質問主意書

第72回国会(常会)

答弁書


答弁書第一一号

内閣参質七二第一一号

  昭和四十九年三月二十六日

内閣総理大臣 田中 角榮   


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員藤原房雄君提出沿岸漁業振興対策に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。


   参議院議員藤原房雄君提出沿岸漁業振興対策に関する質問に対する答弁書

一、について

 政府としては、今後とも国民の消費する動物性たん白質の過半を水産物により供給していくという基本的な目標のもとに我が国漁業の振興に努めているところである。
 特に沿岸漁業については、沿岸漁業構造改善事業、栽培漁業振興対策、漁業公害対策等各般の施策を鋭意実施してきたところであるが、更にこれらの施策を総合的、計画的に実施し、沿岸漁場の積極的な整備開発を図り、もつて沿岸漁業の安定的な発展と水産物の供給の増大に寄与する見地から、所要の法制措置を講じることとし、「沿岸漁場整備開発法案」を今国会に提出しているところである。

二、について

(一) 有害物質に汚染された底質の除去については、水銀について昭和四十八年八月暫定除去基準を定めたところであり、PCBについても近く暫定除去基準を定めることとしている。これら底質の処理方法については二次公害を極力防止することを目途に鋭意検討中である。
 また、赤潮の発生の基盤の一つと考えられるヘドロについては、二次公害防止除去技術の事業化試験を昭和四十八年度から計画的に実施しており、漁場の改良復旧を行うための基礎資料を得るため、昭和四十九年度において瀬戸内海のヘドロの堆積量、分布状況等の調査を行うこととしている。
 港湾区域内の汚染底質の除去については、公害防止計画に定めのあるもの又は自治大臣が指定したものについて昭和四十七年度より港湾公害防止対策事業として国庫補助により実施しており河川及び湖沼の汚染底質の除去については河川環境整備事業として実施しているところである。
 なお、汚染底質の除去の事業が、漁場として整備開発すべき区域で行われる場合には、漁場の整備開発のための事業が、一体的に行われることが必要であると考えている。
(二) さきに、政府においては、瀬戸内海環境保全審議会の答申を得て、瀬戸内海沿岸の十一府県の汚濁負荷量の限度量を定めたところであり、この限度量を達成することにより、同水域の水質はかなり改善されることが期待される。
 政府としては、この限度量を三年以内に達成するよう、十一府県に対し、できるだけ速やかに上乗せ排水基準の設定・見直しを行うよう指導しているところであり、また、企業の新規立地も厳しく制限していくこととしている。
 また、政府としては、瀬戸内海のみならず他の海域についても、水質汚濁防止対策の強化の一環として、総量規制方式をできるだけ速やかに導入することとし、現在、その検討を進めているところである。
(三)(1) 沿岸水産資源開発区域の指定は、現在北海道の六区域について行われている。その他の海域については、海面利用の総合的な調整等を図り、早期に必要な区域について指定が行われるようその進捗に努めてまいりたい。
   (2) 沿岸水産資源開発区域においては、沿岸水産資源開発計画を策定して、水産動植物の種苗の放流、漁業生産基盤の整備及び開発、水産動植物の生育環境の保全等を推進することにより漁業生産の増大を図ろうとするものであるが、もともと他の目的のための海洋の利用を排除するものではない。しかし、沿岸水産資源開発計画の推進に当たつては、他の目的のための利用との調整を図ることにより効果的にこれを行う必要があるので、海洋環境を恒久的に変更するような一定の行為についての都道府県知事への届出及び必要な場合における都道府県知事の勧告の制度を設けているところであり、これにより所期の目的は、達し得ると考えている。

三、について

(一) 沿岸漁業構造改善事業については、従来よりその円滑な実施に努め、その実効を期しているところであり、昭和四十九年度については、沿岸漁業構造改善対策事業経費の予算を前年度の二十六億円から三十二億円に増額することとしている。更に本事業を推進するための農林漁業金融公庫資金の貸付枠を前年度の四十二億円から四十八億円に増額し、貸付限度額についても、その引上げを予定しているところである。
 政府としては、今後とも、沿岸漁業の振興を図るため、本事業をより実効あるものにするよう努めてまいる所存である。
(二) 沿岸漁業構造改善事業の地域指定については、昭和四十九年度においては従来の十二地域から十八地域に増加する予定であり、今後とも、沿岸漁業の振興を図るため、本事業の促進に努めてまいる所存である。

四、について

(一) 政府としては、海洋水産資源開発促進法に基づき、昭和四十六年十月に海洋水産資源開発基本方針を定めており、この基本方針に基づいて栽培漁業の推進と養殖漁場の造成等の諸施策を講じてきたところであるが、今後ともこの種の施策について総合的、計画的に推進して、沿岸漁業の振興に努めてまいりたい。
(二) 栽培漁業振興施設は種苗生産のための機能を中心とする総合的生産施設であり、海域によつて対象魚種、生産目標量が異なり、施設の種類も陸上施設から海中施設まで広範多岐にわたつている。
 これらの設計調査、実施設計書の作成及び施設の建設を効率的かつ円滑に行うため、三年をめどとして実施することとしているものである。
(三) 御指摘のように今後増養殖を進めるべき沿岸漁場の広がりは、増養殖技術の進展等に伴い徐々に広域化してゆくことも見込まれる。
 沿岸漁場においては、その相当部分が、漁業権漁場として漁業協同組合の管理のもとにあるが、漁業権漁場以外の水域についても沿岸漁業の振興の観点からその適切な利用の確保に努めてまいりたい。
(四) 増養殖漁場の広域化に伴い、従来から農業土木試験場その他の協力により、防波柵、防波潜堤等の漁場造成技術及び中底層利用養殖施設を含む耐波性養殖施設技術の開発を進めてきたところであるが、今後とも関係研究機関の整備充実を図り、浮消波工等漁場造成、改良のための新しい水産土木技術の開発を行うとともに、これに対応する魚介類の増養殖技術の開発に努めることといたしたい。
(五)(1) 日本周辺の海況については、国の水産研究所と都道府県の水産試験場が共同して、調査船による定期的観測を実施しており、異常冷水の沿岸漁業への影響が懸念されるような場合には、これらの関係機関が連絡を取りつつ観測を強化し、必要に応じそれぞれの水産試験場が直接関係沿岸漁業者への通報及び指導を行つている。
 漁業情報サービスセンターは、主として沖合漁業者を対象として、ファックス、無線電信、電話等により漁況及び海況の変化を漁船向けに迅速に通報しているが、また、その情報は印刷物として漁業経営者、市場関係者等に配布しているほか、週二回ラジオにより広く一般にも通報している。
 日本周辺の海況の観測、通報体制については、今後も関係省庁間の連携を緊密にしつつ、観測技術、情報処理技術の進歩に応じて一層充実してまいりたい。
   (2) 冷水塊による漁業被害が生じた場合には、漁業災害補償制度によりそれぞれその損失が補てんされるところである。
   (3) 漁業災害補償制度は、昭和三十九年の発足以来、昭和四十二年度に政府の漁業共済保険事業の創設等の改正を行つたが、なお最近における漁業実態の変化等に即応し得るよう改善を図ることとし、今国会に漁業災害補償法の一部を改正する法律案を提出したところである。なお、漁業資材費の高騰に対しては、なお今後の推移を十分に見きわめつつ、実態に即した共済限度額等の算定方法等について検討してまいりたい。
(六) 噴火湾内海域は、沿岸漁業に適した漁場であり、近年、ほたて貝、こんぶ、わかめ等の増養殖が急速な進展をみせており、今後とも沿岸漁場として重要である。このため、北海道は、昨年十二月二十一日付けをもつて同海域を海洋水産資源開発促進法に基づく沿岸水産資源開発区域に指定したところである。政府としては、従来から同海域につき沿岸漁業構造改善事業を実施しているところでもあり、今後とも同海域における増養殖を積極的に推進することにより、生産の増大と漁業所得の向上に努めてまいる所存である。
 また、沿岸海域における他産業の開発利用に当たつては、公害関係法令の厳正な実施と海洋水産資源開発促進法の適正な運用により優良漁場の確保と漁場環境の保全に支障のないよう努めるほか、地元関係漁業者等の意向を尊重しつつ、事前に十分な調整を行う等その指導に遺憾なきを期してまいりたい。

五、について

 農林漁業金融公庫の一部漁業資金については、昨年十一月十日と本年二月一日の二度にわたり金利引上げが行われたが、これは、最近における経済動向の変動に対処して総需要の抑制を図り、物価の鎮静に資するため、公定歩合の引上げ及びこれに伴う一般市中金利の引上げにあわせて、政府関係金融機関の金利引上げの一環として行われたものであり、今直ちにこれを元の金利に引き下げることは考えていない。
 漁業近代化資金についても、このような金融情勢の変動及び漁協系統機関の信用事業の実勢を勘案し、本年二月一日に政府関係金融機関の金利引上げにあわせて末端金利の〇・五%引上げが行われたものである。
 なお、最近における石油及び漁具等の価格の上昇によつて漁業経営が苦しくなることが予想されるので石油その他の漁業用資材の安定した価格による確保に努めることとするほか、所要の対策について現在検討中である。

六、について

(一) 昭和四十九年度予算は、総需要を抑制し、物価の安定を図るため厳にその規模を抑制することとして編成しており、公共事業関係費予算についてもその一環として規模の圧縮と既定の長期計画についての進度の調整を図つているところである。このため、公共事業関係費全体としては、前年同額以下に抑制しているが、漁港整備事業については、これが漁民生活と漁業生産の基盤となる事業であることにかんがみ前年度に対し約九%の増額を図つている。
 今後とも、漁港整備事業について所要の予算の確保に努めるとともに、経済事情、漁業生産の動向等に即応して漁港整備計画の推進に努めてまいりたい。
(二) 第三種漁港の国の負担割合の引上げについては、従来から検討を続けてきたところであるが、他の類似の公共事業との関連等もあるので、差し当たつては極力事業の促進に努めることとし、引き続き類似の公共事業との関連を考慮しつつ検討してまいりたい。

七、について

 政府としては、日本水難救済会の救助協力業務を促進するため、これまで海難救助器材の無償貸与を昭和四十年以降、毎年度実施しているほか、郵政省、日本船舶振興会等からの補助金等により救助船の建造、救難器材の整備、出動手当の支給等積極的な育成策を講じている。
 また、救助作業中の救助員の災害に対しては、「海上保安官に協力援助した者等の災害給付に関する法律」によつて、補償措置を講じている。

八、について

 ソ連漁船の日本近海への進出に伴い、水産資源の保護、日本側の漁具被害等の問題が生じている。
 このような事態に対処して、政府としては、操業秩序の維持及び水産資源の保護については外務省を通じてしかるべき処置を採るようソ連側に申し入れている。
 また、漁具被害については、被害発生の都度外務省を通じソ連側に対し、被害事実を指摘するとともに、注意を喚起してきたが、昭和四十七年十一月に日ソ両国の専門家による会議を開き、両国の操業状況の情報交換のほか、漁船漁具の標識、損害の処理方法、漁船間の操業方法等について幅広く討議を行つた。しかしながらこれらの問題については日ソ双方とも、なお種々検討すべき事項が多いため、引き続き双方において検討することとなつた。
 なお、昭和四十九年度においては、関係道県が行う漁具標識設置事業に対し助成を行うこととしている。