質問主意書

第76回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二号

身体障害者の雇用確保に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和五十年九月二十二日

峯山 昭範   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   身体障害者の雇用確保に関する質問主意書

 昭和三十五年に身体障害者雇用促進法が制定され十五年を経過している。その間に政府は、同法によつて、身体障害者雇用率の設定とそれに基づく身体障害者雇用の勧奨、公共職業訓練、職場適応訓練の実施、身体障害者雇用奨励金の支給、身体障害者を多数雇用する事業所に対する特別融資など雇用の促進措置を行つてきた。
 しかし、身体障害者雇用促進制度は、制度上の欠陥、予算措置の不充分に加えて、大企業をはじめとする企業側の無理解によつて、労働を希望しながら就職できない身体障害者が多数存在する実情にある。
 さらに減速経済下にあるわが国の雇用情勢は、相当に厳しく、ここ当分続くものと予測されこのままではますます身体障害者の雇用の確保が一層困難になることは明らかであり身体障害者の労働権のみならず生存権をも奪われる深刻な事態に直面し、三木内閣の社会的不公正の是正方針とは逆の方向に進んでいる。
 よつて次の諸点について、政府の明確な見解と施策についてただすものである。

一、昭和四十七年の労働省調査によると、わが国の十八歳以上の心身障害者は一七二万人、そのうち未就業者は九三万人にも達している。
 こうしたなかで、現行の身体障害者雇用促進法は、障害者の雇用率を、民間一・三%、非現業官庁一・七%、現業官庁一・六%と定めているが、これらの法定雇用率はただたんに努力目標ないしは道義的な規定にとどまり、これを守らなくても、とくに企業にとつて不利になるようにはなつていない。
 その結果、法定雇用率の未達成企業が、全体の三六%にも及び、しかも大企業ほどその割合が高くなつている。こうした実態から、身体障害者の雇用を促進強化するために、「身体障害者雇用促進法」を抜本的に改正し、法定雇用率未達成企業に対して、罰金等の罰則適用をはじめ、現行法定雇用率を引き上げる。また雇用率は企業規模に応じて段階的に設定し、企業の社会的責任を明らかにすべきである。

二、政府機関全体としてみると法定雇用率は達しているが、個々の省庁の雇用実態をみると沖繩開発庁、外務省をはじめ八省庁が雇用ゼロとか著しく低いことが本年二月二十六日の参議院決算委員会での私の質疑で明らかになつた。
 そこで政府が本格的に身体障害者の雇用を促進させようと民間企業を指導するのなら、政府自らが法の精神を守らなければ指導する資格も説得力もない。
 法定雇用率が著しく低い(特に雇用ゼロの)省庁の雇用改善計画と、その実施状況を明らかにし、さらに、現行の非現業官庁一・七%、現業官庁一・六%の法定雇用率を引き上げる必要がある。

三、身体障害者の民間、官庁の法定雇用率達成の中味を吟味すると比較的軽度の身障者で占められていることが分る。
 したがつて、中度ないし重度の身体障害者については、いぜんとして就職は困難となつており、しかも未就職者が滞留化しつつある現状である。こうした現状を是正するための具体的かつ強力な施策が急務である。
 そこで現在の民間及び官庁における中度及び重度の身体障害者の雇用実態を明らかにするとともに、身体障害者雇用促進法を改正して、中度ないし重度の身体障害者の雇用の義務化をとくに明確にする必要がある。

四、身体障害者雇用促進法第十四条によると公共職業安定所長は、身体障害者の雇用を促進するために「特に必要があると認めた場合」には、雇用率未達成で一〇〇人以上の労働者を使用する企業に対して、障害者の雇い入れに関する計画書の提出を命ずる権限がある。
 しかし、この権限が行使されて、雇用促進の行政指導が徹底されていれば今日のような身体障害者の雇用不安はいくぶんなりとも解消していたと思われる。
 そこで今後企業に対して計画書を提出させることができる第十四条の職業安定所長の権限を最大限に行使し身体障害者の雇用を保障すべきであるが、この行政姿勢を明らかにされたい。

五、現在、身体障害者の雇用促進の行政指導の対象となるのは、七七人以上の労働者が働く事業所である。こうした行政指導の下では、金融業を中心とした大企業の支店、営業所の規模がこの基準以下であるなら実質的に行政指導の対象にならないといつた“しり抜け”になつている。
 このような不公平な弊害をなくすために、事業所単位の行政指導を改め、企業単位の法定雇用率の設定と行政指導を強化すべきである。

六、昭和四十六年の厚生省の精神薄弱者実態調査によると、十五歳以上の精神薄弱者の数は約十九万四千人でそのうち就業者は約六万四千人就業率三三%となつており、その就業率は身体障害者の就業率六〇%に比較してかなり低くなつている。
 この大きな原因の一つに、精神薄弱者は、いぜんとして身体障害者雇用促進法の外に置かれているからである。精神薄弱者の判定、労働能力の評価など技術的な問題があるとしても今後精神薄弱者についても、身体障害者と同様の措置を講ずる必要がある。

七、現在、事業主に対する雇用助成措置として心身障害者雇用奨励金制度があり、一人一カ月一〇、〇〇〇円(重度障害者の場合は一二、〇〇〇円)、支給期間十二カ月(重度障害者の場合は十八カ月)となつている。
 この程度の予算措置で雇用促進がなされると期待するのは無理である。雇用義務の強化を進めることとあいまつてさらに十分な予算措置を講ずるべきである。

八、さらに身体障害者の職場適応訓練についてみると、現行制度では、都道府県知事が、民間事業主に委託して訓練期間中に、訓練生に対して、月額五四、〇〇〇円の訓練手当を支給し、訓練を行う事業主に対して、委託費(一カ月九、〇〇〇円、重度障害者の場合は一カ月一〇、〇〇〇円)が支給されている。しかし、今日の物価水準のなかでこの程度の訓練手当と委託費で障害者が安心して、一般労働者と同様に働き得るまで職場に対する適応性を高め、訓練終了後は事業所に引き続き雇用してもらうことは、はなはだ困難といわざるを得ない。こうした実態について政府はどのような改善処置を講ずるのか。

九、身体障害者の職域の拡大と職業訓練の充実が、急務となつている。身体障害者の職業訓練は、現状ではきわめて不十分である。さらに職業訓練体制の不備とあわせて、就業が可能な職域の開発研究も遅々として進んでいない。
 今後とくに重度の身体障害者の能力を積極的に開発し就業の場を拡大するために、抜本的な施策の展開が必要である。政府の具体的な対策を伺いたい。

一〇、最後に身体障害者の雇用を促進させるためには、政府、企業のみならず国民的課題として、とりくまなければならない。そのためにはややもすると偏見をもつて、身体障害児者問題ととりくむ姿勢を是正するために初等教育の場から身体障害児者に対する正しい教育の普及が必要であるが、政府の具体的な教育施策と方針を明確にし誠意ある答弁を期待する。