質問主意書

第70回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第五号

内閣参質七〇第五号
  昭和四十七年十一月十七日

内閣総理大臣 田中 角榮      


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員峯山昭範君提出水産加工団地の排水処理に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員峯山昭範君提出水産加工団地の排水処理に関する質問に対する答弁書

一、について

 塩釜の水産加工団地の排水処理施設は、当初設計上の排水の水質および量と実際の排水の水質および量との間に大きな差があつたこと等の理由からその機能を発揮することができなかつた。
 しかし、その後種々検討を行ない、加圧浮上機およびフロス処理機をつけ加え、さらに処理の方式をバッチ式(回分式)から連続式に改めた排水処理施設を建設した結果、現在では順調に稼動している。
 この施設の建設に当たつては、特に国から「水産加工排水中のたん白質回収技術の開発に関する特別研究」のための委託費を支出し、また宮城県もこの建設に対して助成を行なつている。
 なお、当初建設した排水処理施設の建設費(四千九百万円)のうち、新しく建設した施設に転用された部分(二千九百万円)以外の部分(二千万円)については、実質的に塩釜市に負担がかからないよう措置した。

二、について

 事業活動に伴つて必要となる排水処理施設など公害防止施設の費用は本来事業者が負担すべきものと考える。
 しかし、業種によつては、そのコストアップを経営全体の中で吸収できない場合もあり、あるいは価格転嫁が困難な場合もあるなど難しい問題が多いため、今後の産業政策、中小企業対策等において慎重に検討してまいりたい。
 なお、最近の産地における水揚げの大量集中化の傾向に対応し、水産物流通上の拠点的産地の流通加工施設の総合的な整備を図るため、国は補助事業として水産物産地流通加工センター形成事業を実施しており、塩釜地域については、昭和四十七年度に調査地域に指定し、二カ年にわたり、流通加工の実態を把握し問題点の指摘など基礎的な調査を行なつて、マスタープランを作成することとしている。
 本事業においては、市場施設、冷凍冷蔵施設、処理加工施設とともに公害防止施設も国庫補助の対象としているので、今後の加工団地の形成とこれに関連する公害防止施設の整備については十分配慮してゆく所存である。

三、について

 塩釜水産物加工団地における排水処理施設は、現在のところ、原点処理量が少ないため、処理している排水量も少ないが、計画された量の排水を処理する場合には、塩釜水産物加工団地排水処理施設実施委員会の実験結果によれば、魚油およびフイッシュ・ソリューブルの回収施設の運転経費を含め、薬品費、電力費等一日当り二四三千円を要するものと見積られている。
 また、魚油およびフイッシュ・ソリューブルは、現在、原魚処理量が少ないので回収は行なわれていないが、これまでの実験結果では、商品価値のある良質なものが得られている。
    一日当りランニングコスト明細
    薬品費一五六千円
    電力費二六千円
    重油費四四千円
    その他一七千円
     計二四三千円

四、について

 水産加工排水に関するまとまつた資料は、内外ともに乏しいが、最近における水質規制の強化、水産物産地流通加工センターの形成等による要請から一般産業排水および都市下水の処理に関する各種情報を参考に、関係研究機関等で鋭意その研究開発が進められている。
 水産加工場は、腐敗しやすい水産物を原料とし、漁獲の時期豊凶による季節的操業が多く、排水も他産業の排水にくらべて塩分を含むものが多く、また産地、加工処理方法によつて水質が大きく変動する等のため、その処理技術に多くの困難性がある。さらに、水産加工経営体は一般に経営規模が零細で工場敷地も狭隘なため、多額の経費を必要とする排水処理に対しては、経済的負担能力に乏しいものが大部分である。
 このため、政府においては、水産物産地流通加工センター形成事業による共同処理施設の建設を促進するとともに、公害防止技術対策委託事業による全国水産加工業協同組合連合会の水産加工関係公害防止技術システムの設計研究、財団法人食品産業センターの新技術開発研究事業による社団法人全国冷凍魚肉協会の排水処理装置の開発等により、水産加工業のための効率的経済的な排水処理技術の研究開発を進めているところである。
 なお、これら研究開発の効果の一例として、最近、社団法人全国冷凍魚肉協会により、水産加工工場に適した効率的、経済的なコンパクト処理施設である電気凝集浄化法が開発され、近く、すり身工場を中心に設置される見込みである。

五、について

 中小企業が公害防止対策を講ずるにあたつては、資金面をはじめとして困難が大きいため、国は公害対策基本法第二十四条の規定にもとづき、中小企業に対し金融、税制、指導等各般にわたる公害防止のための施策を実施しているところである。公害防止事業団の助成においては、助成条件について、中小企業に関して大企業に比べ一段と優遇したものとしているほか、中小企業振興事業団においても、公害防止に係る中小企業の団地化に対しては、昭和四十七年度から融資要件を大幅に緩和するなど、制度の拡充、強化に努めている次第である。
 今後とも、諸般の中小企業公害防止対策につき一層の充実に努めてまいりたい。

六、について

 国民の生活水準の上昇に伴い、需要が高度化、多様化したことなどにより、魚介類の利用配分における加工比率は約七割に達し、水産加工品の重要性はきわめて高く、加工に伴う公害の防止対策をも含めた振興施策を充実することが必要であると考えられる。
 このため、政府としては、中小企業近代化促進法に基づき「水産ねり製品製造業」および「びん詰、かん詰製造業」を業種指定して近代化施策を推進している。
 また、産地における流通加工態勢の整備のため水産物産地流通加工センター形成事業を実施しているほか、合理的な商品形態として消費の拡大が望ましい冷凍加工品について水産物産地冷凍加工モデル施設の設置事業に対して助成している。
 公害防止対策については、水質汚濁はもとより、大気汚染、騒音、地盤沈下、悪臭、廃棄物対策に加えて、水使用の合理化、原料処理の改善、処理施設のコンパクト化等総合的に対処することが重要であると考える。
 当面急を要する排水処理については、公害防止技術研究を全国水産加工業協同組合連合会に委託して実施しているほか、産地加工にあつては、水産物産地流通加工センター形成事業および公害防止事業団等の事業の一環として共同処理施設の設置を促進し、消費地加工にあつては、公共下水道による処理対策を推進してゆくこととしたい。