質問主意書

第62回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一号

内閣参質六二第一号
  昭和四十四年十二月二十九日

内閣総理大臣 佐藤 榮作      


       参議院議長 重宗 雄三 殿

参議院議員春日正一君提出日米共同声明と安保・沖繩問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員春日正一君提出日米共同声明と安保・沖繩問題に関する質問に対する答弁書

一1 わが国の安全の維持は、極東の平和と安全なくしては十全を期しえないものであり、したがつてわが国としては、極東諸国の安全に重大な関心を持たざるを得ない。これは現行安保条約締結以来政府が有してきた基本的認識である。御指摘の共同声明の表現は、いずれもわが国の安全との関連においての極東情勢の一般的認識あるいは沖繩の本土なみ返還と日本を含む極東諸国の防衛のために米国が負つている国際義務の効果的遂行との全般的関係についてのわが方の見解を示したにとどまり、沖繩返還の条件とか個々の具体的な事前協議の際におけるわが方の判断基準を述べたものではない。したがつて、かかる認識や見解のゆえに事前協議に際してのわが方の自主的判断が妨げられることはない。
2 極東の安全なくしてはわが国の安全を十分に確保しえないことは政府の従来からの一貫した認識である。「事前協議について日本を含む極東の安全を確保するという見地に立つて同意するか否かをきめる」ということは、かかる認識の下に、極東の安全に関係する事態を常にわが国自身の「安全との関連において判断し、わが国の安全に直接、またきわめて密接な関係を有するかどうかを基準にして事前協議に対処するという趣旨であり、これは、御指摘の現行安保条約締結時における岸総理の答弁あるいは本年六月の愛知外務大臣の答弁の趣旨となんら矛盾するものではない。
3 御指摘の総理大臣の答弁中において東京への攻撃云々と述べたのは、全くの理論上の可能性の問題として触れたものに過ぎず、右答弁の趣旨は、戦闘作戦行動のための基地としての施設・区域の使用につき事前協議において米国政府に対して許諾を与えるか否かは、日本の国益を守るという立場から慎重に行なわねばならず、当該施設・区域が本土にあろうと返還後の沖繩にあろうと、その間において右の立場に相違があろうはずはないことを述べんとしたものであり、この点についての政府の見解には、従来から何の変更もない。
 なお、事前協議において施設・区域の使用につき許諾を与えることが直ちにわが国を戦争に巻き込むこととなり、これを拒否すれば戦争に巻き込まれないと考えるのは正しくなく、わが国の国益に照らして事前協議を適正に運用していく姿勢を保持することこそ侵略に対する効果的な抑止力を維持し、もつて日本の安全を確保するゆえんである。
4 御指摘のような事実はない。
5 共同声明第三項において、総理大臣が、極東における防衛条約上の義務を「米国が十分に果たしうる態勢にあることが極東の平和と安全にとつて重要であることを強調した」のは、極東情勢に関する一般的な意見交換の過程において極東における米国の効果的な抑止力の維持の必要性という見地から、侵略を未然に防止するためには、米国が日米安保条約を含む既存の条約上の約束は必ず守るとの決意を必要なときにはいつでも実証しうるような態勢にあることが望ましいとの考え方を示したものである。また、共同声明第七項において、「沖繩の施政権返還は、日本を含む極東の諸国の防衛のために米国が負つている国際義務の効果的遂行の妨げとなるようなものではない」との総理大臣の見解が述べられているのは具体的な事前協議にあたつてのわが方の判断基準を示したものではなく、わが国の安全との関連において極東諸国の安全に重大な関心を有するとの日本政府の一般的認識がある以上、安保条約及びその関連取決めを変更なしに適用するという形で沖繩を返還しても、それは、前述の米国の国際義務の効果的遂行と相互に矛盾するはずのものではないとのわが方の基本的見解を述べたものである。
 右に述べたとおり、引用の共同声明の表現は、いずれも、日米安保条約以外の米国の防衛条約上の義務の遂行をわが国が保証したというような性質のものではない。
6 韓国や台湾地域の安全は、わが国の安全にとつて重火な関心事であり、万一これが直接害されるような事態が発生すれば、わが国の安全にとつて由々しいことである。この点は佐藤総理大臣の所信表明においても説明したとおりであるが、これは現行安保条約締結以来政府が有してきた基本的認識である。
7 共同声明の関係部分の趣旨は、わが国の安全との関連における韓国及び台湾地域の安全に対するわが国の認識及び南ヴィエトナム人民の民族自決についてのわが国の立場を表明したものであり、御指摘の諸地域における民族自決の権利に対する侵害であるということはなく、内政干渉とするのはあたらない。
8 共同声明に述べられているところは、いずれも従来から通常の外交経路や安全保障協議委員会等の場を通じてすでに実行されている性質のものであつて、これを今回総理と大統領の間においてあらためて確認したものにすぎない。
 通常の外交経路の接触は当然のこととして、日米間ではこれまで、総理訪米時における米国政府首脳との会談をはじめとする、政府要人の会談において安全保障問題につき不断に意見交換が行なわれているが主たる協議の場を挙げれば次のとおりである。
   安全保障協議委員会
    構成  日本側    外務大臣及び防衛庁長官
        米 側    駐日米大使及び太平洋軍司令官
 この協議委員会は、時宜により、日米安保条約第四条の協議及び同条約第六条の規定に基づく交換公文所定の事前協議を行なう協議機関として設置されたものであるが、さらに日米両政府間の理解を促進することに役だち、及び安全保障の分野における両国間の協力関係の強化に貢献するような問題で安全保障問題の基盤をなし、かつ、これに関連するものを検討することもできることとなつている。この協議委員会は、これまでに十回開催されている(但し、事前協議はこれまで行なわれていない)。
    安全保障に関する事務レベル非公式会談
 日米相互に関心のある安全保障問題について、事務レベル要人の往来の機会等をとらえ、これまで数度非公式な意見交換を行なつてきたが、常設的機構ではない。
9(1) 自衛隊法上、自衛隊は、侵略に対して、わが国を防衛することを任務としており、わが国に対し外部からの武力攻撃がある場合には、わが国の防衛に必要な限度において、わが国の領土・領海・領空においてばかりでなく、周辺の公海・公空においてこれに対処することがあつても、このことは、自衛権の限度をこえるものではなく、憲法の禁止するところとは考えられない
(2) 自衛隊が外部からの武力攻撃に対処するため行動することができる公海・公空の範囲は、外部からの武力攻撃の態様に応ずるものであり、一概にはいえないが、自衛権の行使に必要な限度内での公海・公空に及ぶことができるものと解している。
(3) 艦載ミサイルについては、軍事技術の進歩に伴つて従来の艦載砲がミサイル化される傾向にある。四次防に建造する護衛艦については、この傾向をも勘案しつつ、いかなる装備をすべきか、今後検討することになろう。
 原子力潜水艦については、船舶の推進力として原子力利用が一般化していない現状において、これを保有する考えはない。
 また、F-4EJの爆撃専用装置については、同機は要撃に主用するものであり、これを装備することは考えていない。
(4) 現在、「国防に関する重要事項」を審議する機関として、内閣に、国防会議が置かれており、政府としては、これ以外に国の安全保障に関する特別の機関を設ける考えはない。
(一)1 北朝鮮の基本政策及び現実の行動の両面よりして、朝鮮半島における緊張状態は依然として存続していると考えざるを得ない次第である。
2(1) 引用の共同声明第四項の表現は、現在の極東情勢の下において、わが国の安全との関連で韓国の安全を一般的にどのように認識しているかを明らかにしたものであり、事前協議の問題とは直接の関係がない。また、ナショナル・プレス・クラブにおける演説等の中での総理大臣の発言は、いずれも、米国政府との関係において直接・間接に事前協議における許諾を予約したというような性質のものではなく、事前協議に際しての対処振りに関する日本政府自身の考え方を述べたものである。したがつて、この結果、米国政府との関係で、具体的事案にあたつてのわが国の自主的な諾否の決定が妨げられるというようなことはありえない。
 なお、国連軍としての行動に対しては、日本の平和と安全との関係と国連協力の立場との双方を勘案するとの従来の答弁は、現在においても政府の考え方を正しく反映したものである。
(2) 国連協力という名目で、自衛権の限界をこえることとなるいわゆる「海外派兵」を行なうことはない。
3 国連軍の軍事行動に関する政府の従来の答弁は、侵略の再発という新たな事態に対処するために国連が改めて集団的措置をとるまでの間、国連軍として当然とることあるべき防衛的行動までも排除されていることを意味したものではない。
4(1)(2)(3)及び5
 政府としては、韓国に対する武力攻撃、すなわち、組織的・計画的な武力の行使が行なわれるという事態となれば、戦闘作戦行動の発進基地としての施設・区域の使用についての事前協議に対しては、前向きに態度を決定するとの方針であるが、右以外の種々の武力紛争をわが国の安全との関連でどのように評価し、事前協議に際しどのように対処すべきかについては一概に予断しえず、個々の具体的事案に即して判断するよりないと考える。
6 前記一(一)5に述べたとおり、引用の共同声明の表現は、個々の事前協議にあたつてのわが方の判断基準とは直接関係がない。
(ニ)1 引用の共同声明第四項の表現は、現在の極東情勢の下において、わが国の安全との関連で台湾地域の安全を一般的にどのように認識しているかを明らかにしたものであり、事前協議の問題とは直接関係がない。
 また、ナショナル・プレス・クラブにおける総理大臣演説の御指摘の「認識」とは、「事前協議について、日本を含む極東の安全を確保するという見地に立つて同意するか否かを決める」とのくだりを受けたものではなく、直前の、米華条約上の「義務が発動されなくてはならない事態が不幸にして生ずるとすれば、そのような事態は、わが国を含む極東の平和と安全を脅かすものになると考えられます。」との文章を受けたものであり、これは、かかる場合に事前協議において施設・区域の使用を直ちに許諾するという意味ではないが、万一かかる事態が現実の問題となつた場合には、わが国を含む極東全域の平和と安全に及ぼす深刻な影響を十二分に認識して対処すべきものであることを述べんとしたものである。
2 共同声明にいう「台湾地域」とは、米華条約に基づき米国が防衛義務を負つている台湾及び澎湖諸島を指し、金門・馬祖は含まれていない。
3 一5において述べたとおり、引用の共同声明の表現は、沖繩の返還と米国の極東における防衛条約上の義務の効果的遂行との一般的関係についてのわが方の考え方を延べたものであり、個々の具体的事前協議について述べたものではない。
(三)1(1)(2) わが国は、南ヴィエトナム人民が民族自決の原則によりその将来を決定しうるような環境を作るという米国のヴィエトナム政策を支持し、そのために米国が払つてきた犠牲と努力に敬意を表するものであるところ、ソンミ村事件については、米国陸軍当局が現在調査を進め、事件関係者の軍法会議を開くこととなつており、その司法的結論が出される前にわが国としての立場を表明することは適当でないと考える。
2(1)(2) 政府は、B―52の問題については沖繩住民の不安を除くよう米側に配慮方つとに申し入れてきており、この点についての政府の方針には今後も変りがない。
 御指摘の共同声明中の「米国の努力」とは、ヴィエトナム問題解決のため米国が払つている全体としての努力を述べたものであり、そのための個々の具体的手段の是非を論じたものではない。
3 現在ヴィエトナム及びカンボディアにおいては、一九五四年のジュネーヴ協定、またラオスにおいては一九六二年ジュネーヴ協定に基づき各々休戦監視機構が設けられている。インドシナ地域に将来どのような平和維持機構が設けられるか、たとえば現行の国際休戦監視機構が強化されるかあるいは全く新しい国際機構が設立されるか、将来の平和維持機構の任務、権限、規模等は関係当事国により決定されるものである。わが国としては従来よりインドシナの平和と安全を強く希望する立場から、求められればわが国国内法制上の許す範囲内でかかる機構に参加する用意があることを明らかにしてきたのである。
4 わが国は開発途上国なかんずくアジアの開発援助の課題に積極的に取り組む方針であり、既にいくたびもこの方針を内外に明らかにしている。具体的には、わが国の経済力の許す限り援助量の増大と条件の緩和を促進し、あわせて援助の効率化を図る考えである。二国間援助については、アジア諸国の実情を勘案しつつ、案件ごとに民間ベースの協力を含め適切な協力を行なうこととし、多数国間援助については、アジア開発銀行、特に同銀行の特別基金の充実強化を図つて行く方針である。他方、東南アジア開発閣僚会議、メコン開発計画等アジアにおける地域協力の育成強化を進めて行きたい。
 ヴィエトナム戦後のヴィエトナムをはじめ戦争による被害を蒙つた近隣諸国への援助は、難民救済や戦災復興のための応急的な復旧援助及びその後に来るべき経済復興、開発援助が考えられるが、これらの援助については、有償、無償の援助を適宜組合わせ、また、アジア開銀、世銀グループ等国際機関の資金も活用しつつ、援助の実効をあげてまいりたい。
 いずれにしても、わが国はヴィエトナム戦後援助について、わが国の国際的地位にふさわしい協力を行なう考えであるが、援助額がどの程度になるかは、ヴィエトナム及びその周辺諸国の援助必要額や他の援助諸国の援助意向等を勘案しつつ決定さるべきものであり、現在のところいまだ決める段階ではない。

二1、2 御指摘の共同声明の表現は、現在の極東情勢の下におけるわが国を含む極東の安全保障についてのわが国の基本的見解、沖繩における米軍の存在の一般的意義に対するわが方の評価、沖繩返還と米国の域内における防衛条約上の義務の履行との一般的関係、返還後の沖繩の防衛についてわが国が当然負うべき責務の遂行の意図等を述べたものに過ぎず、いずれも沖繩返還のための条件というようなものではない。
3(1) 政府としては、沖繩の返還予定時までヴィエトナム戦争が現在のような形で続いているということは、だれにとつても望ましくないことであるのみならず、実際問題としてまず起らないものと考える。しかしながら、現在パリ会談を通じて北越側と和平交渉を行なつている米国としては、特定の時点までに必ず戦争を終結させることを一方的にコミットしうる立場にないことも当然であり、さればこそ、現在の時点で、一九七二年になつても依然としてヴィエトナムにおける平和が実現していないという事態を可能性の問題として全く排除したり、また、排除したと解されうるような立場を公に表明することはできないわけである。
 したがつて、共同声明においては、万一そのような事態が起つた際には、その時点での諸般の情勢を考慮しながら日米双方が十分協議をして対処しようということになつた次第である。その場合には、そのときの和平の見通し、ヴィエトナムにおける軍事情勢等を慎重に検討して判断することとなろう。
(2) 施政権返還後の沖繩からのB-52の出撃という事態はないと確信している。
 なお、安保条約における極東は、日米両国が平和及び安全の維持に共通の関心をとくに有する区域として捉えられており、沖繩の施政権返還により、わが国が前記のごとき意味において関心を持つ区域が自動的に広くなるというようなことはなく、政府としては、極東の範囲に関する従来からの統一見解を変更するつもりはない。
 もつとも、一般的にいえば、安保条約に基づき米軍がわが国の施設・区域を使用して行動する範囲が必ずしも条約にいう極東に局限されるわけではないことも、従来から政府の統一見解として明らかにされているところである。
4(1) 御指摘の米華条約の付属交換公文の趣旨は、「両国の共同の努力及び貢献の所産である軍事力」との表現に明らかなとおり、台湾及び澎湖諸島からの軍事力の移動についての合意であり、沖繩にある米国の軍事力につき同国が中華民国に対しなんらかの法的義務を負つたものと解されない。
 いずれにせよ、共同声明の表現は、沖繩における米軍の具体的な配備振りや個々の基地の機能を論じたものではなく、従つて、「沖繩の米軍基地に米軍の全機能をそのまま維持することが前提条件にされている」というようなことはない。
(2) 沖繩における米軍の存在が、施設権返還後も引き続きわが国及びわが国を含む極東の安全に重要な役割りを果すと考えられることを念頭におきつつ日米安保条約及び地位協定適用準備のための日米間協議及び施政権返還後の日米協議を通じて実質的に妥当かつ可能な範囲で現存基地(増強工事があればそれを含む)の整理統合を行なう所存である。
(3) 安保条約に関連する諸取決めとは安保条約とともに国会の承認を得ている条約第六条の実施に関する交換公文、すなわち事前協議の取決め、吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文、相互防衛援助協定に関する交換公文及び地位協定を指す。
 従つて、地位協定が沖繩返還後も変更なしに適用されることは言をまたない。
(4) 御説のような趣旨での国内法改正その他の立法措置は考えていない。
5(1) 返還後わが国の施政権の下にもどる沖繩をわが国が自ら防衛するのは当然のことである。共同声明の中で、総理が「返還後の沖繩の局地防衛の責務を……徐々に負うとの日本政府の意図を明らかにした」のは、かかる政府の意図を明らかにしたものであり、愛知外務大臣が「政府は最善のペースで徐々にこれを実現して行く」と説明したことも、このことを一般的に述べたものであつて、今回の首脳会談において、米側に対し「沖繩防衛構想」、「防衛力増強計画」又は「日米共同防衛態勢」を具体的に示した事実はない。
(2) 沖繩の施政権返還に関する具体的取決めの中に御指摘のごとき沖繩防衛構想の内容は含まれない。
6(1) 沖繩の本土復帰のための準備は、全体として日本の内政問題的色彩の強いものであるが、これらの復帰準備が行なわれる間、沖繩は依然として米国の施政権下にあるのであり従つて復帰準備のための諸施策も完全にわが国の内政問題とはいい切れず、その実施にあたつても、施政権者たる米国の同意を得てこれを行なうことが必要である。
 佐藤・ニクソン共同声明の第十項において沖繩における復帰準備につき、日米両政府が協議し、協力することを述べ、そのための機構の整備を定めているのもこの故である。
 なお、共同声明第十項は、復帰準備についての日米両国の政府レベルの協力のあり方についての原則を述べたものである。
 実際問題として復帰準備については日本政府が琉球政府と連絡を密にし、またその要望を日本政府のとる復帰施策に出来るだけ反映せしめるよう配慮して行くのは当然である。
 両国の政府レベルの協議機関としての準備委員会に琉球政府の行政主席が顧問として参加することを予定しているのは、沖繩における復帰準備についての日米両政府間の協議に出来るだけ沖繩住民の意向を反映せしめんとする配慮に出たものである。
(2) 沖繩においては、米国の施政権の下においても各種の損害補償のための措置がとられてきている趣であるので、政府としては沖繩県民がこれまで被つた損害がどのようなものであつたのか、これについてどの様な補償がなされているのかといつた実態を調査した上で、検討していく所存である。
(3) 沖繩の場合に多くの人口が長期間にわたり米国の施政権下におかれて法律関係も複雑多岐にわたつている実情にあることは事実であり、政府としては、かかる事実を十分念頭において公正妥当な解決に努める所存である。
(4) 沖繩における米国資産の処理については、米側の主張が明らかでない現在、わが国としての考え方を述べるのは適当ではないと思われるが、基本的には米側の主張を訊し、わが国の主張を理解させたうえで公正かつ衡平の原則により筋のとおつた処理をいたしたい。

三1 総理は、核兵器に対する日本国民の感情を背景とする政府の政策、すなわち非核三原則について詳しく説明し、これに対し、大統領が、「深い理解を示し、……沖繩の返還を右の日本政府の政策に背馳しないよう実施する旨を確約した」のであるから、米国としては、沖繩に核兵器が置かれているとすれば返還前にこれをすべて撤去することになるわけで、前記の大統領の言明は、米国政府の最高責任者たる大統領の「確約」であるからには、これ以上の明確な保証はないと考える。
 「米国政府としては、事前協議制度に関するその立場を害することなく」というのは、返還後の沖繩への核兵器の導入は安保条約に基づき事前協議の対象となるべき性質の問題であることを、米国政府の立場として念のため確認したものである。これは、現在の日本本土の場合と異ならない。
 返還後の沖繩に対しても非核三原則を本土と異なるところなく適用するというのが政府の方針である。
2(1) 政府の非核三原則についての考え方はすでに国会等において十分説明されているとおりである。そのような考え方に立つて総理は非核三原則を説明したのである。
(2) 原子力基本法第二条は、「原子力の研究、開発は、平和の目的に限る」旨規定しており、核兵器の実験、製造などはできないことになつている。
 核兵器の持ち込みについては、政府はこれを認めない原則を貫く考えであり、御説のような「核兵器禁止法」を制定する必要を認めない。
3(1)(2) 施政権返還後の沖繩に対しては、安保条約及びその関連取決めが、本土と異ることなくそのまま適用されることとなるので、核兵器の持込みの問題も現在の本土と全く同様に扱われることとなる。
 御指摘の米政府筋の言明として伝えられたところは、事前協議に関し「イエス」も「ノー」もありうるという事前協議制度の本質について述べたものと思われ、然りとすればこの言明が共同声明の内容に相違していることはない。
 返還後の沖繩に対しても、非核三原則を本土と異なるところなく適用するというのが政府の方針であることは、既述のとおりである。
4(1) 三、1の答において詳しく述べたとおり、大統領自らが沖繩の返還をわが国の非核三原則に背馳しないよう実施する旨確約したのであり、また事前協議制度が適用になる沖繩にひそかに核兵器を存置しておくが如きことは、事前協議制度を含む安保条約の趣旨に明白に反する行為であるので、米国がこのような重大な不信行為をおかすことはありえない。
(2) 政府は現在本土において米軍に提供している施設及び区域についてはすべて公表しているが、施政権返還後沖繩において米軍が引続き使用する施設及び区域についても同様に措置する考えである。
(3) 条約第六条の実施に関する交換公文に基づく事前協議は政府の責任においてなすべきことであり、逐一その微細な内容を公表するという性質のものではないが、国会に報告するなどの方法によつて差しつかえのない範囲内において公表することとしたいと考えている。
(4) 特定地域における核兵器の存否が米国にとつて重要な軍事上の機密事項であり、容易にこれを外部に示しえないことは、想像しうるところであるが、他方、米国政府の責任者の決定に基づき正当な権限を有する官憲が同政府を代表してわが国政府に対し、沖繩からの核兵器の撤去ないし沖繩における核兵器の不存在を確認することを禁ずるような法律上の制約が存在するとは承知していない。
 なお、米原子力法についていえば、同法に定める秘密資料の外国政府への通報の禁止又は制限の規定は、技術情報(核兵器に関しては、その設計、製造、利用方法)に適用されるものと解され、本件のごとく、特定の地域における核兵器の配備の有無に関する情報にまで適用があるとは解しえない。