質問主意書

第71回国会(特別会)

答弁書


答弁書第一〇号

内閣参質七一第一〇号
  昭和四十八年七月二十七日

内閣総理大臣 田中 角榮      


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員峯山昭範君提出農薬及び肥料中における重金属等有害物質の含有状況ならびに使用実績等に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員峯山昭範君提出農薬及び肥料中における重金属等有害物質の含有状況ならびに使用実績等に関する質問に対する答弁書

一について

1(1) 有機水銀剤が散布剤として使用されるようになつてから現在に至るまでの主要な製品の生産量は、有機水銀粉剤六三六、二〇〇トン(昭和二十八年~四十四年)、有機水銀水和剤二、六〇〇トン(昭和三十二年~四十四年)、有機水銀乳剤四、六〇〇トン(昭和三十二年~四十五年)である。
 また、都道府県別消費量は、次のとおりである。
都道府県別水銀農薬消費量(昭和二十八~四十七年・水銀換算)
北  海  道二一〇・五トン茨     城三九・五トン
青     森四八・八 栃     木八一・三 
岩     手九二・九 群     馬一三・九 
宮     城一二七・〇 埼     玉四一・八 
秋     田一五四・二 千     葉二七・九 
山     形一一三・四 東     京二・三 
福     島一一〇・六 神  奈  川四・六 
山     梨三二・五トン鳥     取二五・五トン
長     野五八・一 島     根五五・七 
静     岡二〇・九 岡     山五五・七 
新     潟一二三・一 広     島九二・九 
富     山九〇・六 山     口三九・五 
石     川八一・三 徳     島一三・九 
福     井七四・三 香     川一六・三 
岐     阜四一・八 愛     媛三九・五 
愛     知一八・六 高     知六〇・四 
三     重三九・五 福     岡六二・〇 
滋     賀二一・〇 佐     賀三二・二 
京     都一六・三 長     崎一四・九 
大     阪二・三 熊     本六六・〇 
兵     庫五五・七 大     分一八・六 
奈     良七・〇 宮     崎一六・三 
和  歌  山七・〇 鹿  児  島四六・六 
 合     計二、三二四・七 
製剤別、有効成分及びその含有量は、次のとおりである。

ア 有機水銀粉剤

イ 有機水銀水和剤

ウ 有機水銀乳剤

(2) 無機水銀農薬としては、昇汞(塩化第二水銀)が昭和三十二年から三十六年までに一一トン生産されたが、主に蚕室、蚕具の消毒、種バレイショの消毒に使用されたもので、薬害が強いため散布用には使用されていない。

(3) 散布用水銀剤が使用されるようになつた昭和二十八年から四十七年までに土壌等へ投下した量は、水銀にして二、三〇〇トンと推定される。

(4) 農薬要覧一九七二年版(昭和四十六年九月三十日現在)に掲載されている有機水銀剤の有効成分及びその含有量は、次のとおりであり、これらは、毒物及び劇物取締法に基づき、医薬用外毒物に指定されている。

ア とまつ用有機水銀剤

イ 液用有機水銀剤 1/2
イ 液用有機水銀剤 2/2

 これらの有機水銀剤は、その大部分が種もみ消毒に使用されたものであるが、昭和四十八年に一部非水銀糸種子消毒用農薬が開発されたことに伴い、指導により生産を全面的に中止しており、昭和四十八年六月三十日現在、メーカー在庫はないとの報告をうけている。
 なお、今後とも種子消毒用の農薬については、非水銀農薬の開発普及を積極的に推進してまいりたい。

2 DDT剤、BHC剤、アルドリン剤、エンドリン剤が使用されるようになつてから現在(昭和四十六年)に至るまでの主要な製品の生産量はDDT粉剤四九、九〇〇トン、BHC粉剤七七一、四〇〇トン、BHC粒剤一五八、七〇〇トン、アルドリン粉剤六九、七〇〇トン、エンドリン乳剤七、三〇〇トンである。
 製剤別、有効成分及びその含有量は、次のとおりである。



 また、これら農薬の使用されるようになつてから現在までの総使用量は、有効成分に換算してDDT剤一五、〇〇〇トン、BHC剤四〇、〇〇〇トン、アルドリン及びエンドリン剤三、五〇〇トンと推定される。
 有機塩素系農薬については、農薬取締法に基づき、次のような措置を講じている。

(1) 残留性に問題のある有機塩素系農薬DDT、BHCの販売を禁止したほか、エンドリンを作物残留性農薬に、アルドリン、デイルドリンを土壌残留性農薬に指定し、食用作物に使用を禁ずるなど厳しく規制している。

(2) 農薬の安全性確保については、農薬取締法の規定に基づき、登録(再登録を含む。)申請されたすべての農薬について慢性毒性、農作物や土壌への残留性等に関する厳しい検査を実施している。

(3) 安全な農産物の生産の確保については、食品衛生法に基づいて食品の農薬残留基準を設定するとともにその農薬の安全使用基準を定めこれを公表し、農薬の安全かつ適正な使用の徹底を図つている。
 今後の方針としては、以上の諸施策の積極的な推進を図り、特に農薬の残留基準及び安全使用基準を拡大するとともに安全な農薬及び使用方法の開発実用化を促進し、農薬の安全対策に万全を期してまいりたい。

3 パラチオン剤、マラソン剤、TEPP剤が使用されるようになつてから現在に至るまでの主要な製品の生産量は、パラチオン乳剤一四、二〇〇トン(昭和二十七年~四十五年)、マラソン粉剤一五三、七〇〇トン(昭和三十年~四十六年)、TEPP剤五六〇トン(昭和二十六年~四十二年)である。
 製剤別、有効成分及びその含有量は、次のとおりである。



 また、有機りん系農薬の使用されるようになつた昭和二十六年から現在までの総使用量は、有効成分に換算して三二、〇〇〇トンと推定される。
 なお、長野県佐久地方等において発生したといわれる目の奇病については、その原因は明らかでないが、現在厚生省等において研究しているところである。

4 有機水銀系農薬、有機塩素系農薬及び有機りん系農薬以外の農薬で食品衛生法に基づく農薬残留基準の対象となつている農薬の主要な製剤の使用されるようになつてから現在(昭和四十六年)までの生産量は、ひ酸鉛六〇、〇〇〇トン、NAC粉剤二七、七〇〇トン、ケルセン乳剤四、四〇〇トン、クロルベンジレート乳剤三、二〇〇トン、臭化メチルくん蒸剤二七、〇〇〇トンである。
 製剤別、有効成分及び含有量は次のとおりである。



 また、これら農薬の使用されるようになつてから現在(昭和四十六年)までの総使用量は、有効成分に換算して、ひ酸鉛六〇、〇〇〇トン、NAC七、六〇〇トン、ケルセン一、七〇〇トン、クロルベンジレート六〇〇トン、臭化メチル二七、〇〇〇トンと推定される。

5 農薬による被害の防止に関しては、農薬の取締り、指導体制の拡充強化及び農薬使用者に対する安全使用の周知徹底に努めているところであるが、今後ともこの勧告を尊重し、毒物及び劇物取締法、食品衛生法及び農薬取締法の厳正な運用等を図り、農薬による被害の防止に万全を期してまいりたい。
 勧告に対する具体的な措置状況は次のとおりである。

厚生省関係

一 毒物及び劇物取締法による毒物劇物販売業者の指導取締りについては、昭和四十六年三月厚生省から都道府県あてその強化を指示したところである。
 その結果、立入検査はかなりよく実施されているものの違反業者に対する監督は必ずしも万全とはいえないので、昭和四十七年八月二十四日付けで再び都道府県あて通知し、違反業者に対する文書による指示及び違反を繰り返す業者に対する処分の強化を徹底するよう指導したところである。

二 残留農薬分析技術者の研修については、昭和四十五年度から食品化学特殊技術講習会及び地区別特殊技術講習会を実施しているほか、個別に国立衛生試験所において約一カ月の研修を行うなど分析技術者の養成、資質の向上に努めている。
 なお、国立衛生試験所の研修を受講した者のいない県について個々に調査したところ、既に分析能力を有する技術者が配置されており、現在のところ特に支障ないものと認められる。
 農薬による危害防止の対策の推進を図るため、今後とも各種の講習会を行い、分析技術の向上を図ることといたしたい。

三 残留農薬基準の設定された農産食品の収去検査の充実については、収去検査が計画的に、また効率的に行われるよう昭和四十五年から地区別検査体制を確立するよう都道府県を指導してきており、今後更に指導を強化してまいりたい。

農林省関係

一 農薬による危被害の実態は握については、従来から指導通達の実効をあげるため、統一的な調査基準、報告様式を定め、都道府県に指示するなどの措置を講じた。

二 土壌残留性農薬使用農地のあと作栽培については、科学的な調査研究に基づいて、その指導の指標を示すとともに、農薬分析調査等を有効に活用して汚染農産物が生産流通しないよう万全を期すこととした。

三 水質汚濁性農薬の安全使用については、都道府県に対し今後更に使用の規制を含めて、具体的措置について報告を求めるとともに、その使用の実情をは握して被害の防止の実効があがるよう指導を強化することとした。

四 農薬の空中散布については、今後とも被害の実態と原因調査及び被害の防止について指導を強化することとした。また、飛散性の少ない農薬の普及については、事業主体に経費を助成し、展示させることにより積極的に推進している。
 なお、微粒剤散布装置の開発は昭和四十七年度に完成した。

五 都道府県農林主管部局における検査については、昭和四十六年度は一部の県において事業開始が遅れたところもあつたが、同年度末までには全都道府県において実施されており、残留農薬の分析調査には、農林省の農薬分析技術研修を受けた職員が配置されている。
 また、農薬分析機器の活用については、都道府県をして効率的なか動に努めさせるとともに残留調査の励行と資質の向上について今後とも指導を強化することとした。

六 農薬取締法に基づく取締については、今後とも従来からの指導通達に沿つて都道府県における農薬販売業者の取締りの実施体制の整備状況とその実施状況のは握に努め、取締りを強化することとした。

七 不用農薬の処理については、都道府県及び関係団体等を中心に農薬安全処理対策事業を実施し、これらの農薬が未処分のまま放置されることのないよう措置を講じた。

(注)一 農薬の生産関係の統計年次は、前年の十月一日から当該年の九月三十日までである。

二 農薬の種類別、製造業者別、年次別生産(出荷)量の詳細な資料については、農林省農蚕園芸局植物防疫課監修「農薬要覧」によられたい。

二について

1 次の四表に示すとおりである。

りん鉱石中のカドミウムの平均含有率(単位PPM)

りん鉱石の輸入量(単位一、〇〇〇トン)

過りん酸石灰中のカドミウムの平均含有率(りん酸一〇%換算、単位PPM)

過りん酸石灰中のひ素の平均含有率(りん酸一〇%換算、単位PPM)

2 窒素、りん酸、加里肥料のうち代表的肥料のカドミウム等の重金属の平均含有率(昭和四十七年度農林省肥飼料検査所調査結果)及び土壌への年間投与量(昭和四十六肥料年度肥料消費量より推定)は次のとおりである。

別表

なお、一〇アール当たり年間投与量は、全肥料でカドミウムは〇・五グラム程度、ひ素は四グラム程度と推定される。

3(1) カドミウムについては、りん酸含有肥料中のカドミウムの含有量について暫定指導方針を定めており、同方針に基づきりん酸含有肥料中のカドミウムの含有率は、りん酸成分一〇%の肥料に換算して一五PPMを超えないよう指導している。

(2) ひ素、ニツケル、クロム及びチタンの四種類の重金属については、含有許容量の基準(含有を許される最大量)として次のとおりの規格を定めている。

ア ひ素については、硫酸アンモニア、過りん酸石灰等硫酸を使用している肥料について、主として最も高い主成分の含有率一・〇%につき〇・〇〇八%(ただし一部の肥料は〇・〇〇四%)としている。

イ ニツケル、クロム及びチタンについては、けい酸質肥料等鉱さい類を原料としている肥料について、主として最も高い主成分の含有率一・〇%につきニツケルは〇・〇一%、クロムは〇・一%、チタンは〇・〇四%としている。

4 肥料の製造工程において、カドミウム等を除去することは、技術的に困難な問題があるが、最近、りん酸肥料の大宗をなしている高度化成肥料の製造工程において、りん酸液中のカドミウムを除去する技術の開発が進められている。
 また、肥料製造業者においては、昭和四十六年十月に示された農林省の指導基準に基づき、原料りん鉱石の配合割合を適切にすることによつて製品(りん酸成分一〇%と換算して)のカドミウム含有率が一五PPM以下となるよう努力してきた。

5 従来から普通肥料の公定規格及び指導基準に基づき、肥料製造業者に対して肥料中のカドミウム等の重金属の低減を図るよう指導してきた。
 今後とも、各企業がこの基準に単に合格することで満足することなく、更に肥料中の重金属類を減らすよう製造工程における除去技術の開発の促進等を強力に指導して行く方針である。

6 農薬の残留基準の設定に当たつては、農薬の散布、肥料の施肥を通じて、土壌の汚染が生じ、かつ、その汚染により汚染される農作物の利用が原因となつて人の健康に被害を与えることのないように、毒物学的資料から人間が一生涯毎日摂取しても何ら健康に障害を与えない農薬等の量、実態調査に基づく食品中の農薬の残留量及び食品の一日摂取量を考慮し、更に安全率を見込んで残留基準を設定することとしている。

7 食品に係る農薬の残留基準については、昭和三十九年から主要農産物を対象に実態調査を行い調査結果のまとまつたものから順次設定してきており、現在までに二九食品に係る一八農薬の残留基準を設定している。
 なお、昭和五十一年までに八三食品について残留実態調査等を実施し、その結果に基づき残留基準を設定することとしており、これにより、消費者が日常摂取する食品については、ほとんどの物が規制されることになる。
 更に、この計画に引き続いてその他の食品についても残留基準を設定して行く方針である。また、これら残留基準を設定するに当たつては、毒物学的資料から人間が一生涯毎日摂取しても何ら健康に障害を与えない農薬の量、実態調査に基づく食品中の農薬の残留量及び食品の一日摂取量を考慮し、更に安全率を見込んで残留基準を設定することとしている。