質問主意書

第22回国会(特別会)

答弁書


答弁書第二号

内閣参質第二号
  昭和三十年六月二十四日

内閣総理大臣 鳩山 一郎      


       参議院議長 河井 彌八 殿

参議院議員木村禧八郎君提出筑豊炭田地帯の鉱害と遠賀川及び同支流の水害に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   筑豊炭田地帯の鉱害と遠賀川および同支流の水害に対する質問主意書に対する答弁書

一、遠賀川修補工事と鉱害復旧工事について

(1) 遠賀川修補工事について
 国直轄で施行中の遠賀川修補工事は、昭和二十年度に着手して以来国家財政の許す限りその進捗に努めて来たところであるが、昭和二十八年の西日本大水害の発生にかんがみ、本修補工事の計画についても再検討が加えられ、別添附図(第一号)掲示のとおり計画を樹立し、昭和二十九年度以降十ケ年間で完成を目途に、鋭意努力している次第である。
 しかして、右計画を完成するには、昭和三十年度以降において、約五十億円の事業費を必要とするので、当初計画通り十ケ年間に完成することは困難と考えるが極力短期間に完成せしめるよう努力する所存である。
 しかして、右計画工事が完成するにおいては、遠賀川本支川とも計画洪水流量までの出水に対しては、安全となる。
(2) 遠賀川の鉱害復旧工事について
(イ) 特別鉱害については、昭和二十四年より開始して昭和三十二年までに完成する予定であり、昭和二十九年度末までの施行済額は、五億六千八百万円、同三十年度以降の施行予定額は、一億二千七百万円である。
 これによつて、別添図面に示される特別鉱害認定工事の復旧は、全部完了する。
(ロ) 一般鉱害のうち臨時石炭鉱害復旧法による復旧工事として、昭和二十七年度より実施した箇所は、別添図面に示されるところで、昭和二十九年度までの工費は、四千万円である。同法の立前上各年度の復旧は、共同処理機関である鉱害復旧事業団が、当該年度の復旧基本計画を作成することになつているので、今後の具体的計画は明示し難いが、今後各般の調査を進めるとともに同事業団を強化して極力復旧の促進を図る考えである。
 なお、今後新たに発生する鉱害については、そのつど臨時石炭鉱害復旧法に基き、一般鉱害に繰り入れ、可及的速かに復旧工事を実施せしめる考えである。

二、鉱業法第五十三条の規定による減区または鉱業権取消の処分は、鉱害の防止または復旧等をもつてするも社会公益が当該区域における石炭資源開発の経済的価値を否定すべき程度に著しく浸害されるに至つた場合にのみ発動される措置である。
 これを遠賀川流域の筑豊炭田地帯について見るに、当該地は、わが国最重要の産炭地域であり、堤防の鉱害は、施業案による監督と復旧等を実施することによつて、災害の発生を事前に防止することが充分可能であること等を総合的に勘案して、現在のところ鉱業法第五十三条を適用する意思はない。
 ただ、遠賀川流域における鉱害の防止については、前回答弁書のとおり従来とも施業案により監督を行つて来たところであるが、その治水対策との関連の重要性にかんがみ、累積鉱害の計画的復旧を促進するとともに鉱害防止対策の確立に努めることとし、今後においても公益に著しく影響を及ぼすおそれのある地下採掘に対しては、個々の炭鉱についてそれぞれの条件を考慮して、採掘方法等の適正をはかる考えである。

三、前回答弁のとおり、本事案の場合は、採掘深度その他の諸条件から、沈下は極めて緩慢に進行し、かつ、均等な沈下を示すものと推定され、地表の施設物件に与える影響は、沈下が急速である場合よりも小さくなるもので、その復旧または事前の措置等を実施することにより河川保護上著しい障害とならないと判断して認可したものである。なお、全充填を行つても地表の沈下を完全に免れることは困難で、沈下と実害との関係は、沈下量のみでなく、地表の施設物件の内容により個別的に検討を要するから、実害を伴う沈下を防止するには何%の充填を必要とするかについて一率に結論づけることはできない。

四、戦時および終戦直後の国家的要請に基く強行出炭による累積鉱害に対しては、これを可及的速かに復旧または補修するとともに、採炭の正常化以後においては、前述のごとく石炭の合理的開発と鉱害対策ないし治水対策との関連において調整を図つて来たところであるが今後とも従前以上の監督指導を実施し、貴員の憂慮されるごときことのないよう努める所存である。
 遠賀川全域についての各社のカツペ採炭その他についての資料は別添資料のとおりであるが、採掘区域については、多数企業の経営上の秘密に属するものであるから提出致しかねる。

五、(イ) 三菱新入第六・七坑の図面は、前述のごとき理由により提出致しかねる。
(ロ) 遠賀川第一期改修工事区域内において、昭和十六年以降に生じた漏水箇所は、別添附図(第二号)に記載するとおりであつて、その概要は、次のとおりである。

漏水箇所調 1/2
漏水箇所調 2/2

 (ハ) 遠賀川第一期改修工事の竣功した当時の堤防の標高とその後の地盤沈下については、当時の竣功縦断面図等戦災により焼失したため拠るべき資料がないので、当時の堤防標高は判明しないから、昭和十九年以後の堤防縦断について調査した結果は、別添附図(第三号・第四号)のとおりである。
 なお、これらに対しては前述のとおり、それぞれの措置を講じ万遺憾なきを期する所存である。

六、前回答弁書において「なお堤防の河床高と堤内の地盤高の差についてはほとんど変化は認められないからこれによる水圧および漏水速度の増加は問題とならないと考えられる」と述べているのは、河床と堤内地との不均等沈下は、ほとんど認められないので、そのための水圧増加は、問題にならないという意味である。
 なお、一昨年破堤当時の洪水位が昭和十年および同十六年のものよりも低かつたことは事実であるが、地盤沈下の影響による堤防と水位との相対的関係においては、過去の出水に劣らない出水であつたといえる。
 質問主意書に破堤当時の洪水量が計画洪水位の半分以下であつたと述べているがかかる事実は認められない。
 要するに、破堤の原因は、前回の答弁書に述べたように、破堤地点の地下四-五米の所に存在した透水度の高い砂層が、度重なる出水によつて次第に透水度を高めていたため、前述の大出水により堤内に漏水し、破堤を誘発したものと推定される。
 次に、破堤復旧工事の施行に際し二段の補助小段を設けたのは、漏水防止対策であつて、これを設置した技術的根拠は、破堤によつてこの地点は附近の地盤に比して最大八米程度の深掘が生じたため、これを復旧する際には附近の地盤高まで埋め戻しを行い、更にその上に堤防を構築しなければならないが、かくしてできた堤防は、漏水を起しやすいので、その補強のために小段を必要としたもので、普通に行なわれる工法である。

七、採掘範囲の食い違いについては、前回答弁書のとおりであり、前回提出の採掘図(縮尺三千分の一)に最も正確に図示されている。
 堤防その他の沈下量の相違については、測量の方法、精度測点の位置、構造その他を異にするため、当然に相違するものであるが、今後は、極力連絡を密にして、積極的に総合的見地から実施するよう措置している。
                            (附図及び別添図の印刷は省略した。)

筑豊炭田におけるカツペ本数調査表 1/2
筑豊炭田におけるカツペ本数調査表 2/2

新入炭鉱年別六・七坑別出炭量表 1/2
新入炭鉱年別六・七坑別出炭量表 2/2