質問主意書

第72回国会(常会)

質問主意書


質問第一一号

沿岸漁業振興対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十九年三月十五日

藤原 房雄   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   沿岸漁業振興対策に関する質問主意書

 本年六月、ベネズエラのカラカスで開催される第三回国連海洋法会議では、準備会議の結果からみて、発展途上国等による二百カイリ排他的経済水域論がその大勢を占めるであろうことが確実視されている。また、その結論が同会議において得られなかつたとしても、国際的にみて早晩、これらの主張が優勢となつてゆくことは避けられない状況にある。仮に、二百カイリ排他的経済水域が設定されると、わが国の総漁獲量は現状より半減することが予想されている。一方、国際的な食糧事情の悪化の予測とも相まつて、漁業資源の確保は緊要な問題となつている。これらの事態に処して、政府は、発展途上国に対し、技術や経済面での協力、ならびに合弁事業の推進などによつて海外漁場の確保や開発輸入の促進を図ろうとしている。しかしながら、それらの対策に全幅の期待をかけることは、開発途上国における国内需要の増大からも困難なことが十分予想される。一方、わが国沿岸漁業の現状は、長期にわたる重化学工業優先の高度経済成長政策によつて埋立てや汚水、廃水などにみられるように、漁場を著しく荒廃させ、しかも、水銀、PCB等による水質汚濁が深刻化し、このまま放置するならば、わが国の沿岸漁業生産の停滞長期化はまぬがれず、関係漁業者の生活権はもとより、国民の食生活にまで深刻な影響を及ぼすことは明らかである。
 したがつて、沿岸漁業振興のための総合的かつ抜本的な対策は今や緊要な課題となつている。
 よつて、次の諸点についての政府の見解を明らかにされたい。

一、基本政策について

 わが国漁業を取りまく国際環境の緊迫化や国内の畜産生産停滞などと相まつて、沿岸漁業の振興は沿岸漁業者の保護育成と国民食糧の安定確保という観点から緊要の課題であるが、政府は長期的展望に立つた沿岸漁業振興計画と沿岸漁業生産目標を如何に設定しているか。

二、汚染漁場の復旧、開発について

(一) 汚染漁場におけるヘドロ等堆積汚染物質に関しての除去技術の開発が遅れているため、除去作業の事業実施も著しく遅れている現状であるが、今後の除去計画はどのようになつているか。また、こうした除去にあたつては、漁場造成、漁場再開発も有機的に結合して作業を実施してゆく必要があると思うが、この問題に対する政府の方針を明らかにせよ。
(二) 去る一月三十一日に、瀬戸内海環境保全審議会から、昭和五十一年秋までに瀬戸内海に流入する汚染物質の量を、現在の半分に減らすための海の総量規制案が答申されているが、この基準は、沿岸漁業の立場からみて、十分なものといえるか。また、この目標値達成のために、政府は、企業と自治体に対し、どのような方針でのぞんでいるか。
 また、瀬戸内海以外の海域についても、このような規制について、年次を決めて実施してゆくべきであると思うがどうか。
(三)(1) 第六十五回国会で成立した海洋水産資源開発促進法に基づく沿岸水産資源開発区域の指定が著しく遅れているが、その原因は、どこにあるのか。また、今後の対策について明らかにされたい。
   (2) また、最近の情勢からみて、海底の掘削、形質の変更等については届出制というゆるい規制では不十分であるので、許可制に切り替えるように法改正すべきと思うが、政府の見解はどうか。

三、第二次沿岸漁業構造改善事業について

(一) 第二次沿岸漁業構造改善事業については、国費を大幅に増額し、補助率のアップ、融資枠の拡大、融資条件の緩和等を図り、より実効あるものにすべきと思うが政府の見解はどうか。
(二) 来年度予算案では、新規計画樹立指定地域を従来の十二地域から十八地域に増加しているが、沿岸漁業振興という観点から、さらに指定地域を増やすとともに、事業の繰り上げ実施など行なうべきだと思うがどうか。

四、栽培漁業、養殖漁業の振興対策について

(一) 栽培漁業、養殖漁業は、今後、沿岸漁業のなかで中心的役割を果たしていくことが期待されている。栽培漁業、養殖漁業の振興のための政府の基本方針ならびに振興計画を明らかにされたい。
(二) 栽培漁業センターの建設並びに諸施設の造成期間は、従来二年であつたが、来年度予算案では三年としたが、その理由を明らかにされたい。
(三) 昨年九月に資源調査会海洋資源部会がまとめた報告によると、今後、わが国の栽培漁場、養殖漁場は沖合化する必要にせまられている。
 それに伴つて多額の資本投下の必要から大規模経営が優位を占めていくものと思われるが、この点に関する政府の見解を明らかにされたい。なお、この漁場における管理、運営を沿岸漁業者の手に任せる体制を確立すべきだと思うが政府の考えを明らかにされたい。
(四) 沖合化に伴う水産土木技術の開発、対象魚介類の研究等の体制は、今のままでは不十分だと思うがその整備方針を明らかにせよ。
(五)(1) さる四日、海上保安庁は今年の冷水域は、平年より四五〇キロ、福島県磐城沖まで達していると発表している。冷水域に入つた沿岸漁業者のうち、特に養殖漁業者は冷水塊の動きを早期に的確につかむ必要があるが、気象庁の発表を「漁業情報サービスセンター」を通じて各漁協へ通報するので、二十日から一ケ月遅れて伝わり沿岸漁業者はその恩恵によくしていないのが現状である。情報の迅速化のために各水産試験場にテレックスを設置し、情報の流通を速やかにすべきと思うがどうか。また、観測用ロボットブイの各漁場への設置、海水異常発生時の際の関係自治体と試験研究機関と関係業界による対策協議機関の設立、科学的方法による予知、予報の確立を早急に図るべきと思うがどうか。
   (2) 冷水塊等の影響により、コンブ、ワカメ、ホタテ貝等の成育不良により漁業者の収入が激減することが予想されるが政府はいかなる救済策をとるのか。
   (3) 漁業災害共済制度を現状に見合うよう抜本改正すべきと思うが政府の具体策はどうか。また、新たにおこつた漁業資材費の高騰に対して、漁業災害補償制度をどう対処させるつもりか。

(六) 北海道の噴火湾は養殖漁場として最適地であると考える。現在、北海道電力伊達火力発電所建設地となつているが地元住民から建設を反対されている。噴火湾の重要性を漁業育成の立場から政府はどのようにとらえているか。また、漁業資源の減少するなかで好漁場を壊廃し、漁民生活を無視して企業の進出を図るのか明らかにされたい。

五、金融政策について

 政府は、このほど農林漁業金融公庫の一部漁業資金の金利引上げを行なつたが、石油並びに漁具類等の価格の暴騰と供給量の不足が漁業者に深刻な打撃を与えている。ただちに金利をもとの水準以下に引き下げるとともに、漁業経営の救済対策を急ぐべきと思うがどうか。また、最近、漁業近代化資金の基準金利が〇・五%引上げられたが、政府は利子補給を強化し、末端金利をすえ置くべきだと思うがどうか。

六、漁港整備について

(一) 漁港整備は著しく立ち遅れており、漁業生産拡大の大きなネックになつている。
 しかるに、来年度予算案では、漁港整備関係予算は、わずかに九%の伸びにとどまつているが、資材費、人件費の高騰で実質的には大幅後退である。
 これでは第五次整備計画の計画期間内達成が、ほとんど不可能になつたのではないか。
(二) 第三種漁港の修築事業の補助率アップが、長いあいだ漁業関係者から要望され続けていながら、いまだに実現をみていない。来年度予算案でも見送られているのはどのような理由によるものか。今後の見通しはどうか。

七、海難救助対策について

 日本の漁業人口は、その大部分が沿岸零細漁業者で占められている。それだけにわずかなシケでもすぐ海難に結びつく場合が多い。その救済は、漁民の互助精神にゆだねられ、漁民参加で“水難救助会”を作つている。しかし、この会員の身分は保障されていない。政府はこれ等の人命救助にたずさわる人達に対する出動手当の支給、救難活動に伴つて発生する事故に対する補償等、身分保障を確立するとともに、救助用具その他救助体制の確立を図るべきであるがその意志はあるか。具体的所見を示されたい。

八、外国漁船団による日本沿岸での操業問題について

 外国漁船団が北海道沿岸から三陸沖にかけて大々的に出漁し、沿岸三カイリまで接近して多大な漁獲をあげ、わが国沿岸漁業者に大きな打撃を与えているが、政府は、これらの沿岸漁業者を保護するため如何なる措置を講ずるのか具体的対策を明らかにせよ。

  右質問する。