質問主意書

第48回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

国立療養所岡山県長島愛生園における医療行政に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和四十年五月十九日

須藤 五郎      


       参議院議長 重宗 雄三 殿



   国立療養所岡山県長島愛生園における医療行政に関する質問主意書

 憲法第二十五条は「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」と規定し、国はこれを実現するための義務を負つている。ましてや一般の人に比しあらゆる面で極端に不利な状態におかれているらい患者に対しては、国は全力をつくして、医療および療養生活両面にわたつて万全をつくすことは当然である。しかるに次にのべるように全くこれに反する事態が起つていることは、すべて政府の責任と考える。よつて左記事項について質問する。

一、長島愛生園の医師定員は二十四名であり、それが完全に充足されていても十分ではないのに現在員は十名である。そのため医師は過重の労働を強いられ、患者は十分な診療を受けられず、病状が悪化した者でも長時間待たされたり、僅か数分間の診察ですまされている。そのため患者は国の医療について絶望感に陥つているのが実態である。
 また、小児科専門医が外科を、内科医が眼科を兼任する状態であり、また、らいの基本治療科はあつても医師が不足であり、社会復帰の希望者に対しても、その看護は十分でない。かかる事態について、いかに対処しようとするのか。

二、長島愛生園に対する昭和四十年度第一・四半期予算示達のうち、医薬品購入費の内訳は年間診療点数を二、八六九、四四九点とし、一点単価を四円八十銭としたのは、いかなる根拠に基づくのか。また、これは十分なものではないと考えられるがどうか。十分でないとすれば、どのように改善するのか。

三、長島愛生園入所者千五百三十九名中、要看護者は九百名である。このうち六十四名の特別重症独身患者に限り、職員による看護をうけているが、他は軽症患者による看護にゆだねられている。近年、新発生患者の数が減少し、社会復帰者数の増加とあいまつて、軽症患者による看護制度はゆきづまり、重症患者はますます苦しい生活を余儀なくされたまま放置されている。かかる事態を打開するため昨年六月五日以来、全患協を中心にした患者百数十名が完全看護を要求してすわりこんだ際、厚生大臣は「急ピッチで残りをやりたい。困難はあるが努力するから信頼してほしい」と確約を与えた。しかるに昭和四十年度予算では全国十一療養所で七十五名の看護要員を確保したにすぎない。長島愛生園だけでも完全看護要員は最低百六十名必要であり、厚生大臣の確約はほごにひとしい。この責任をどのようにとろうとするのか。

四、入所患者の慰安金は、月額八百五十円、不自由者慰安金月額二百五十円は、三ケ年間も据置いたままになつている。諸物価の値上りが続いているとき、何故このような低額のままで放置したのか。また増額を必要と考えなかつたのか。生活保護法による結核患者の生活物品費昭和四十年度二千七十二円に比し、らい患者のそれは著しく低い。愛生園患者自治会は憲法に規定する「健康で文化的な生活」を営むために生活物品費五千円、不自由者慰安金千円を要求しているが、政府はこれを妥当と考えるかどうか。

五、昭和四十年度予算では食費日額百五十円となつているが、大蔵省発表の最低の献立でも百六十八円となつている。その大蔵省献立自体、種々の批判を受けているが、一日百五十円の献立で病気がなおせると考えるか。長島愛生園で購入している野菜は高価で、かつ、その騰貴は特に著しいのであるが、百五十円で前年並みのカロリーがとれると考えているのか。

六、患者作業員は付添日額百三十四円(午前六時半から午後五時半まで)、一般作業は七十六円という示達であるが、国は医療行政等の破綻を患者作業によつて補う不当な措置をしていながら、患者の貴重な労働に報いるに正当な賃金を出していない。かかる意味で二重に不当であるが、政府は、これを正当な賃金と考えているのか。もし正当でないと考えるならば、どのように改善するのか。