質問主意書

第25回国会(臨時会)

質問主意書


質問第一号

引揚者在外財産暫定補償に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和三十一年十一月二十六日

田中 一      


       参議院議長 松野 鶴平 殿



   引揚者在外財産暫定補償に関する質問主意書

 全国の引揚者が、その在外財産処理について今日まで政府が何等の責任を取らなかつたことを遺憾としていることは誠に当然のことである。而も引揚者の主張は単に自己の権益を守ろうとするのみではなく、生命財産不侵害の原則を守らんとしているのであつて、極めて公正なる主張である。
 政府は第二十二回国会衆参両院における「在外財産処理促進決議」を尊重し、その決議通りの措置を昭和三十二年度において実施するものと期待する。
 よつて左の諸項について政府の所信を表明されたい。
 なお念のために申添えて御参考に供したいのは、引揚者の心境は、今日ではもはや猶予ならないほど緊迫した状態にあることである。従つて本質問書に対する答弁は親切且つ大胆に、そして引揚者はもとより広く国民にも納得のいくものとしてほしいことである。

一、社団法人引揚者団体全国連合会が全国引揚者の総意によつて立案した引揚者在外財産暫定補償法案は、国際的国内的現実に則した適切なるものと確信する。自由民主党は右の案を検討し、引揚者の要請を実現すべく努力することを公約し、且つ右公約に則り政府は厚生省令により引揚者在外事実調査を実施し、又在外財産問題審議会の改編をも行つたのである。
 この経緯よりして政府は引揚者の要望に応えて出来る限りの措置をなすであろうと考えるが政府の所信を伺いたい。

二、戦災者に対して国家としては戦時災害保護法によりそれぞれの戦災に応じて財的給与を交付したのであるが、この給与金をベースとして戦争賠償に充当された引揚者の在外財産について暫定補償を行うことこそが公正なる措置である。このことはさきに日本社会党より政府に申入れたところである。政府はそれだけの措置でも取るつもりはないか。

三、政府は在外財産問題審議会に対して本年六月四日引揚者の在外財産問題について諮問をなし、その答申を待つているとのことであるが、右審議会の答申と第二十二回国会両院の決議とは、その重要度において格段の差があることはいうまでもない。
 従つて右審議会の答申は参考資料とし、両院決議に即応する施策を昭和三十二年度当初予算において具現すべきであつて、政府はその方針でいるものと信ずるが如何。

四、鳩山総理大臣と本問題との主だつた関係をみると次の通りである。
(イ)昭和三十年六月二十二日総理は引揚者代表と会見し、引揚者の在外財産問題を未解決のまま十年間放置したことは惨酷であると述べた。
(ロ)同年六月二十三日衆議院、二十九日参議院本会議決議に際して重光外務大臣が政府の態度を表明した。
(ハ)同年十二月十五日政府代表として一萬田大蔵大臣は、衆参両院議長の正式斡旋により引揚者代表と会見し、自由民主党が引揚者側になした公約を尊重する旨言明した。
(ニ)同十六日参議院本会議において総理、重光、一萬田各大臣及び根本官房長官は、田畑金光議員の質問に答えて第一項及び(ハ)にある与党の公約は尊重する旨表明した。
(ホ)本年五月十一日閣議において引揚者在外事実調査実施を決定した。
(ヘ)六月四日在外財産問題審議会に諮問を発し挨拶をした。
(ト)日ソ共同宣言第六項において引揚者の在ソ財産を放棄することを確約した。
 そこで在ソ抑留同胞帰還問題が解決すると、国内における戦後処理の最終最大の問題としては引揚者の在外財産のみが残ることとなる。やがて引退されるであろう鳩山総理大臣としては引退前に本問題解決の具体的方針を明示する政治責任があることはいうまでもない。この際引揚者の在外財産補償について政府の真意を伺いたい。

五、引揚者在外財産暫定補償を交付公債によつて行うとして、その公債償還金又は利子を日本住宅公団に出資せしめ引揚者に対しては政府がその元利を保障するという方法も一つの方策であると考えるが、政府においては、そういう方法を実行する考はないか。これは参考として伺いたい。