質問主意書

第71回国会(特別会)

質問主意書


質問第二五号

不動産登記法第百五条についての法務省民事局長通達に関する再質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条により提出する。

  昭和四十八年九月二十五日

鈴木 強      


       参議院議長 河野 謙三 殿



   不動産登記法第百五条についての法務省民事局長通達に関する再質問主意書

 さきに昭和四十八年七月七日に提出した質問主意書に対する答弁書(内閣参質七一第七号)は、疑問の点があるので更に政府の見解を伺いたい。
 政府の答弁は抽象的であるため、問題点が明らかにされていないので、左記の具体事例が典型的であるから、これについて答弁されたい。
    記
 甲区
  一番 所有権移転 所有者 A
  二番 停止条件付所有権移転仮登記(所有者) B
     (本登記申請を却下された。)
  三番 仮差押 債権者 C
  四番 仮差押 債権者 D
  五番 任意競売申立 申立人 X’
  六番 所有権移転仮登記 権利者 B’
  七番 所有権移転 所有者 E(仮定)
  八番 所有権移転 所有者 F(仮定)
 乙区
  一番 根抵当権設定 根抵当権者W
  二番 抵当権設定 抵当権者 X
  三番 抵当権設定 抵当権者 Y
  四番 賃借権設定 権利者 Z
   (W、XおよびYの登記はBの登記より先順位である。)
 Bは、本件不動産を高額で売却する目的をもつて、Yから抵当権付債権の一部を譲り受けて、Aから清算的代物弁済により右不動産を譲り受けたが、これが競売代金では、Xの債権の一部を弁済できるのみであるが、任意売却により清算したときには、Yの債権の一部をも弁済できる見込みであるが、C、Dの一般債権を弁済できる見込みは全くなかつた。
 BはAと共に、W、X、Y、Zと「本件不動産を任意売却して、抵当権付債権を弁済し、Aのその余の債務は免除する。」旨の和解をなした。
 また、Bは、本登記をしたときには、C、Dの仮差押の登記を抹消することができるものである。
 政府は「本件通達は不動産登記法第百五条の解釈をそのまま示したものである。」と答弁しているが、同条の規定は表現を簡略にしているため誤解される不備な点があると考えられる。
 Bは所有権を取得したのに、三年半の間、本登記をすることができないため、本件不動産を売却して清算できない結果、登記された者全員が不利益を受けている現状である。
 ともかく、第百五条が昭和三十五年に新設されて以来、仮登記による本登記が困難となり、本登記不受理事件および本登記承諾請求訴訟事件が非常に多数発生し、また、同条に関する裁判においては、複雑難解な判例が多数作られて、登記実務および裁判実務はいずれも大混乱を来たしていることが伺われる。
 所有権移転仮登記に基づく本登記申請は、直ちに受理され、登記されることが、不動産登記法の第一の原則であり、この原則が取引の安全および所有権の保護のために最も必要であると認められるのに、右本登記のみが本件通達によつて阻害されている。
 よつて第百五条は、これを改正する必要があるやに思料されるので、登記手続の改善を目途とした具体的な政府の見解を伺いたい。

一、Bの所有権移転の本登記と、C、Dの仮差押、X’の任意競売申立およびZの賃借権設定の各登記(以下この三種類の登記を本件三登記という。)とは、何故に「両立し得ない登記」となるのか。その理由を具体的に答弁されたい。

二、Bが本登記をするときに、C、D、X’、Zは何故に利害関係人となるのか。具体的に答弁されたい。
 登記官が職権抹消をしなければならないと誤解するから利害関係人となるが、本件三登記を抹消するかどうかはBの権利に属するものであると考えるが、どうか。

三、Bの本登記によつて、どのような公示上の混乱を生ずるのか。なんらの混乱も生じないと考えられるので、具体的に答弁されたい。

四、B’は本登記ができるのに、Bは何故に本登記ができないのか。登記官にとつては、どちらの本登記も同じであると考えるが、どうか。

五、Bが本登記をしたときには「所有名義が二重に併存することになる。」と答弁しているが、Bとどの登記名義が二重に併存することになるのか。

六、EおよびFの所有権移転登記があると仮定した場合、Bの本登記によつて「所有権の登記名義人が二人以上存在することになる。」とは、どういうことなのか。
 登記には、受付番号があるから「所有名義人が二人以上存在することはあるはずがない。」と考えるが、どうか。
 また、「第三者からみて、いずれが真正な所有者か不明になる等公示上の混乱を生ずる。」とは、いかなる場合で、それが公示上どのような混乱を生じたのか、具体的に答弁されたい。

七、Bは本登記申請を却下されたために、C、Dを相手に本登記承諾請求訴訟を提起して、すでに三年六月間も争つているのに、未だ解決することができないでいるが、国民にこのような苦労をさせることが、「改善である。」と考えているのか、どうか。

八、政府は「現行不動産登記法第百五条が設けられた後は、そのような混乱がなくなつた。」と答弁しているが、登記手続外において本登記承諾請求訴訟が多数発生し、訴訟が混乱した実態についての統計を把握した上で、そのように答弁しているのか。
 第百五条による仮登記の本登記申請に添付された「利害関係人の承諾書又はこれに対抗することを得べき裁判の謄本の件数」につき最近五年間の統計を呈示されたい。

九、差押の効力は相対的であるから、C、D、X’の各登記は職権で抹消すべきものではなく、Bが本登記をした後において、Bが抹消すべきものであると考えるが、どうか。
 仮に、本件通達のとおり、Bの本登記のときに職権抹消するのが適法であるならば、仮差押、競売申立の裁判において、Bの本登記を解除条件とする決定をなすのが、相当であると考えるが、どうか。

一〇、Bの本登記は、X’の任意競売申立に対抗することができないのであるが、この場合には、Bは永久に本登記をすることができないのか。

一一、X’の任意競売申立から競売終了までには、相当の年月を要するものであるが、Bは競売期間中でも、X’の承諾を受けないで、所有権に基づいて本登記を受ける権利を有するものと考えるが、どうか。

一二、Bは、本件三登記の債権者のAに対する債権をそのままにして、本件不動産を売買又は代物弁済により譲り受けることができると考えるが、どうか。
 しかしてBは右譲り受けによる本登記をした後に、C、Dの登記を抹消し、W、X、Yに対する債務を弁済し、Zに対する賃貸借を継続することができる権利を有するものと考えるが、どうか。
 本件通達は、Bの右権利を否定する違法なものであると考えるが、どうか。

一三、第百五条の改正前においては、Bは、本登記をなした後に本件不動産を担保として、銀行から借金してC、D、X、Zに対する債務を個別に解決することができたのに、改正後の現在では、本登記前に一挙に解決しなければならなくなつたのは何故か。
 右一挙解決を強要しないためには、どのように法律を改正したらよいと考えるか。

一四、Bは本件不動産の所有権を取得したのに、本登記を却下されたため、三年六月間、取引をすることができないでいるが、それでも、「取引が円滑になつている。」ということができるのか。
 Bの本登記を直ちに受理することは、仮差押権者および抵当権者の権利をも保護することになると考えるが、どうか。

一五、内閣参質七一第七号の答弁七について
 Bの本登記を甲区七番に移記することができないのであれば、「昭和四五年四月一〇日から甲区二番のBが所有者となつた。」と職権で附記登記をすれば、公示上の混乱が解消すると考えるが、どうか。

一六、答弁九、一〇について
 仮登記による順位保全の効力は、本登記をしたときに発生するものであるから、登記官がBに対し、仮登記のままで本登記承諾請求の勝訴判決を要求することは無理であると考えるが、どうか。
 従つて、Bが直ちに本登記をすることができるように登記手続を改善するには、どのような法改正をしたらよいと考えるか。

一七、答弁一五から一八までについて
 世田谷登記官を相手として裁判所で係争中の事件については、昭和四十八年九月十四日控訴人BおよびAが敗訴したので、改めて、政府の答弁を求める。

  右質問する。