者募集等の問題をめぐつて労使紛争が発生し、その後昭和五十年の春季賃上げ、同年の夏季及び年末一時金等の問題をめぐつて、更には昭和五十一年に入つて希望退職者募集、宮入バルブの販売関係事業の別会社への移行等の問題をめぐつて労使が対立しており、昭和四十九年の年末一時金等については解決をみたものの、その他の問題については現在も労使の間で紛争が続いていると聞いている。

二及び三について

1(1) 労働委員会に対する不当労働行為救済申立てについては、宮入支部等は、昭和四十七年十月以降、山梨県地方労働委員会(以下「山梨地労委」という。)に対して、宮入バルブ等を被申立人として、団体交渉拒否問題、支配介入問題に関して六件の不当労働行為救済申立てを行つたと聞いている。
 このうち、

イ 昭和四十八年七月に申し立てられた事件については、同年八月に取り下げられ、
ロ 昭和五十年三月に申し立てられた二件の事件については、併合審査のうえ昭和五十年五月に不当労働行為救済命令が出され、宮入バルブはこの命令を不服として中央労働委員会に再審査申立てを行つたが、同年八月に再審査申立てが取り下げられて右の命令が確定した。その後、宮入支部及び山梨地労委は、昭和五十一年一月及び同年三月に、それぞれ東京地方裁判所に対して、宮入バルブが右の確定命令に従わない旨の通知を行い、現在、不当労働行為救済命令不履行に関する過料事件が同地方裁判所に係属中であり、
ハ 昭和五十年九月及び十月に申し立てられた二件の事件については、併合審査のうえ、昭和五十一年一月に不当労働行為救済命令が出され、宮入バルブはこの命令を不服として甲府地方裁判所に取消訴訟を提起し、同事件は、現在、同地方裁判所に係属中であり、
ニ 昭和五十一年二月に申し立てられた事件については、現在、山梨地労委に係属中である

と聞いている。
(2) 右のロ及びハの不当労働行為救済命令の内容の概要は、次のとおりである。

イ 宮入バルブが会社側交渉委員の交渉権限に一定の条件を付したうえで団体交渉に臨んだこと、労働協約を無視して従業員に退職要請勧告文を送付したこと、組合幹部を含む指名解雇予定者の選考を行つたこと等を不当労働行為であると判断のうえ、被申立人に対して、右の交渉権限に付した条件を撤回し、代表取締役自ら若しくは権限ある交渉委員をして誠意をもつて団体交渉をしなければならないこと、申立人との間に成立している労働協約を尊重し、希望退職の基準についても事前に申立人と協議して決めることとし、協議整わないまま退職募集を始め、かつ退職を強要したり、申立人組合の組織の破壊や分断を意図した人員整理等で支配介入行為をしてはならないこと等を命じたもの(昭和五十年五月二十四日決定)。
ロ 団体交渉の日時、時間、場所、交渉人員等に関する宮入バルブの言動、団体交渉の経過、いわゆるトツプ交渉の経過等を総合判断のうえ、被申立人らに対し、申立人との団体交渉に際し、いたずらに期日を延引せず誠意をもつてこれに応じなければならないこと、団体交渉の人員、時間及び場所について話合いにより決定しなければならないこと、組合側団体交渉委員の団体交渉出席経費の未払分を従前の例により支給すること、被申立人大山梅雄は、自ら申立人との団体交渉に応じ、又は権限を委任した者をして申立人との団体交渉に応じさせ、その経過及び結果について誠意をもつて対応し履行すること等を命じたもの(昭和五十一年一月十四日決定)。

2 裁判所に対する仮処分申請等については、昭和四十九年十二月から昭和五十一年一月までの間に、宮入支部等から、宮入バルブを被申請人等として、甲府地方裁判所に対して、昭和四十九年の年末一時金の支払い問題、労働協約への署名捺印問題等に関して、五件の仮処分申請等が行われ、これら事件のうち、四件については、和解が成立して取り下げられ、一件については、現在同地方裁判所に係属中であると聞いている。
3 労働基準監督機関に対する申告については、宮入支部役員から、宮入バルブにおいて労働基準法違反の事実があるとして、所轄労働基準監督署に対し昭和四十七年十月以降三件の申告が行われた。所轄労働基準監督署は、申告の都度宮入バルブに対して臨検監督を実施し、一件の申告については法違反は認められなかつたが、残りの二件の申告については労働基準法第二十四条等に違反する事実が認められたので、これを是正するよう勧告が行つたところである。
4 人権侵害の事実に関する申告については、宮入支部の組合員が、昭和五十年七月十一日に、宮入バルブを相手方とする申告書を甲府地方法務局に持参したので、右組合員から事情を聴取したところ、申告の趣旨は、宮入バルブが、(イ)昭和四十九年の年末一時金に関する協定を無視してその一部しか支給しない、(ロ)性による差別をした解雇を行おうとしている等であつた。しかしながら、右の申告事実については、既に関係地方労働委員会及び所轄労働基準監督署に対して申立て等が行われているとのことであり、各人に対する個別の具体的な人権侵害の事実の説明がなされなかつたので、同地方法務局においては、当面関係行政機関による判断を待つこととし、もし具体的な人権侵害の事実が発生した場合には改めて申告するよう助言した。

四について

 山梨地労委は、昭和五十一年一月十四日決定の不当労働行為救済命令において、いわゆるトツプ交渉に関しての大山梅雄氏の言動等を総合判断したうえ、同人が代表権を有する会長の職にあり、また会長の職が会社業務遂行上の役職でないとしても同人が絶大な権力を有しているとして、「会長としての大山氏は勿論、個人としても会社と資本的な、あるいは業務上関係があり、実質支配力を有し、かつこれらのような事実が行われる限りにおいて被申立人としての当事者適格を有するものと判断する。」と述べている。

五について

 大山梅雄氏と宮入バルブとの関係については、昭和五十一年三月十五日現在、同人は宮入バルブの役員ではなく、指摘のあつた株式会社津上(以下「津上」という。)との関係については、同人が代表取締役社長であると聞いているが、右の企業以外の企業と同人との関係については承知していない。
 また、大山梅雄氏に係る私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律違反の事実の存否については、現在のところ承知していない。更に、津上についての労使紛争又は労働関係諸法規違反の事実の存否については、労働基準法等に違反する事実が認められたが、それ以外については現在のところ承知していない。

六、七及び八について

 使用者は、労働組合法を遵守すべきことは当然であり、政府としては、かねてから都道府県当局の協力を得て労働組合法違反の防止に努めているところであるが、今後とも一層努力してまいる考えである。
 なお、使用者が労働組合法第七条の規定に違反する行為を行つた場合には、労働委員会が、関係労働組合等の申立てに基づき、当該使用者に対して不当労働行為救済命令を発するものとされており(労働組合法第二十七条参照)、また、使用者が確定した労働委員会の命令に違反した場合には、過料に処せられるものとされている(労働組合法第三十二条参照)。
 また、政府としては、これまで山梨県当局と緊密な連絡をとりつつ、関係者から宮入バルブの労使紛争に関して事情聴取する等の努力を行つてきたところであるが、今後においても労使当事者の自主的解決への努力を期待しつつ、紛争の解決促進のために採り得る諸措置について、更に検討を進めるとともに、労使の話合いを促進する等紛争の早期かつ円満な解決のために努力してまいりたい。