質問主意書

第24回国会(常会)

質問主意書


質問第二号

旋網漁業政策に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和三十一年一月三十日

青山 正一      


       参議院議長 河井 彌八 殿



   旋網漁業政策に関する質問主意書

 旋網漁業は、わが国の近海漁業中、重要な地位を占めるものであり、操業の漁船約二千隻、年間の漁獲高二億貫内外と称せられており、これが消長は独り関係業者のみではなく、種々な方面に大きな影響を与えるであろうことは論を待たないのである。近年本漁業の主要漁獲物たるイワシの不漁甚だしいため、漁業者の窮状まことに黙視し難いのである。関係者は、これが挽回に必死に努力しつつありとはいえ、政府の強力適切なる指導助成なくしては、目的達成は殆ど不可能であることを指摘強調せざるを得ないのである。政府においては、本漁業に関して如何なる施策が用意せられているか。この際、左記各項につき、具体的な見解を明示せられたい。

一、旋網漁業の調整、転換

(一) 大海区制の問題
 北部太平洋海区では、主要漁獲物たるイワシの不漁により致命的打撃を受け、僅かに鮪鰹につき、最近一部業者が成果を挙げるに至つたとはいえ、未だその経営安定の域に至らず、しかも、その操業区域は本海区中の局限された海域に止まり且つ飽和状態にあるのであるから、本海区を拡大せられ、多数の入会操業を許容するが如きこととなつては、本漁業の経営を根本的に破滅せしむることは必至である。よつて鮪鰹資源の科学的研究が大に進み、将来への見透しにつき確信を得るに至るまでは、大海区制を採用せられることには強く反対するものである。
(二) 隣接海区との調整
 現行海区制の下でも、隣接海区との調整を図ることはもとより必要であり、例えば、昨年行われた北部太平洋海区と静岡海区との間に行われた調整は甚だ有益であつたので、次の条件を考慮しながら、調整すべきであると考えるのである。
(1) 相互の入会操業を、一応、二十統程度とするも、事情の許す限りにおいて増加を妨げないこと。
(2) 操業期間は、相互同一とし、四月中旬より九月中旬までとすること。
(三) 大型船漁業の転入抑制
 特定の海区に転入操業の恐れある大型船旋網漁業の許可又は企業認可については、当該海区協議会の同意を要するものとせられたい。試験操業として、海区制を無視して大臣許可となつているものがあるが、その操業の成果から見ても、本漁業調整の根本理念から見ても、甚だ首肯し難い。又、資本会社等に対して、超大型の旋網漁業が許可せられているが、現存の海区内の漁業と競合せざるよう明確な限界を示す措置を採られたい。
(四) 北洋への転換措置
 イワシの不漁による旋網漁業の窮情打開策として、漁業手形の利用による沖合鮪鰹漁獲への転換措置が講ぜられたとはいえ、これは限られたものだけに止まり、大多数のものはその恩恵に浴し得ないので、昨年度からは更に遠洋延縄への転換が促進せられるに至つた次第である。これらの措置をもつてしても、旋網漁業の局面に大きな展開が見られないので、この際、北洋鮭鱒漁業の出漁船の選定にあたり、地縁的にも、操業経験、その他人的関係から見ても、寧ろ密接な関係にある北部太平洋海区の旋網漁船の、この方面への転換措置につき考慮せられんことを望む。

二、イワシの不漁対策

 イワシは、わが国漁獲物中で、国民大衆の生活に関係が深い食品として、又漁獲そのことが全国漁村に普遍的である関係からも、近年におけるこれが壊滅的不漁は、極めて重大な問題であるが、既に不漁の原因については、各方面における科学的研究も大に進み、今や何等かの対策をたてられる段階にありと信ずるのであるが、未だ施設の見るべきもののないことは甚だ遺憾である。速かに適切なる施策を講ぜられたい。

三、魚群探検飛行の実施

 旋網漁業者は、昭和二十九年九月、同三十年の五月及び九月の三回にわたり、北部太平洋海区の鮪鰹漁場につき、魚群探検飛行を実施した結果、短時間に広大な海域を一巡探査して能く魚群の移動分布等の状況を的確に把握し得ることを明らかにしたのであるが、これを組織的に実施して、広く業者を指導するが如きは相当の経費を要する事業であり、到底関係業者の負担に堪え得るところでないので、政府において適当の施設あらんことを切望するものである。

四、旋網漁業に関する金融施設の改善

(一) 融資のワクの拡大
 農林漁業金融公庫は、折角旋網漁業の漁船建造並びに合成繊維漁網の借入に融資の途が開かれたとはいえ、融資希望者殺到して数千件にも上り、結局、大多数の業者は、融資が得られない実情である。依つて、新年度よりは、(1)漁船建造に対する融資のワクを大幅に拡げられ、大型化転換に限らず、融資せられたいこと(2)合成繊維漁網購入の場合の融資は、組合自営の場合は勿論、個人対象のワクをも拡げること(3)担保物件は、融資対象物件に限定せられ、組合より転貸の場合の融資手続、融資条件を簡便にせられたい。
(二) 漁業信用基金協会の運営改善
 旋網漁業者は、漁業信用基金協会が、中小漁業の金融に関して光明を与えるものとして多大の期待を寄せ、窮乏の中から敢て進んで参加したのであるが、その運営の実情には甚だ不満なものがある。この際、次の如き措置を採られんことを望むのである。
(1) 運転資金七、設備資金三の比率となつているのを改め、設備資金のワクを拡げること。
(2) 保険料率を含む保証料率を引下げるとともに、保証委任による金融機関の正常な危険軽減率についての金利引下げと、一般市場金利の動勢に見合うよう、融資金利を引下げること。
(3) 物件担保を専一とせず、事業と人物とを主眼とする場合本来の趣旨による取扱を励行せられたいこと。

五、漁船保険の改善

(一) 漁船損害補償法の改正
 漁船保険制度は、屡々改正せられたにもかかわらずこれを利用するものの局限せられている現情に鑑み、次の点につき漁船損害補償法の改正を望むのである。
(1) 地区内の漁船所有者は、協同組合員たると否とを問わず、全船加入の義務制を改め、組合員所有のものに限り付保義務を適用すること。
(2) 業種別組合については、地区組合と同様に取扱うこと。
(3) 普通保険期間は、一ケ年を原則とするも、三四ケ月のものをも認めること。
(二) 漁具分損保険の実施
 現行制度では、漁具保険は、全損の場合に限られているが、旋網漁業の実態を見るに、漁具を二隻の漁船に分載する両手捲の操業である関係上、全損の場合は寧ろ例外であると考えられるのであるから、分損取扱を認められたい。

六、魚価の安定対策

(一) 魚価の安定についての基本的対策
 資本的漁業経営の場合は兎に角、中小漁業にあつては、不漁に悩されながら、豊漁には魚価の暴落により所謂大漁貧乏の奇現象に苦められている現情は、これを放任して置けば漁村を益々窮乏に逐い込むことはあまりに明白である。特に、北洋のサケ、マス、カニの如きは、豊漁に恵まれながら、経営が堅実に進められているのは、もとより種々な事情によるとはいえ、この根本において、魚価が比較的に安定していることにあること疑を容れないところである。旋網漁業を始め中小漁業の振興を図るためには、魚価の安定につき、基本的施策が確立せられることが最も急務であることを切言したいのである。
(二) 夏鮪の価格対策
 旋網漁業を始め、定置漁業により、春夏の交、多獲される黒鮪については、末だ適当な保蔵処理の方法が見出されないため、極端な価格の暴落に悩まされているので、これに対しては速かに次の如き施設を講ぜられんことを切望するのである。即ち、(1)漁獲物を市況漁況を見会いながら出荷を調整し得るため、水揚地において、短期間鮮度を保持し得るような保蔵処理の方法と施設(2)冷凍鮪の油焼けを防止する方法(3)新利用法と販路の確保等である。

七、漁業課税方法の改善

 現行の税制においては、変動所得の申告、漁網の減損量率による償却等の制度が設けられ、漁業の特殊性は考慮せられているけれども、なお、(1)不漁並びに災害対策準備金制度を設けること(2)漁業用設備財産の償却年数の適正化などにより豊凶常なき漁業の実情に適応した伸縮性と柔軟性ある課税方法が確立せられることを切望するのである。

八、昭和三十年十二月の暴風災害の復旧並びに救済措置

 客年十二月二十五、六、七の三日間、関東北沿岸一帯を襲つた暴風浪は、この被害甚だしく、漁船の転覆破滅、各種漁業設備の流失、漁港、船溜等の崩壊などの外、多数の人命が喪われたのである。しかも関係漁村は、既に漁況の不振、魚価の暴落等で窮状にあつたために惨状更に甚だしいものがあり、政府は速かに復旧並びに救済に関して適切な措置を採られたいのである。