質問主意書

第71回国会(特別会)

質問主意書


質問第二号

フィリピン戦没日本人慰霊園の建設に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十八年二月六日

田中 一      


       参議院議長 河野 謙三 殿



   フィリピン戦没日本人慰霊園の建設に関する質問主意書

一、フィリピン共和国のラグナ州カラリヤの丘(マニラから東南七〇キロメートルの距離にある景勝地で、国立公園予定地内)に、太平洋戦争で戦没した約五〇万人にのぼる日本人の霊を慰めるための慰霊碑が、フィリピン共和国のマルコス大統領をはじめ、同国政府の協力を得て、日本政府(厚生省)により建立、今春の三月下旬には遺族代表等の参列のもとに竣工ならびに追悼式が行なわれるはこびとなつており、また、「フィリピン戦没日本人慰霊園建設委員会」(会長岸信介氏)によつて、慰霊碑周辺の付帯施設および造園(いわゆる慰霊園)の建設を計画、着工後約二カ年を要する見込みであり、完工のうえは、前記委員会よりフィリピン政府に寄贈されることになつているといわれている。
 本件に関し、フィリピン共和国の寄せられた寛大なる好意と協力に対して、政府は、いかなる態度をもつて感謝の意を表明されるのか。その具体的な姿勢をうかがうとともに、政府みずから日本人戦没者の慰霊碑建立に至つた経緯ならびにその折衝経過を明確にされたい。

二、すでに慰霊碑の設計には、東京工業大学名誉教授工学博士谷口吉郎氏が、また、慰霊園の設計は、環境計画研究室代表池原謙一郎氏(マニラのルネタ公園内日本庭園設計者)が、それぞれ当ることになつているといわれる。
 しかし、この建設地が、太平洋戦争時、最大の激戦地であり、しかも日本人のみならず、フィリピン人の犠牲者も最高であつたこと、また、近い将来、フィリピン共和国政府において国立公園に指定される予定地域内であることなどに鑑みて、日本人特有の宗教的感覚を取り入れた形式のものとか、日本固有の神格化形式を持つたものは、厳に建設をつつしまなければならない。
 政府は、この慰霊碑ならびに慰霊園の建設に当り、フィリピン共和国という外国の土地において、いかなる態様ならびに形式(構造を含む。)のものが、国民感情からみて最も適切なものであると判断されているか。
 もし、前記両氏の設計が出されているならば、その図柄ならびに形式について具体的に明示されたい。

三、マルコス大統領をはじめフィリピン共和国政府の好意と協力によるとはいえ、真に日比両国の親善を増進するためには、この際、単に日本人戦没者の慰霊碑という狭い観念で本件をとらえることは適当ではない。
 日本の侵略戦争によつて、巨万の犠牲者を生じたフィリピン国民の心情を考えるとき、フィリピン人戦没者の霊を慰める慰霊碑の建設こそフィリピン共和国にとつて必要であろう。日本人のみの慰霊碑であることが、フィリピン国民に知れわたつたとき、国民感情を刺戟することとなり、ルバング島における小野田元少尉の捜索をはじめとする恩讐を越える協力体制に水をさすおそれはないか。
 政府みずから建設せんと欲するものは、日本人戦没者、フィリピン人戦没者の霊を慰め、日比親善を真に願いながら恒久平和を祈願するもの、また、それを記念する平和公園といつたものの建設こそ最も意義深いものと思料される。かかる点について政府の見解を求めるとともに本件を通じ両国政府間の折衝過程において、この種の意見交換がなされなかつたかどうか。
 また、他の諸外国において、日本人墓地という限定された区域を除き、日本人戦没者の慰霊碑が建設されたものがあるかどうか。もし、あるとすれば、いかなる国において、その形式といかなる手法を用いて建設されたものか具体的に例示されたい。

  右質問する。