質問主意書

第77回国会(常会)

質問主意書


質問第二二号

沖繩県における米軍基地内の労働災害等に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十一年五月二十四日

喜屋武 眞榮   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   沖繩県における米軍基地内の労働災害等に関する質問主意書

 沖繩県における米軍基地は、日本全国のそれの五十三%を占めていることは周知の通りである。かかる米軍基地の存在とあいまつて、米軍基地の存在から生ずる基地労働者をはじめとする沖繩県民への人権侵害は絶えない。沖繩県議会が全会一致で「基地は諸悪の根源である」と断じているのもその故である。
 ところで、去る三月十二日に米陸軍牧港補給基地従業員の喜納昌秀氏が、臭化メチルを使つて軍需物資の害虫駆除のための燻蒸作業をした後、意識不明になり二週間も昏睡状態に陥つた。事故後の検査では、喜納昌秀氏の血液から五百PPM、他の従業員からは百PPMの臭化メチルが検出されたということである。このことは、米軍の安全衛生管理の劣悪さを如実に示しているものである。しかも米軍は、当初喜納昌秀氏の臭化メチル中毒を否定していたことは、無責任な犯罪行為といわざるをえない。幸い日本政府から派遣された三人の専門医の調査により、基地における臭化メチル中毒が原因であることが証明され米軍の当初の主張が覆えされたが、もしこの調査がなければ、事件はうやむやに終わつた可能性が強い。しかし、原因が明確になつて、米軍による補償や、労働基準局の労災認定があつても、喜納昌秀氏は現在も寝たきりで口も利けない状態であり、社会復帰ができるかどうかが気づかわれている。
 そこでこの事件をふまえ、次の諸点について質問する。

一 安保条約・地位協定によつて米軍に与えられた強大な権限が、国民その中でも沖繩県民の人権に脅威を与えているが、それについてどう考えているか。

二 独立国は、その主権に基づき、外国人、外国船舶その他の、自国への出入りを規制する権利を有するが、安保条約・地位協定は、米軍に対し出入国の自由を包括的に与え、日本の出入国管理令、検疫法等の適用がなく、したがつて主権の一部を放棄しているといわざるをえないと思うがどうか。

三 沖繩県の米軍基地から生ずる基地労働者をはじめとする国民への人権侵害は、日本政府がそれを黙認ないし黙過していることにもよると思うがどうか。

四 安保条約・地位協定について、政府は国益及び公共性が優先すると強調するが、国民主権憲法下の日本において、国民を犠牲にする国益及び公共性は存在しないと考えるがどうか。

五 政府が、安保条約・地位協定の存在を強調すればするほど、そこから生ずる犠牲は、基地周辺の住民にしわ寄せされてくることは、米軍とその演習が基地周辺の住民の生活を破壊していることにより証明されている。その反省がなければ、前述の喜納昌秀氏の例のような災害は後を絶たないと思うがどうか。

六 喜納昌秀氏に対する米軍の補償はどのようになされ、また補償額はいくらであるか。

七 喜納昌秀氏に対する労働基準局の労災認定はどのようになされ、またその額はいくらであるか。

八 政府は、かかる喜納昌秀氏の事件に類することが二度と起らないようにするため、いかなる具体策をもつているか。

  右質問する。