質問主意書

第72回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

新幹線沿線の病人救済対策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十九年二月十五日

須原 昭二   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   新幹線沿線の病人救済対策に関する質問主意書

 名古屋市内の新幹線沿線に居住する住民は、昭和三十九年十月の新幹線開通以来、騒音、振動、風圧、日照権侵害、テレビ障害等により生活環境を破壊され、多くの健康障害者さえ出している。そのことは発生源の日本国有鉄道はもとより、環境行政をあずかる環境庁及び国鉄の監督官庁である運輸省においても充分認識されているはずである。
 わけても八〇ホンから一〇〇ホンに達する騒音、一・〇ミリから三・五ミリに達する振動は、健康な成年層にとつても耐えがたいものである。(なお振動にかかる前記の数値は屋外値であり、人間の居住する屋内においてはその二倍の数値に達すると各種の調査資料が示している。)八〇ホンから一〇〇ホンの騒音は地下鉄電車内の騒音から国電のガード下の騒音に匹敵するものであり、また一・〇ミリから三・五ミリの振動は震度二ないし三に達する地震と同程度に感じると沿線住民は訴えている。
 なかでも沿線の病人、老人、妊産婦、乳児などもつとも安静を必要とする住民にとつてその苦痛は受忍限度を超えている。
 既に名古屋市内の当該地域の老人がこの二年間に五人も亡くなつており、その一人は「新幹線の下で死にたくない」という言葉を残して亡くなつている。
 昨年の四月二十九日、この現状に耐えかねた住民が、名古屋市内の明治小学校において、環境庁、運輸省、国鉄に対し二十四項目の公害対策を質した中で、この病人救済対策にふれ、国鉄新幹線総局松原環境管理室長は、「国鉄としても放置できない、具体的なことについて相談したい」と住民に答弁した。
 次いで同年六月十七日、新幹線総局環境管理室谷田部補佐と住民代表は新幹線の公害に苦しむ沿線の病人救済対策について次のような四項目の合意に達した。

 四十八年六月十七日の四項目の確認事項
   新幹線沿線の病人救済対策について

一、(救済対象区域)

 新幹線の騒音、振動により病気になつた人もしくは、安静療養ができない病人の居住地域。

二、(救済受付)

 口頭、又は書面で(当面保線所が)受けつける。

三、(救済内容)

 四十八年六月十七日現在より将来にわたつて転地療養を含む医療費の実費を負担する。

四、(救済期間)

 診断書に記載された療養を要する全期間とする。

 発病時が四十八年六月十七日前であつても六月十七日以後においてなお療養を要する者については、発病時からの全期間をみる。
 ただし六月十七日前に療養が終つた者についての取扱いは、この場で回答できないので後刻回答する。
 以上の合意にもとづいて、沿線住民は今日まで十一人が病人救済対策を新幹線総局名古屋保線所環境管理課を通して文書で申請したが、いまだに何らの救済対策がなされないで放置されている。
 なお、十一人の申請者のうち、新幹線直下に居住する名古屋市熱田区四番町水野よしさん(七四歳)は病状の悪化に耐えかね本年一月十五日頃名古屋市内の娘宅に避難し、同年二月一日亡くなられた。
 伝えられるところによると、国鉄当局は、新幹線との因果関係が明らかにならなければ救済対策はとれないといつている由である。
 このような事態にもとづいて次の事項について質問する。

一、国鉄当局は、四十八年六月十七日の四項目の確認事項について承知しているのか。

二、住民の救済申請にたいし国鉄当局は事情聴取をしたのか。また如何なる回答を申請人に示したか。その具体的な救済対策について示されたい。

三、六月十七日の会談の際に回答が保留されていた「六月十七日前に発病し、療養期間が同日前に終つた病人」に対する救済をどうするのか。

四、申請後死亡された水野よしさんに対し、国鉄当局が何らの救済対策を講ずることなしに放置したことの責任をどうとるのか。

五、現在までの申請人及び今後の申請人に対し如何なる措置を講ずるか明かにされたい。

  右質問する。