質問主意書

第24回国会(常会)

答弁書


答弁書第一一号

内閣参質第一一号
  昭和三十一年四月六日

内閣総理大臣 鳩山 一郎      


       参議院議長 松野 鶴平 殿

参議院議員田中一君提出火力発電設備の輸入に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員田中一君提出火力発電設備の輸入に関する質問に対する答弁書

一、今回輸入が許可された三火力発電設備は、その建設の必要性が去る一月の電源開発調整審議会で認められたものであるが、同設備は大容量高能率のもので国産によることが不可能であつたため、止むを得ず必要最少限の部分についてのみ輸入を認めたものである。
 しかし、かかる規模のものにつき今後無制限に輸入を認めることは望ましいことではないので、これが対策として、政府としては電機メーカーに対し早急に二〇万KWまでの国産体制を整備するよう指導しており、メーカーもまた努力しているので、近く二〇万KWまでのものの受注が可能となる見込である。

二、現在国内電機メーカーの生産能力は年間八〇万KWであり、量的には十分の供給余力を残しているが、いわゆる火主水従的な考え方が濃くなるにつれて新鋭大容量火力設備へと需用者の要求は高度化してきたのであり、メーカーとしてこれに応じ得る体制は未だ十分整つているとはいい難い。
 現在国産品の最高は、東京電力千葉火力発電所の二号機、一二五、〇〇〇KW、一二七汽圧、五三八度Cであるが、今回輸入されるものは一五六、〇〇〇乃至一七五、〇〇〇KW、一六九汽圧、五六六度C級で、これをすべて国産によつて製作することは差当り困難であるので、必要な範囲において主要機器の輸入を認めた次第である。

三、従来におけるわが国の電源開発は、水力設備の開発が主であつたが、(1)開発が進捗するに伴い有利な水力地点の残されたものは漸減するに至つたこと、(2)火力の建設費は水力のそれの約二分の一の低廉さであること、等の事情から火力設備の建設に開発の重点が指向されるようになつたが、新鋭大容量高能率の火力発電設備をベースロードに入れ、ピーク用として大貯水池式の水力発電所を当てるという運転方式を採用する場合には、発電コストは水力による場合よりも低廉となり、ひいては開発に伴う電気料金の高騰を抑止し得るという利点がみられることは事実である。もちろん政府は、新鋭火力であれば無条件にこれを認めるという方針をとつているものではなく、需給上からみて当該設備が必要不可欠のものであり且つ高い稼動率を以て所期の運転を可能ならしめるものであるか否か、故障その他の事情で万一運転が止つた場合系統的にみてこれが十全の対策がたてられているか否か、更に又当該設備の導入の経済効果か大きいか否か、等種々の観点から十分な検討を加えた上で新設を認めているのである。このような観点からみて新鋭大容量火力設備の建設が必要不可欠だという結論が出た場合には、これが国産可能なものはもちろん国産によるべきであるが、最新高能率のもので国産不能のものについてはその必要最少限の部分についてのみ輸入に仰がざるを得ないものと考えるのであり、現に今回の三火力についてもこの方針に従つて最少限度の輸入を認めたのである。

四、電力会社が火力設備の輸入をするに当り競争入札によらず特命発注によつたのは、(1)今回のような大容量発電設備のユニットとしての受注が可能な会社は欧州にはなくて米国に限られていること、(2)東京、中部各電力会社がG・Eに、関西電力がW・Hに特命発注したのは、それぞれ前回これら外国メーカーからの輸入の実績を有している関係から、お互いの事情もよく分り信頼しうること、等の理由に基くものである。又価格については、ボイラー等下請部品の発注先その他値引の交渉等において充分の交渉を行うよう政府としても指導を行つたし、電力会社もこれに従つて努力をしたので、決して割高なものを買わされたとは考えていない。

五、政府としては、今回の火力発電設備の輸入がわが国重機械プラントの輸出に大きな障害となるものとは考えていない。
 又政府としては、できるだけ国産機械を使用するよう電力会社を指導しており、現に今回の輸入に当つても国産不能の必要最少部分についてのみ輸入を認めた次第である。

六、政府としても国産愛用の趣旨については全く同意見であるが、今回の新鋭火力は現状においては国産不能で輸入に仰がざるを得なかつたのであるが、一に述べたごとく可及的速かにかかる設備の国産が可能になるよう電機メーカーを指導しつつある。

七、今回の輸入火力発電設備は、昭和三三年一〇―一一月の渇水期に間に合わすためのものであるが、工期的にみて輸入機械の引渡が遅延するために運転開始がおくれることは無いものと考える。さきに電力会社とメーカーとの間に締結された「販売並に信用供与に関する契約書」によつても、タービン発電機は昭和三三年一月までには引渡しがされることになつているので、据付、試運転の期間を考慮に入れても三三年度の渇水期までには運転を開始できるものと思われる。

八、本件に関する火力発電設備の関税の免除については、実際の輸入がなお将来の問題であるので、今後の同種機械の国産状況等を充分に検討した上、慎重に決定することといたしたい。
 なお、火力発電設備に関する関税の一部を、直接、国産化の研究費に充てることは、関税に目的税の性格を持たせることとなるので、賛成し難い。