質問主意書

第33回国会(臨時会)

答弁書


答弁書第一号

内閣参質三二第一号
  昭和三十四年十一月二十日

内閣総理大臣 岸 信介      


       参議院議長 松野 鶴平 殿

参議院議員須藤五郎君提出児島湾締切堤塘委託管理に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員須藤五郎君提出児島湾締切堤塘委託管理に関する質問に対する答弁書

一、児島湾沿岸農業水利事業は、昭和二十五年、児島湾をその湾口弁天島附近で締め切り、湾内を淡水湖とすることにより沿岸干拓地の用水源を確保し、干害及び塩害を防除するとともに、沿岸低湿地の排水改良並びに湖内の既設干拓堤防の安全度を強化することを目的として着工したものである。従つて、同事業により造成された締切堤塘は、当初から、農業用の目的に限定された用途をもつ施設である。
 しかしながら、この施設は、通路又はリクリエーシヨン地域として多目的な利用価値を有するものであることはいうまでもないが、それは、あくまでも農業用の目的に附随する副次的効果であるというべきである。

二、政府は、国営土地改良事業によつて造成した施設については、土地改良法の規定に基づき、それを土地改良財産(行政財産)とするとともに、その管理を土地改良区等の団体に委託することとしている。本件についても、この方針に則り、締切堤塘の管理を児島湾土地改良区に委託することと内定し、また、締切堤塘を農業目的以外の他の目的に供することについても、(一)土地改良区は自ら又は他の事業会社等と提携してこれを行なうことができず、他の事業会社等にこれを行なわせるべきこと、(二)土地改良区は他目的使用を行なう他の事業会社等から使用料金を徴収し、これを締切堤塘の管理に要する経費の一部に充てることができること、の指導方針を明らかにしている。この方針策定の根拠は、土地改良法及び同法施行令において、(一)土地改良区は土地改良事業及びこれに附帯する事業を行なうことができるのにとどまり、土地改良事業とは別個の観光交通事業等は営むことができないこと、(二)土地改良区は締切堤塘の管理に要する経費のすべてを負担すべきこととされている反面、管理に伴う収入は土地改良区に帰属すべきこと、と定めているところにある。
 この場合において、土地改良区が他の事業会社等から徴収した料金をもつて締切堤塘の管理費用に充当することは、本来ならば農民の負担となるべき管理費用の額を軽減することとなる。
 なお、締切堤塘を農業以外の他の目的に供することにつき、これを土地改良区自ら行なうこととした場合にあつても、これが土地改良財産(行政財産)の他目的使用である限り、その無償使用を認めることができない事情にあることは、同様である。

三、児島湖交通観光株式会杜(児島湖交通産業株式会社が正しい。)は、児島湾土地改良区に属する組合員が株主となることによつて、土地改良区とは別個に、商法の規定に基づいて設立されたものであるので、この限りでは、二において述べたような政府の方針に反するものではない。
 組合員の払い込んだとされている株式は、総代会の決議により積立金を各組合員に還付して払い込まれたものである限り土地改良法上支障はないものと考える。また、役員の定数の変更については、単なる総代会の議決をもつてこれを行なうことはできず、当然、別途定款変更の手続がとられるべきものである。
 なお、同株式会社の設立及びこれに伴う土地改良区の諸措置に関し、政府において行政指導を行なつた事実はない。

四、締切堤塘の地盤沈下については、引き続き詳細な調査を続行しているが、未だ沈下を続けている不安定な箇所があるので、今後引き続き捨石工事を施行し、堤体の安定を期したいと考えている。
 このような事情から締切堤塘の管理委託を今直ちに行なう考えはなく、補強工事がすすみ、堤体が所定の安全度に達したときに管理委託を行なう方針である。

五、国営土地改良事業の施行に当つては、土地改良法の規定により、事業費を含む土地改良事業計画につき、公告、縦覧をし、受益農民の三分の二以上の同意を得て決定することとし、事業に対する農民負担金の額及び納入方法は、同法施行令の規定により決定されることとなつている。また、事業施行中における物価の変動、工法の改善等による工事費の増加等を内容とする計画変更は、同様に、受益農民三分の二以上の同意を要件としているので、本件の場合においても、目下計画変更に関する所要の手続をすすめており、今日までに受益農民三分の二以上の同意を得ている。
 また、締切堤塘が「国道的性格」を有するとしても、農業専用施設である以上、法令の定めるところに基づく受益者負担金を免除することはできない。

六、政府は、既に、締切堤塘のもつ海水の侵入又は侵食を防止するための機能に着目し、締切堤塘の存する地域につき海岸保全区域の指定を行なうべきであると考えているが、締切堤塘が海岸法において適用を予想しなかつた施設であるため、その指定に関し海岸管理者たる岡山県知事と協議をする予定である。
 海岸法による海岸管理者の権限は、土地改良法に基づく管理を排除する趣旨ではなく、政府が締切堤塘につき、土地改良財産の管理作用の一環として、それを他目的使用の対象とし、収益事業の経営を承認することは、当該施設に対し海岸管理者の公物管理権が及ぼされることと矛盾するものではない。