質問主意書

第70回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質七〇第二号
  昭和四十七年十一月十七日

内閣総理大臣 田中 角榮      


       参議院議長 河野 謙三 殿

参議院議員野末和彦君提出昭和四十八年度税制改正に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員野末和彦君提出昭和四十八年度税制改正に関する質問に対する答弁書

一、(一)(二)(三)について

 就職、結婚、出産等の場合について、そのための費用を考慮し、あるいは祝福するという趣旨から、その年の所得税につき減免税を行なうということは、次の理由から適当でない。
(1) 所得税は、税負担公平の原則のもとに、応能負担の見地から、一定の所得がある場合にはその所得に応じた負担を求めることを基本的建前としており、このような所得税制において個別の事情をしん酌することにはおのずから限度があるものと考える。なお、就職、結婚等はすべての人にほぼ共通する事象であることからしても、むしろ一般的な課税最低限の引上げで対処することが税制としてはより適切であり、また、一年だけの滅免税より望ましいものであると考える。
(2) 所得税の減免措置は、所得税のかからない低所得階層には、その効果が及ぶものでなく、所得税のかかる階層についても、所得の多寡により影響を異にするものである。この意味からも、税制においてこのような措置を講ずることは適当とは思われない。

一、(四)について

 教育費を必要経費として控除することについては、前記と同様の趣旨から問題がある事項である。

一、(五)について

 老後のための積立て貯蓄の利子を非課税とすることについては、次のような理由から適当でないと考える。
 老人福祉の充実を図るための施策の進め方としては、まず緊急性の高い低所得層に重点を置き、各種の対策を総合的に講じることが必要であろう。このような見地からすると、税制上の措置は、一定所得以上の納税者にしか効果が及ばないという基本的制約があることにかんがみ、これによつて老人福祉の充実を期することには、限界があるといわざるを得ない。
 老人福祉という観点からは、すでに税制面において老年者控除を設けるなどの措置を講じており、他方貯蓄に対する優遇策としては、少額貯蓄利子等の非課税制度元本五百万円までの利子は非課税とする措置を講じているところである。このような利子の非課税制度に加えて、現在の課税最低限を考慮すれば、預金利子だけで暮している老夫婦の場合、貯蓄元本約一千四百万円までの利子について所得税が課税されないことになる。従つて、これらを超える貯蓄を有する者について、さらに優遇措置を講ずることは、前記のような老人対策の本来のあり方からみて適当と思われない。
 なお、御指摘のように物価上昇に対して中年層が、老後の不安を感じているという点については、いうまでもなく、税制だけで対処できるものでないが、政府としても極力このようなことのないよう努力すべきであると考えており、今後とも、物価安定を達成するため各般の措置を講じ、努力して参りたい。

一、(六)について

 退職所得の控除額については、昭和四十二年度の税制改正において、定年退職者の平均的な退職所得の水準程度まで大幅に引き上げられたが、以後この控除額はそのまますえ置かれているところでもあるので、その後の退職所得の動向等をも考慮し、昭和四十八年度の税制改正の一環として検討して参りたいと考えている。

一、(七)について

 妻の財産相続については、従来から、遺産額三千万円までの法定相続分に対応する相続税額を軽減する等の措置を講じ、その優遇を図つてきたところであるが、昭和四十七年度の改正において、その優遇措置の一層の拡充を行なうこととし、従来の制度に加え、婚姻期間二十年以上の配偶者が相続により実際に取得する財産は、三千万円までは法定相続分に関係なく相続税を課さないこととした。従つて、一般的には、配偶者が相続した居住用の家屋に相続税が課税されるような事態は生じないものと考える。また、固定資産税は、固定資産に対して、その価格に応じ課されるものであり、その性格上所有者の如何によつて課税上の差異を設けることは適当でないと考える。

一、(八)について

 御質問の「負の所得税制」の内容が具体的にいかなるものか必ずしも明らかでないが、アメリカにおいて「負の所得税」構想として提案されているように、特定の社会保障制度を所得税制に組み入れて、一定水準以下の所得しかない者に対して一定の給付を行なうことによつて一定の所得を保障する制度であるとすれば、これはわが国の社会保障制度の基本的あり方ともからむ問題である。すなわち、御質問のように、老人や身体障害者あるいは母子家庭の生活を保障することを目的とするのであれば、そうした個別事由ごとに現行の社会保障制度の充実を図つていくことにするのか、またはそうした特別事由を考慮しない一般的な社会保障制度を選択するのか、今後慎重に検討していくべき問題がきわめて多いと考える。

二、(一)について

 法人税率については、昭和四十六年八月の税制調査会の「長期税制のあり方についての答申」において「諸外国に比し必ずしも高いとはいえず、今後、公共投資、社会福祉等に多大の財源を必要とする事情もあり、法人企業に応分の負担を求めることはやむを得ない。」と指摘されており、長期的には法人の負担率を引き上げていくべきことが示唆されているので、今後とも財政需要、財源事情、景気情勢の推移等を勘案しながら法人税負担のあり方について引き続き検討して参りたい。

二、(二)について

 租税特別措置は、各種の政策目的から設けられたものであるが、それが慢性化、既得権化することのないよう、常にその弾力的な改廃に努めてきたところである。
 医師の社会保険診療報酬課税の特例措置については、現在税制調査会において制度改善のための現実的、かつ、具体的な方策が検討されているので、その答申をまつて対処して参る所存である。
 また、利子、配当課税の特例については、昭和四十五年度の税制改正において、総合課税を原則としつつ、源泉分離選択課税制度の導入、税率の段階的引上げ等の漸進的措置を講じ、また、法人、個人間の二重課税の調整等の措置と説明されている配当控除についても控除率の引下げを行なつているところである。
 今後とも、既存の特別措置については、絶えずその政策的効果を見直しつつ、弾力的な改廃を行ない、整理縮小に努めて参りたい。