質問主意書

第26回国会(常会)

答弁書


答弁書第一〇号

内閣参質第一〇号
  昭和三十二年五月十九日

内閣総理大臣 岸 信介      


       参議院議長 松野 鶴平 殿

参議院議員千田正君提出引揚者の福祉厚生に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員千田正君提出引揚者の福祉厚生に関する質問に対する答弁書

一、政府は、終戦後今日に至るまで、引揚者に対し、応急援護、定着援護等各種の援護措置を講じてきた。更に今回在外財産問題審議会の答申に基き、引揚者給付金等支給法案を今国会に提出、その成立を見るに至り、これにより、外地における生活の基盤を失つた引揚者等に対し五百億円に及ぶ給付金の支給をすることになつた。
 政府は、この外、昭和三十二年度以降五ヵ年間に百億円程度の生業資金の融資と約二万戸程度の住宅貸与をすることを閣議決定してこれを実施することとしている。
 また、従来から引揚者に対する職業紹介については、相当の実績をあげているが、今後も引き続いて実施するとともに、特に職業補導等についても一般施策の中において実施する予定である。
 このように政府としてできうる限りの措置はとつている次第で、この際、御質問のような引揚者会館の建設を政府資金をもつて行うことは賛成いたしかねる。なお、御質問の諸経費といわれるものは以下に説明するように、この計画の引当財源とはなりがたいものである。

二、以下御質問第二項から第五項までの四項についての具体的事実及びその処置について回答する。
(1) 戦前外地割当の戦時公債について
 (イ) 戦前政府が外地において郵便局を通じ売出した国債の推定額は、約四億五千万円であるが、この国債は無記名国債であるため転々流通し、所有者が判明しないから、当該国債の外地残存債額及び未払利子額は、不明である。
 (ロ) 当該国債の銘柄別内訳が判明しないため、すでに償還期日又は利払期日が到来した金額及び支払済額がどの位あるかは不明であるが、引揚者が持帰つた分で支払期が到来したものについては、国債に関する事務を取り扱つている日本銀行(本店、支店、代理店)において支払を行つており、時効についても一定期間の特例を認めている。従つて、当該国債の未払元利払資金は、一般の無記名国債と同様、証券の呈示があれば、何時でも支払に応じなければならないため、必要なものである。
(2) 日満間郵便為替貯金業務の決済資金として委任された資金について
 (イ) 本資金受入による業務取扱の概況
 日満間においては、日満郵便条約に基く業務協定により、両国間の郵便為替、郵便貯金および郵便振替貯金の相互支払を実施していたが、終戦に伴い、決済金の受入が困難となり、日本側の貸越高が累積したので、昭和二十年八月二十八日以降この支払を停止した。
 ところが、もと満州国大使館から、この決済資金として二億円を貯金保険局に交付し、同金額およびこれより生ずる利子額を引当に支払再開方の申し出があつたので、同年九月十一日東京において逓信院ともと満州国大使館との間で協定を締結し、翌十二日から支払を再開した。しかし、連合国最高司令部から発せられた海外金融取引禁止命令に基き、同年十一月十二日以降再び支払を停止した。
 ただし、同年十二月四日郵便為替および郵便振替貯金については、同年九月二十三日までに本邦に到着したものに限り、千円を限度として支払うことが司令部から許可されたので、同日からこの特別取扱を開始した。
 (ロ) 本資金の処理状況
 本資金二億円は、もと満州中央銀行がもと満州国大使館に貸付け、さらに同大使館から貯金保険局長に交付されたものであるが、同銀行は、昭和二十年九月三十日閉鎖機関に指定された結果、閉鎖機関保管人委員会において、同銀行の資産整理を行うこととなり、昭和二十一年十一月同委員会から本資金の残額の返還方を請求してきたので、同年十二月九日残額一億六千四百十七万五千三百八十六円十五銭を利子額二千六百六十円とともに返付したので政府は何等保留していない。
(3) 勧業債券について
 日本勧業銀行は、旧日本勧業銀行法に基き、多額の勧業債券を発行したが、その発行に当つては、そのつど同法第五十二条の規定によリ大蔵大臣の認可を得て貸付資金を公募したのであつて、特定の事業目的のために、公募を行つた事例はない。
 なお、戦後実施した金融機関再建整備に際しても、預金債券等の切捨は行わなかつたので元利金の償還は発行条件通り支払期日は全額を支払つている。また、小額の勧業債券については、去る昭和二十八年六月及び同三十二年四月にそれぞれ臨時繰上償還を実施、目下それ等の債券についても現物と引替に額面通り支払つている。
(4) 在外財産申告について
 昭和二十年十一月連合国最高司令官の要求に基き、大蔵省令第九十五号により、引揚者から在外財産の報告を求めたことはあつたが、引揚者がこの報告をするために要した費用に関し、御申越のように政府が責任を認めたという事実はない。