質問主意書

第70回国会(臨時会)

質問主意書


質問第二号

昭和四十八年度税制改正に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十七年十一月十日

野末 和彦      


       参議院議長 河野 謙三 殿



   昭和四十八年度税制改正に関する質問主意書

 植木大蔵大臣は財政演説の中で「国民は経済の量的拡大よりも、真に人間性豊かな福祉社会の建設を待ち望んでいる」と表明した。当然税制もまた、これまでの生産第一、企業・法人中心、金持優遇のそれから、生活第一、個人・家庭中心、庶民優遇の税制へと、そのありかたを改めるべき時期にきている。いまの税制は不公平すぎはしないか。税金は本来国民だれもが公平に負担すべきものである。所得や財産の多い人はそれだけ税金を多くおさめ、所得の少ない人は低い負担でよい。これが税負担公平の自然な姿である。ところが現実は必ずしもそうではなくもろもろの租税特別措置が既得権化され、国民の不公平感をあおり立てている。土地課税の特例、医師の社会保険診療報酬に対する課税特例、利子・配当所得の分離課税、法人の交際費課税のあまさなど、まじめに働く一般納税者にとつてはどうも納得できぬ度のすぎた特例が多すぎる。これら租税特別措置による減税額が国税、地方税あわせて約八千億円。これら不公平な特例を廃止するだけでも勤労庶民中心の大減税が実現できる。減税には諸控除の引上げや税率の緩和など、オーソドックスな基本措置が当然必要だが、それとは別に、私は後述のように福祉大国にふさわしい具体的な構想をうちだしてみた。
 人生には誰でもいくつかのフシがある。就職、結婚、出産、子供の入学などそれぞれのフシではなにかと出費がかさみ、他人の力を借りたいときも少なくない。これら記念すべき人生の句読点においては、まじめで正直な納税者に対し、国が税金を減免するのが当然である。福祉国家をめざすなら税金をとりたてるばかりではなく、もつと納税者にサービスすべきではないか。以下具体的に質問する。

一、私の提案する次の人間尊重福祉税制(仮称)の構想について、基本的に賛成か否か、検討する意思があるか否か、実現のメドありやなしや、あるとすれば何年先か、これらを各項目について答弁されたい。
       人間尊重福祉税制(仮称)の構想
(一) 就職の年は税金を払わなくてよい
 若者が社会へ巣立つ、その第一歩でオトナなみの税をとるのは酷である。就職したての、特に未成年の勤労者などは、実家への仕送りや衣食住の整備になにかと金がかかる。若者が社会へ巣立つための支度金のようなものを国が面倒みるべきではないか。就職初年度においては、中卒、高卒、大卒を問わず、一年間だけ非課税にする。
 早急な実現がムリならせめて来年度から、就職支度金控除のようなものを新設する。これは若者の願望である。
(二) 結婚の年は税金を払わなくてよい
 結婚を祝福して国がその年の税金を減免する。結婚控除制度の新設でもよい。すくなくとも、結婚に際して会社や組合からもらう結婚手当は課税対象からはずすべきで、来年度はまず、結婚手当の非課税を実現する。
(三) 出産祝福控除を設ける
 扶養控除とは別に、出産祝福控除を新設する。出産というおめでたい人生の句読点で、生まれた子の将来にユメを託す意味も含め、しかるべき控除額をきめ、親の所得からそれを控除する。冷たいといわれる税制にこの程度の人間味が加わることで、いつそう福祉国家のイメージが充実する。なお、新婚一年内で出産という二重のおめでたのときは、重複適用を認める。
(四) 教育費を必要経費として認める
 これは特にサラリーマンの切実な要求であり、サラリーマンにとつては、教育こそがわが子に残せる財産である。しかし、教育費は高く、家計のやりくりは大変である。そこでこれを必要経費として認め、授業料相当分を所得から控除する。国立、公立、私立の区別はつけない。学校によつて授業料が異り一見不公平のようだが、国立の学生には私立以上に税金が使われているのだから、不公平とはいえない。
(五) 「マル老制度」で老後の安定をはかる
 政府は老人問題に力をいれるとのことだが大賛成である。年金や老人福祉設備の充実など大いにやつてほしい。しかし、率直に中年層の気もちをいえば「期待はするが、早急な実現はとうていムリ。やはり自衛のために前もつて、自ら老後の準備をしておきたい」というところではないだろうか。政府は、この気もちを汲んで国の老人対策の及ばぬ面を税制の上でカバーすべきである。すなわち、四十歳から五十五歳にかけて老後安定積立貯金の制度を設け、途中で引き出さぬ限り、この貯金には次の恩典を認める。
1 利子を非課税とする。……いわゆるマル優にならい一定額まで非課税のマル老制度を設ける。
2 物価上昇分を政府が補償する。……この貯金制度は老後の安定をはかるいわば自力更生のためのものであるから、物価上昇で積立金が目減りしたのではイミがないので、目減り分については政府が何らかの形で補償する。これにより老後への安心感が住まれる。
(六) 退職金には税金がかからない
 退職金はサラリーマンにとつて、いわば最後の収入であり、これをたよりに老後の設計をたてなければいけないのに、それすらも課税の対象にされるとは、あまりにも思いやりがなく、福祉国家の名が泣く。ささやかな庶民の退職金に税金をかけるのはまちがいである。とりあえず来年度は一千万円までを非課税とする。
(七) 妻の相続した居住用の家には税金がかからない
 夫が死亡した場合、永年連れそつた妻に一軒の家がやつと残ればよいほうであるが、妻が老後をおくるこの家に対しても相続税がかかり持家を手放す人もある。そこで、妻の相続した居住用の家については、夫亡きあとも安心して住めるよう、相続税はもちろん固定資産税も免除する。これは未亡人優遇というより、老人福祉の面から国が当然しなければならないことである。
 以上七項目について、本来は国民すべてにプラス効果の及ぶことが望ましいが、非常に所得が高く、財産の多い一部の人達には適用を除外することとし、各項目についてしかるべき所得制限、年数制限などを設ける。
(八) 所得の低い人は税金が国からもらえる
 最近、老人や身障者あるいは母子家庭の悲劇が多くなつてきている。これを救うために「負の所得税制」の実現を図る。「負の所得税制」こそは低所得者層の人々に人間性豊かな自力更生の生活を保証する強力な対策である。世界の国々に先がけてわが国がこれを実現することは、エコノミック・アニマルの汚名を返上し、軍事大国化への批判を一掃するためにも単なる内政問題以上の意義がある。

二、以上の諸措置の財源としては[1]既得権化したもろもろの租税特別措置の整理、縮小、廃止[2]法人税の引上げ[3]税金のムダづかい徹底的防止の三本柱を考える。とりわけ[1]に関しては、税制調査会でも「租税特別措置については、……たえず既得権化や慢性化の排除につとめると共に、経済社会の進展に即応し、随時、流動的改廃を図つていくこととすべきである」と答申している。よつて政府は、
(一) 法人税の引上げについて賛成か、反対か。
(二) 租税特別措置について、どのような段階と方針で整理縮小していくのか。特に医者優遇、配当分離課税などの具体的展望を示されたい。
 今の租税特別措置の大部分は、国民の目からみれば、どれをとつても一部階層にのみ有利であまい税制としか思えず、度の過ぎた特別扱い以外のなにものでもない。経済成長のみを願う時代であつたればこそ、これらはスムーズに実現されたのであつて、平和と福祉の国づくりを目指す今、人間性尊重の福祉税制を実現させる背景は充分あると思う。
 私の提案は実現不可能のユメとわらわれるかもしれないが、国民のユメの実現のため努力するのがほんとうの民主政治でなくてはならない。以上の質問に対し、誠意ある具体的な答弁をお願いする。