質問主意書

第71回国会(特別会)

質問主意書


質問第七号

不動産登記法第百五条についての法務省民事局長通達に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十八年七月七日

鈴木 強      


       参議院議長 河野 謙三 殿



   不動産登記法第百五条についての法務省民事局長通達に関する質問主意書

 法務省は、昭和三六年二月七日付民事甲第三五五号民事局長通達により、不動産登記法第百五条の所有権に関する仮登記後本登記の場合の第三者の権利の「第三者」には「仮登記後になされた仮差押・仮処分・強制執行または競売申立の記入の登記名義人は、いずれも登記上利害関係を有する第三者に含まれるから、右第三者の承諾書を添付させて、職権でこれを抹消せよ。」と通達した。
 そして、右通達の趣旨はその後、賃借権設定等をしたすべての利害関係人に拡大されたため、本登記不受理事件は非常に大きな数になつて、登記実務は大混乱をきたしている。
 具体事例の一は次のとおりである。
 東京都世田谷区奥沢八丁目三三九番地家屋番号五八四号の建物所有者は、昭和四五年四月一〇日停止条件付所有権移転仮登記の条件の成就により、その所有権を取得し、引き渡しを受け、同月一四日東京法務局世田谷出張所登記官に対し、前所有者と共同で所有権移転本登記申請をしたところ、本件民事局長通達による利害関係人である債権者の登記承諾書の添付がないとして却下するというので取下げた。
 次いで、同年一二月ごろ仮差押債権者を被告として東京地方裁判所に本登記承諾請求の訴を提起したが、当該所有権が仮登記のままで第三者対抗要件を具備していないことおよび本件通達を容認しての最高裁判所判例(昭和四六年四月二一日大法廷判決および昭和四五年三月二六日第一小法廷判決)があるため勝訴の見込みがない状態である。
 更に、所有者は、昭和四六年八月二四日世田谷登記官に対し、前同様本登記申請をしたところ、右登記官は翌日、前と同じ理由で却下したため、所有者は不服申立を経由して、東京地方裁判所に対し、却下処分取消訴訟を提起した。
 これは昭和四七年一一月三〇日請求棄却となつたので、東京高等裁判所に控訴し、現在、同庁昭和四七年(行コ)第八号控訴事件をもつて係属中である。
 なお、所有者は、任意競売申立人および賃借権設定者の承諾を得ることは法律上不可能であり、したがつて、本登記も不可能の見通しである。
 本件通達が出される以前においては、所有権移転仮登記を本登記にする際に、かかる承諾書の添付は必要としなかつたのである。
 本件通達は、民法、民事訴訟法および不動産登記法を誤解したものである。即ち、前記例のように所有権に関する仮登記権利者が、不動産所有権を適法に取得し、かつ、これの引き渡しを受けたので、新旧所有者共同で適法に本登記申請をした場合において、いわゆる利害関係人と称する第三者の本登記承諾書の添付がないとの理由で本登記を却下することは、憲法第二十九条第一項および不動産登記法第百五条違反であり、本件通達は取り消して、失効せしめるのが相当と考えるが、以下の諸点につき、政府の見解を伺いたい。

一、不動産登記法第百五条の立法趣旨は
1 所有権移転仮登記の後に、所有権移転登記をした者がある場合、この仮登記権利者の本登記と同時に、右仮登記後の所有権移転登記を抹消して「最後に登記されている者が現在の所有者である。」ことを公示するためであると解するが、どうか。
2 所有権以外の権利に関する登記については、抹消する必要がないし、また抹消することができないと解するが、どうか。

二、同条の立法趣旨につき、前記大法廷判決は「同一不動産につき登記簿上所有名義が二重に併存する等の混乱を生じ、公示制度として好ましくない結果を招来したので、かかる公示の混乱を避けて不動産取引の安全を保護するためである。」としている。
1 同一不動産につき、登記簿上所有名義が二重に併存する事実があつたのか。
2 この所有名義の二重の併存およびそのほかの登記に、どのような公示の混乱が生じていたのか。そして同条の新設によりそれがどのように改善されたのか。
3 登記官が、仮登記権利者の本登記を、同条による利害関係人の承諾書の添付がないとの理由で、何年間も拒絶すること、または不可能にすることが、不動産取引の安全をどのように保護することになるのか。

三、同条による第三者の権利の抹消は有効な所有権移転登記の抹消であり、同法第百四十六条による登記の抹消は無効な権利の抹消であると考えるが、どうか。

四、第百五条により、所有権に関する仮登記後に、所有権移転登記をした第三者の登記が抹消されたときに
1 この第三者が登記したときから抹消されるまでの期間、当該不動産の所有者は登記簿上存在しないことになるのか。
2 この第三者が登記されていた期間に取得した利得は、不当利得となるのか。
3 この第三者は、登記を抹消された結果、不利益を受けることがないか。

五、同条が施行された昭和三五年四月一日以降本件通達が出された昭和三六年二月七日までの間になされた通達記載の利害関係人の登記は、所有権に関する本登記のときに
1 抹消されないものがあつたか。
2 この抹消されなかつた登記についてどのような支障が発生したか。

六、同条を廃止した場合、どのような支障が生ずるのか。

七、同条により仮登記権利者が本登記した場合、その後に所有権移転登記をした第三者があるため、新所有者の登記が先順位となつたときには、登記官が職権によつて、この新所有者の登記を最後の事項欄に移記すれば「最後に登記されている者が現在の所有者である。」という公示制度の原則が実現し、なんらの混乱も生じないと考えるが、どうか。

八、本件通達は、同条が債権者らの登記の職権抹消を規定したものと解釈しているが、これは仮登記権利者がする所有権移転本登記を効力発生要件に変更したものと考えているのか。

九、本件通達は、同条が所有権に関する仮登記権利者に対し、利害関係人に対する登記承諾請求権という新たな請求権を付与したものと考えているのか。

一〇、本件通達は、仮登記権利者が本登記をすることができなくても差支えないとしたが、これは仮登記による順位保全の効力が同条によつて変更されたものと考えるのか。

一一、本件通達は、仮登記権利者に対し仮登記のままで、本登記承諾請求の訴に勝訴することを要求しているが、これは、同条が仮登記に第三者対抗要件を付与したものであると考えるのか。

一二、本件通達は、これを直ちに失効せしめて、債権者らの登記を抹消することなく仮登記権利者の本登記をした場合、いかなる支障が生ずるのか。

一三、本件通達は、仮登記権利者が本登記をするには、その登記前に債権者らの承諾を得なければならないとしているが、右通達の根拠法条を明らかにされたい。

一四、本件通達は、仮登記権利者が本登記をすると同時に「登記官が本件債権者らの登記を職権で抹消しなければならない。」としている。登記官は右債権者らの債権内容につき、識り得ないまま、これを職権で抹消しなければならないとした根拠法条を明らかにされたい。

一五、前記例のとおり、世田谷登記官は、新旧所有者による本登記申請を却下したが、これは違法であると考えるが、どうか。

一六、世田谷登記官は、仮差押および任意競売申立の債権の内容を全く識らないにも拘らず、その登記を職権で抹消しようとしたが、これは形式的審査権の範囲を逸脱したものと考えるが、どうか。

一七、所有者は本登記をした後に、仮差押債権者に対し第三者異議の訴を提起して、この勝訴判決によつて仮差押の登記を抹消するのが適法であると考えるが、どうか。

一八、世田谷登記官は、高額な登録免許税を納付してそれぞれ任意競売申立および賃借権設定の登記をしたものに対し、所有者が変るたびに、その登記を職権で抹消しようとしているが、これは誠に違法であると考えるが、どうか。

一九、所有権移転仮登記をした新所有者は、旧所有者と共同で本登記申請をしたところ、登記官から本件通達該当事件であるとして、右申請を却下されたため第三者対抗要件を具備しないことになつたのであるから
1 新所有者は、固定資産税等の納税義務を負担しなくても差支えないと考えてよいか。
2 新所有者は、未登記建物所有者と同様、実質課税の原則に従つて課税されることになるのか、どうか。
3 旧所有者は、本登記申請を違法に却下されたのであるから、固定資産税等の納税義務を免除されたものと考えてよいか。

二〇、以上のように、仮登記に基づく本登記申請に対し、本件通達該当事件として、本登記を拒絶するケースが昭和三六年二月以降非常に多く発生しているが、かかる本登記不受理処分は国民の不動産所有権を侵害する憲法第二十九条第一項および不動産登記法第百五条違反の行政処分であると考えるが、どうか。

  右質問する。