質問主意書

第77回国会(常会)

質問主意書


質問第二〇号

染料中間体(ベンジジン、ベーターナフチルアミン、ビスクロロ・メチールエーテル等)の製造及び使用に従事した従業員の被災救済に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十一年五月二十四日

峯山 昭範   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   染料中間体(ベンジジン、ベーターナフチルアミン、ビスクロロ・メチールエーテル等)の製造及び使用に従事した従業員の被災救済に関する質問主意書

 昭和三〇年代に始まつたわが国の高度経済成長政策は技術革新、産業の合理化によつて生産工程、生産方法とそれに伴う労働および労働条件、作業環境に急激な変化をもたらした。それらが同時に職業病あるいは健康障害について、量と質の変化さらには種類の大幅な拡大をもたらし、深刻な社会問題となつている。
 こうしたなかで、最近、染料中間体を製造使用の労働に従事していた労働者が膀胱ガン、肺ガンなどの職業ガンによつて死亡する事例があいついで発生している。いうまでもなく職業ガンは潜伏期間が長いうえにその原因や発生条件が必ずしも単純でないので、その発見から対策までに著しく長い年月が費やされてきた。それだけに職業ガン対策は迅速な情報の処理によつて手速くうたれなければならない。
 現在問題となつている染料中間体は、英国のICI社では、ベーターナフチルアミンが一九五二年に、ベンジジンについては一九六二年にすでに自主的に製造を中止しており、また英国政府は、一九六七年に「発ガン性物質取締規則」を制定し、これによつてこれら有害物質の製造、使用を禁止しているだけでなく製造、使用のための雇用の禁止をも実施している。しかるにわが国においては、ベンジジン及びベーターナフチルアミンがそれぞれ一九七二年一〇月、ビスクロロ・メチールエーテルが昨年四月に「特定化学物質等障害予防規則」によてつ製造がやつと禁止になつた。したがつて、わが国の染料中間体による職業ガン予防対策は英国など諸外国と比較して二〇年も遅れており、労働者の人命軽視の労働行政がこれまで行われていたことになる。
 そこで染料中間体による職業疾患は、発病までに一〇年から二〇年もの長年月を経過したのちに発病するという実態からみて、かつて製造と使用に従事してきた労働者の健康管理は「仕事によつてかかつた病気は完全になおさせる」という原則から当然企業と行政の責任によつて実施すべきである。
 このような観点から、これら従業員の補償による救済健康管理さらに職業ガン発生予防について政府に次の諸点にわたり質問するので明確にして誠意ある答弁を求める。

一 一九七四年の第五九回ILO総会において「がん原性物質及び因子による職業性障害の防止及び管理に関する条約」(第一三九号)と勧告が採択された。しかし政府は、この条約と勧告について、おおむね妥当であるが、わが国の実情に照らして若干の問題もあり、慎重に検討を加えるとして、この条約の批准に消極的な姿勢を示している。そこで政府は具体的にこの条約及び勧告についてどこに問題があつて批准をしようとしないのか、さらにいつ頃までに関係国内法を整備してこの条約を批准するのか明らかにせよ。

二 さきに述べたように、わが国において、染料中間体による職業ガンが起因で死亡する労働者及び疾病者が潜伏期間が長いことから今後多数発生すると予測される。そこで原因を明らかにし、労働者の健康管理を徹底させるためにも、わが国における染料中間体の製造企業名と製造企業別に製造開始と中止の時期、またわが国の年次別及び製造企業別の生産量、これら製品の市場における商品名さらにこの商品を販売した卸売企業等の企業名を明らかにされたい。

三 次に染料中間体を輸入した業者名、輸入の開始と終了の時期、またわが国の年次別の輸入実績量、さらに、輸入先のメーカー名を公表すること。

四 染料中間体のユーザー企業名の一覧表と年次別の各企業の使用量を明らかにすること。

五 染料中間体を使用した企業におけるその使用方法、工程等の状況を明らかにすること。

六 染料中間体の製造、ユーザー、輸入の各部門の企業で実際に従事した労働者数を明らかにするとともに、特に製造、ユーザー部門の企業名別の従業員数を明確にすること。

七 政府が染料中間体の製造を許可した理由及び製造を中止した理由についても詳細かつ明確に説明すること。

八 米国、英国、西独等の諸外国において染料中間体が起因である職業ガンの発生状況、被災者に対する政府、企業の生活補償制度の内容さらに米国、西独において製造が禁止となつた年度について詳細に報告せよ。

九 現在労働省は、染料中間体の製造、使用に従事した従業員の健康管理をどのように実施し、また、すでに企業を退職した従業員についての追跡調査によつて、どの程度の人数と健康状態を個々にどの程度把握しているのかその実態を明らかにすること。

十 全国各地に散在している職業ガンによる死亡者及び疾病被災者の員数とこれら被災者に対する労働者災害補償保険制度及び企業の責任による独自の生活補償の実態を明らかにせよ。

十一 職業ガンにかかわる争訟の事例があるか、もしあればその概要を示せ。

十二 これら被災者らの救済のために今後政府がとるべき措置を具体的に明らかにすること。

  右質問する。