質問主意書

第72回国会(常会)

質問主意書


質問第五号

家族計画の指導方法の改善と経口避妊薬の承認に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十九年一月二十八日

須原 昭二   


       参議院議長 河野 謙三 殿


   家族計画の指導方法の改善と経口避妊薬の承認に関する質問主意書

 本年は、国連が決めた“世界人口年”であつて、八月に予定されている第三回の世界人口会議では、“一人あたり資源需要の著しく高い先進諸国においては可能な限り早期に人口増加率ゼロを達成する”といつた政策勧告が議題になるといわれている。
 我が国の人口増加率は、既に一%に近い水準となつていて、人口調節が成功している国として評価されている。
 しかし、その手段に問題がある。多くの部分が人工妊娠中絶に依存しているからである。人工妊娠中絶の数は、政府の報告でも四二年以降七〇万台を割ることなく、四七年も七二六、八三五件を数えている。しかも四四年十二月に行われた実態調査の結果等を総合して推定される実数は二〇〇万件に近いといわれている。この数字は、妊娠可能女性の四二%が中絶の経験者であるという悲しむべき実態を示している。そしてその四六%が家族計画避妊の失敗からという理由をあげているのである。
 世界の諸国では、避妊の方法を指導する順序を、その効果の確実性からみて、1 経口避妊薬(いわゆるピル) 2 IUD(いわゆるリング) 3 コンドーム 4 オギノ式 としているのに、我が国では、諸外国で第一順位となつている経口避妊薬の使用を公式に認めていない。
 しかし実際には、月経異常等の治療薬として発売されている女性ホルモン製剤が、医師の投薬によつて、避妊の目的に使用され、その服用者は五〇万人にのぼると推定されている。
 現実には、このように避妊の目的にひろく使用されているにもかかわらず、それが薬事法による承認を受けられないために、日本人に合う経口避妊製剤の研究開発が阻まれている。
 そのために

(1) 長期連続服用の場合にはより少い成分含量でよいにかかわらず、短期間の治療剤としての成分を含む製剤を服用せざるを得ないことになつている。
(2) 女性ホルモン製剤を避妊目的に使う場合には、“各人の体格、体質に適合するもの”を服用するということが肝要である。このためアメリカでは二二種類もの経口避妊薬が開発されているのであるが、我が国の女性ホルモン製剤は、わずか六種類しかない。これでは、安全要件を十分に満たすことができない。
(3) やむを得ず欧米の製剤を使つている医師もあるが、それでは、欧米女性に比して体格が小さく、また体質の違う日本人には強すぎることになる。

 などの諸点から、服用者の体に不当な負担がかけられている。
 以上のような実態にかんがみ、

一 避妊の失敗から生じている多くの好ましからざる人工妊娠中絶を防ぐために、また、日本人の体格体質に適合する製剤の研究開発を促進するために、世界の動向に応じて、我が国においても、経口避妊薬を正式に承認すべきであると考えるがどうか。

二 女性ホルモン製剤が避妊の目的に使用されることを正式に承認しない理由として、“各種の障害を生ずる可能性”があげられている。同製剤が欧米諸国において、経口避妊薬として発売が認められてから十七年を経過し、現にその服用者は五、〇〇〇万人にのぼるといわれている。しかも危惧された血栓症のおそれについては、国際家族計画連盟中央医学委員会がこれを否定し、またがん発生のおそれについては英国医薬品安全委員会がこれを否定している。
 政府は、諸外国での副作用情報にのみ頼るのでなく、我が国内で五〇万人にのぼる女性が避妊目的で服用しているという現状に対処して、危惧される副作用の把握について、どのような追跡確認の体制をとつているのか。また、もし採つているのであれば、今後もなお禁止をつづけなければならない根拠となる副作用の具体例を示してもらいたい。

三 昭和四十八年十二月十一日付の答弁書において、“薬事法により承認されている効能効果以外の効能効果に着目して、医薬品が使用されることは法の禁じているところではない”とあるが、そういうことであるなら、医薬品の製造業者は、申請する場合には、もつとも承認されやすい効能効果を掲げて製造承認を受けておき、その後に実際の使用目的を他の分野にひろげていくことが許されることとなつて、薬事法が効能効果を薬品ごとに限定する意味はなくなつてしまうのではないか。薬事法の製造承認と医薬品についての効能効果との関係を明確にされたい。

四 同答弁書において、“女性ホルモン製剤を薬局から購入することが可能となるよう、医薬分業の本旨にかんがみて、今後とも指導する”と述べられているが、そのことは、現に発売されている女性ホルモン製剤についても、医師が避妊目的に使用する旨の指示をすれば、その“指示”によつて、薬局から購入できるようにするという趣旨を含むものと理解する。しかるところ、その“指示”に関しては、薬事法に定められているのみで、医師法にその交付義務を課する規定がないから、現実には“指示”がほとんど出されることなく、当該薬剤が医師の専売下におかれている状況である。
 ついては、具体的にどういう措置をとつて、答弁書にいう医薬分業の趣旨を実現していくのかを明らかにされたい。

  右質問する。