質問主意書

第61回国会(常会)

答弁書


答弁書第七号

内閣参質六一第七号
  昭和四十四年八月五日

内閣総理大臣 佐藤 榮作      


       参議院議長 重宗 雄三 殿

参議院議員河田賢治君提出農地法の改正に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員河田賢治君提出農地法の改正に関する質問に対する答弁書

一 農地法の目的の改正について
1 「土地の農業上の効率的な利用を図るためその利用関係を調整」するとは、条文に即して具体的にいえば、第二条第七項(農業生産法人の要件緩和)、第三条第二項(農地等の権利移動の許可基準の改正、農業協同組合の農業経営の受託に伴う権利取得および農地保有合理化促進事業を行なう非営利法人の同事業の実施による権利取得の容認)、第七条第一項(小作地所有制限の適用除外の拡大)、第七十五条の二から第七十五条の十まで(草地利用権制度の創設)、第八十三条の二(違反転用に対する処分)などの規定の内容をさすものである。
2 いわゆる「荒しづくり」、「裏作放棄」、「営農停滞農地」等の実態については、その判定が困難なため、御質問に直接答えるような資料はない。しかし、「過去一年間全く作付しなかつた耕地」を、「農業センサス」でみると、昭和三十五年には三六千ヘクタールであつたものが昭和四十年には八四千ヘクタールに激増している。また、水田の裏作については、同じく「農業センサス」によれば、「実際に二毛以上を作付けした田」の面積は、昭和三十五年に九〇四千ヘクタールであつたが、昭和四十年には六三四千ヘクタールに減少している。
 なお、昭和四十二年度の「農業調査」によれば、主として「耕作を放棄した(不作付け)」事由で過去一年間に経営耕地面積が差し引き減少した農家数は五一千戸で、その経済地帯別内訳をみると、都市近郊九千戸、平地農村一〇千戸、農山村二〇千戸、山村一二千戸となつている。
3 農地の非効率的利用の増大をもたらしているのは、御指摘のように農地制度以外の要因も多いが、小作地所有制限、賃貸借に関する規制など農地法が現状においてかなり硬直的であり、農業およびこれをとりまく諸条件の変化に即応できないことも大きな要因となつている。
 今回の改正案は、農地法によつてもたらされているこのような要因について、これを除去しようとするものであるが、農地法の本来の性格からして、農業外の要因を除去しようとするものではない。

二 農地等の権利移動の制限の改正について
1 農地等の権利を取得しようとする者またはその世帯員がその取得後において行なう耕作または養畜の事業に必要な農作業に従事する日数が、年間一五〇日以上であると認められる場合は、「常時従事する」場合に該当する。なお、耕作または養畜の事業に必要な農作業のうち、当該地域において通常みずから処理すると認められる農作業に常時従事する場合には、その従事する日数が一五〇日に達しない場合にも、「常時従事する」場合に該当すると考えている。
2 農地等の権利を取得しようとする者またはその世帯員がその取得後において行なう耕作または養畜の事業に必要な農作業に常時従事せず、農業経営の管理に常時従事するにすぎない場合には、その農地等の権利の取得は許可することができない。
3 下限面積制限については、農地等の権利の取得後の面積が五〇アール以上となる場合にはその取得前の面積にかかわらず許可できることとしており、さらに、園芸等の集約的に行なわれる経営については、その取得後の面積が五〇アールに達しなくても、例外的に許可することができることとしている。したがつて、今回の改正案によつて零細な農民を農業不適格者であると認めるわけではない。
4 いわゆる通作距離については、当該地域における耕作者の通常の通作距離を基準として判断することになるが、これを著しくこえるような場合には、当該地域における道路の整備状況、栽培作目の種類等を勘案し、その農地等を取得した場合、これを効率的に利用することができるかどうかを特に慎重に審査することといたしたい。
 以上のような通作距離についての判断に基づく処分に対して不服がある者は、行政不服審査法に基づき審査請求をすることができ、また、その審査請求に対する栽決を経た後裁判所に当該処分の取消しを求める訴を提起することができる。
5 「農産物の需要と生産の長期見通し」における農家戸数および農業就業人口の見通しは、最近までの農家戸数および農業就業人口の減少傾向を基礎としてその将来を推計したものである。
 今回の改正案が農家戸数および農業就業人口にいかなる影響を及ぼすかを計数的に明らかにすることはできないが、この改正によつて、農家戸数および農業就業人口の減少が円滑に進むものと考えている。

三 農業生産法人の要件の改正について
1 今回の改正案でも農業生産法人の要件として資本のみの提供者が構成員となることはできないこととしているので、農業外の資本が資本出資形態によつて農業生産法人に参加することはできない。
2 資本を提供するだけでは農業生産法人の構成員となることはできないので、農業外の資本によつて農業生産法人が直接つくられるということはない。また、農業外の資本が農家等を利用して間接的に農業生産法人をつくり、これによつて不耕作目的の権利取得を意図すると認められる場合には、その権利取得を許可しないこととされている。
3 農業生産法人の要件緩和は、農業生産技術の進歩、兼業農家の増加傾向などを背景とし、兼業農家を含めて技術や経営能力のすぐれた専業農家を中核とした経営組織によつて農地が効率的に利用されるようにしようとするものである。
 農業生産法人の内部関係については、その法人の形態に応じ、それぞれの法人の根拠法令において適切に定められているが、農業従事者の地位が十分尊重されることを基本とし、あわせて他の構成員の正当な権利が害されることのないよう指導に努めることといたしたい。
4(イ) 農地保有合理化促進事業を行なう法人は、同事業の目的が農地保有の合理化を図ることにあるという点においては農地管理事業団構想と同様であるが、この法人の事業は農地管理事業用構想の場合と異なり、地方公共団体が中心となつて地域の実情に応じて実施しうることとされている。なお、今回の改正案ではその事業には農用地の開発造成事業が含まれているが、農地信託および農地取得についての融資を行なうこととしていない点も農地管理事業団構想とは異なつている。
(ロ) 農地保有合理化促進事業を行なう非営利法人については、民法第三十四条の規定により地方公共団体が中心となつて設立した社団法人もしくは財団法人または市町村であつてその事業の実施地域、実施基準等が農地保有の合理化を促進することとなるよう一定の要件に適合するものについて、農林大臣が個別に指定するよう農地法第三条第二項ただし書の規定に基づく農林省令において定める予定である。
(ハ) 農地保有合理化促進事業を行なう非営利法人が農地等の売買、造成等に要する資金を調達する方法については、今後における農地保有合理化促進事業に関する具体的な施策の展開に即応して検討することとしているが、この法人が系統資金等の民間資金を活用することは差し支えないと考えている。
(ニ) 農地保有合理化促進事業を行なう非営利法人は、(ロ)で述べたとおり、農林大臣が個別に指定することを予定しているが、この法人が農地等の権利を取得する場合には、農地法第三条の規定により個別に都道府県知事の許可を受けなければならないことになつており、その事業実施地域も原則として農業振興地域の整備に関する法律による農用地区域またはこれに準ずる地域に限ることとする予定であり、さらに、その事業の実施が適当でない場合には、最終的にはその指定を取り消すことができるので、この法人がブローカー的行為を行なうことは防止できるものと考えている。

四 賃貸借に関する規制の改正について
1 小作人の階層別内訳については、昭和四十年の「農業センサス」によると借入耕地のある農家は全階層にわたつており、都府県について経営耕地規模別に借入耕地のある農家の分布をみると、〇・五ヘクタール以上一ヘクタール未満層が三七パーセント、一ヘクタール以上一・五ヘクタール未満層が一九パーセントで、両者を合せて五六パーセントを占めている。地主の階層別内訳については、それを明らかにしうる統計資料はないが、昭和三十五年の「農林業センサス」によると、農家が借りている耕地三五六千ヘクタールに対し、農家が貸している耕地は二五九千ヘクタールであり、その差は非農家の所有する小作地と考えられる。なお、小作地の所有者は、農地法上在村者に限られ、その所有面積規模は都府県で平均一ヘクタールの保有限度内である。
2(イ) いわゆる残存小作地は、その大部分が御指摘のとおり法定更新され、期間の定めのないものとなつているので、今回の改正案によつても、小作人の同意がない限り解約等について都道府県知事の許可を要するが、その許可制度の運用についてその基本方針に修正を加えることは考えていない。
(ロ) 近年、賃貸借等により、水田の裏作に飼料作物の作付けが行なわれるようになつてきているが、農地法による許可を受けているものはほとんどなく、その実情を明らかにする統計はない。
(ハ) 小作人が小作地を受益地とする土地改良事業の賦課金等を負担している場合には、小作人は、民法第六百八条第二項の規定により地主に対して有益費の償還請求をすることができる。なお、この場合地主が小作人に対し償還すべき額は、土地改良法第五十九条の規定により当該土地改良事業による小作地の増価額とされている。
(ニ) 農業委員会等による和解の仲介は、民法上の和解を農業委員会等が仲介して円滑に進めようとするものであつて、このような仲介行為は本来法律上の拘束力を持たない性格のものである。
(ホ) 和解の仲介は当事者間の話し合いによる円満な解決を図ろうとするものであり、それが成立しなかつたからといつて、耕作権または所有権のいずれかが優先するというようなことになるものではない。
3(イ) 昭和四十年の「農業センサス」によれば借入耕地のある農家数は一、五二三千戸であり、その借入耕地面積は、二七四千ヘクタールである。したがつて、借入耕地のある農家一戸当たり平均借入耕地面積は、一八アールである。また、小作地のうち貸借権の設定の時期が農地改革前であるいわゆる残存小作地の占める割合は、七割程度と推定される。
 なお、同じく昭和四十年の「農業センサス」で自小作別農家数をみると、「小作」は一〇〇千戸で総農家数の二パーセントにみたず、また上記のように小作地は多数の農家によつて耕作されていることから、小作農家を特に区分して農家経済を調査した統計はない。
(ロ) 小作料の標準額の決定に当たつては、今回の改正案第二十四条の二第二項で規定されているとおり、生産量、生産物の価格、生産費等を参酌して耕作者の経営の安定を図ることを旨としなければならないこととされており、その算定方法は、原則として粗収益から生産費用と経営者報酬を差し引いた残余を土地に帰属する部分とする方式によるよう指導いたしたい。
(ハ) 小作料の標準額は、農業委員会において十分議論をつくして、いわば当該地域の関係者の納得がえられるように定められるべき性格のものであり、このような性格を前提とする限り、これに法的拘束力を与えて罰則規定を定めることは適当でないと考えている。
(ニ) いわゆるヤミ小作関係の是正については、関係農家に対し、今回の改正案の趣旨の普及徹底に努めることとし、あわせて農地法の厳正な運用を行なうよう関係機関を強力に指導することとしたい。
(ホ) 今回の改正案第二十三条では、小作料の増額請求を受けた耕作者は、その所有者が裁判上の訴を提起し、その裁判が確定するまでは、相当と認める額の小作料を支払うことをもつて足りることとされており、耕作者がその所有者の要求する小作料を支払わないということによつて債務不履行にはならないので、そのことを理由にして賃貸借の解除を受けることはない。