質問主意書

第61回国会(常会)

質問主意書


質問第一号

交通事故の損害賠償責任に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十四年四月十一日

大和 与一      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   交通事故の損害賠償責任に関する質問主意書

 交通戦争の激化とともに、交通事故も増加の一途を辿つている。交通事故には、刑事責任とともに、当然損害賠償責任が伴う。
 交通事故の損害賠償責任は誰が負うべきであるのか一見極めて明瞭であるかのごとくみえるが、現実の事案に当面して見ると、責任の所在の不明確の場合が極めて多い。
 交通事故には、事故責任の分担問題を別にして、加害者と被害者が存在する。そして事故は事故を惹き起こしたいわゆる加害車両を加害運転者が運転して発生するものであるから、被害に対する損害賠償責任は、当然、加害車両の所有者と、加害車両を運転して事故を惹き起こした加害運転者が連帯共同して負うべきが常識的に当然であると考える。
 これ程に明解な損害賠償責任の論理が、現実の事故に当面して、極めて不明瞭の場合が多いのは一体どうしたわけか。
 それは、車両の所有者の解釈が明確を欠いている上に、所有者と運転者の関係が複雑な場合が多いからである。
 一般には、車両所有者と運転者との関係は
(イ) 所有者が自ら運転する場合
(ロ) 所有者の家族が運転する場合
(ハ) 法人所有の車両を法人関係者が運転する場合
以上のような場合においては、損害賠償責任の基本的原則を極めて明解に当てはめることが出来るものと考える。
 ところが、車両についての「使用者」「保有者」などという概念を設定して、実際の所有者と法律的所有者とを別人格として区別している場合が多い。
(イ) 車両の販売会社が割賦支払の売買で、代金支払未済の場合には、所有者は販売会社名儀であり、使用者欄に買受人の名儀が登録されている。
(ロ) 個人間の車両の所有権移転があつた場合において売買が完了していても、前所有者の名儀がそのままになつている。自動車取得税が創設されて以来、とくにこのケースが多い。
 このような状態の車両が事故を惹き起こして、自動車損害賠償責任保険金額三百万円を超える被害が発生した場合、損害賠償責任を負うべき対象人物の決定について議論が行なわれ被害者は事後処理に関して非常な迷惑をこうむつている。
 現行自動車損害賠償責任保険金三百万円で始末のつかない被害の交通事故が発生した場合に、自賠責保険金額を超える部分の損害賠償責任は誰が負担するのか。この問題の明解な行政判断、強力な行政指導こそ、当面する交通事故の事後処理、とりわけ被害者救済について最も重要なかつ急を要する課題であると考える。
 そこで、交通事故の損害賠償責任について、次のように、明確方向を示すべきであると考えるが、明解なる御所見をお伺いしたい。
 即ち、交通事故、なかんずく、自動車による交通事故の場合、損害賠償の責任は、加害車両の所有者並びに加害車両を運転して事故を惹き起こした加害運転者が連帯で負うべきものである。車両の所有者とは、車両検査証に車両所有者と登録されているものである。売買等による実質上の所有者が存在しても、そのことによつて損害賠償の責任を免れることは出来ない。
 自動車販売会社等において、割賦販売による自動車代金の支払未済の車両を販売会社の所有名儀にしている場合が多いが、これは代金確保の方法であつて、代金確保の反面に生ずる車両所有者としての一切の危険負担の責に任ずるのは当然であつて、販売会社は売買いずれの側の計算によるかは別として、自賠責保険に加入するはもちろん、相当額の任意保険に加入するのが当然と考えられるのである。
 個人間の車両売買が成立し、取引完了後も車両名儀の書換えが未済の場合といえども、その車両によつて発生した交通事故の損害賠償責任は当然車両所有者名儀人が負うべきものである。
 ただし、自動車販売会社名儀の場合も、個人名儀の場合も、名儀人が法律的な損害賠償責任者であることを明示したものであつて、法律的損害賠償責任を果すことによつて、法律的名儀人が加害運転者、又は実質上の所有者その他の者に対して、損害補償の請求権が発生することは、個々の契約内容や取極め等によつてあり得ることは当然である。