質問主意書

第33回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

児島湾締切堤塘委託管理に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和三十四年十一月十四日

須藤 五郎      


       参議院議長 松野 鶴平 殿



   児島湾締切堤塘委託管理に関する質問主意書

一、児島湾沿岸農業水利事業に伴う締切堤塘(以下堤塘と略称す)は、農業用水の確保にとどまらないで、それ以上の比重をもつて、観光事業の育成と堤塘を有料道路として利用することとが、同事業成立の背景にあつたのではないか。これは今日なお変らないところであると考えられるが、政府の見解を明示されたい。
 昭和二十六年同事業が着工された当時の農林省岡山農地事務局長重政庸徳君は、「淡水湖の夢実るまで」(昭和三十四年二月一日児島湾土地改良区刊行)というパンフレツトに「農地事務局長時代の回想」と題したなかで、はつきりと観光事業の構想を説明している。このような構想は、農業水利に名をかり、淡水湖近くの金甲山、貝殻山等の附近の山地の値上りを見越しての土地の買占め、観光事業で大儲けしようと暗躍しているといわれる利権屋の策動を許し、農民の利益が第二次的に扱われるに至つたと考えるが、実情はどうか。

二、農林省は、堤塘を児島湾土地改良区(以下改良区と略称する)に委託管理をさせ、それを名目として、改良区は経済事業ができないから観光会社を別に設立し、堤塘を有料道路として同会社の事業収入とし、その利益金のうちから改良区に利用料を支払わせて、堤塘の維持管理費にあてさせようとしているのではないか。堤塘維持管理の具体方針を明確にされたい。
 土地改良法第二条第二項第七号と、第十五条第二項の「土地改良事業に附帯する事業」に関する規定は、あきらかに改良区が附帯事業として経済行為を行い得るものと解せられる。これを行つてはならないとの禁止規定はない。また、改良区定款第四条には「堤塘及び施設」は「支障を来たさざる範囲に於て他の目的に使用することが出来る。」と規定している。この規定で「他の目的に使用する」とは、堤塘を有料道路として使用することを予定したもので、この場合利用料が伴うことは自明の理であり、又当然無償で利用できるよう規定することも可能である。しかるに、別に観光会社を設立することは、会社の重役たちの喰い物に堤塘を供することになり、農民の受益者負担を軽減することにはならない。堤塘が宇野、岡山間を結ぶ短絡道路の性格をもち、また、住民の通勤の便等を考慮すれば、国道として無償で解放し国が堤塘の維持管理をなすべきものと考える。
 また、観光会社設立は、改良区役員の自発的意思によつて進められたとは、常識上考えられない。岡山農地事務局及び農林省首脳と改良区役員との間に黙約がなければできないことである。その事情をも併せて明確にされたい。

三、改良区は、すでに児島湖交通観光株式会社(以下会社と略称する)の設立を決定していたが、去る九月二十八日臨時総代会を開き、その議案第五号「他目的利用事業団体の設立について」を多数をもつて可決強行成立させている。この内容中、改良区基本金特別会計を株式払込に充当すること及び成規の手続を経ず役員定数を減員すること等は、あきらかに違法の決定であり、会社設立に改良区農民の金を利用せんとする背任行為といわなければならない。政府はこれを適法と考えているのか、農林省の指導のもとになされた決議であると判断されるが、真相はどうであるか。また、このような決議が実行されつつあるのを許可する考えであるのかどうか、行政指導の方針を明確にされたい。

四、堤塘の現状は、地盤沈下が停止していないし、淡水湖についても、岡山大学理学部の調査報告によれば定常的な終末状態に到達していないといわれ、これが定常的状態になるには十年を要するものとみられている。このような不完全状態にある堤塘を改良区に委託管理をさせれば、堤塘の維持管理の費用は予想外にかさみ、国の責任において行われた責任を委託管理後は改良区農民に転嫁することになる。不安定であつても委託管理をさせようとするのか。その時期をいつ頃と予定しているのか、見解を示されたい。

五、総工事費は当初約八億円であつたのが、十二億九千万円となり、さらに十九億八千万円と大きく膨張して現在に至つている。地元改良区農民は負担金を八億円に対する負担率〇・〇四六六八と考えていたのであるが、政府は十九億八千万円の工事費に対して地元負担率をかけ、九千二百万円を地元農民に負担させる積りなのであるか。工事費の膨張は政府の責任においてなされるべき性質のものである。改良区農民のうち藤田、興除両村では淡水湖を農業用水として利用できず、小坂部川ダムの受益者負担金までとられている不合理な状態におかれている。負担率は、国が〇・九二二二、県が〇・〇三一一二で、ほとんどが国の負担となつているのであるから、堤塘の国道的性格とその不安定性からみて地方負担金は当然全額国庫負担とすべきであると考えるが、政府の見解はどうか。

六、堤塘は当然海岸法による「海岸保全施設」として指定されなければならない性格をもつているが、政府にその考えがあるか。「海岸保全施設」に指定すべきものであるとすれば、観光会社が有料道路として使用料をとる営利行為は禁ぜられるべきである。したがつて、改良区の維持管理に委ねてはならないことを重ねて要請し、国と県で維持管理をすべきであるが、政府の具体方針を示されたい。