質問主意書

第22回国会(特別会)

質問主意書


質問第二号

筑豊炭田地帯の鉱害と遠賀川及び同支流の水害に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和三十年五月二十日

木村 禧八郎      


       参議院議長 河井 彌八 殿



   筑豊炭田地帯の鉱害と遠賀川及び同支流の水害に関する質問主意書

 昭和二十九年十二月二十四日附「西日本大水害に関する政府の四月九日附答弁書に対する再質問に対する答弁書」(内閣参質第一号)で政府は結語的に次の如く述べている。即ち「遠賀川流域は、極度に開発が進み人口ちゆう密し、加うるに永年にわたる大小炭鉱の石炭採掘による地盤沈下等もあるので目下施行中の遠賀川修補工事を推進すると同時に鉱害復旧工事の促進を図り、できる限り遠賀川流域の根本的治水対策に努める考えである。」これは政府自ら遠賀川水害の原因を石炭採掘に起因するものなりと認められたものと確信する。
 この問題を事実に即して精査するため、小員は現地に赴き数日にわたり、地質学者、建設専門家の協力と、現地の河川工事関係者の技術的説明を求め、かつ被害者の陳情に基き、実状を詳細に調査の結果、問題は河川のみならず、農地、鉄道、住宅、用排水施設等の極めて広汎な事物に被害を与えていることを知つた。まず鉱害の様相を遠賀川の河口から上流に向つて列記すれば
1 日炭高松炭鉱及び大正中鶴炭鉱の採掘は遠賀川右岸に沿つて大陥没地群を形成し、支線曲川を中心とする地域を荒廃させ、且つ本流右岸堤を著しく沈下させている。
2 三菱新入鉱業所の第六、七両坑及び鞍手炭鉱の採炭は支流西川を中心とする地域を荒廃させ、その両岸に大陥没地群を形成し、本流左岸堤数キロに亘る堤防の著しい沈下と、それによる漏水と破堤をひき起している。
3 古河鉱業所目尾炭坑は遠賀川左岸の広大な農地陥没と、鉄道、県道、人家に著しい沈下を生じている。
4 日鉄二瀬鉱業所の採炭は左岸水の江橋附近に於て著しい地表沈下を来している。
5 住友忠隅炭鉱の乱掘により飯塚駅附近二百五十戸の人家に毎年数回の床上床下浸水被害を与え、飯塚橋の沈下を伴う大陥落地帯を形成している。
6 三井田川第三坑は田川市内彦山川両岸の広大な農地及び人家を陥落させている。
7 以上の各地帯内の支流、西川、戸切川、曲川、黒川、笹尾川、犬鳴川等の河川とそれらの流域は惨憺たる荒廃状態にある。
8 特に一昨年の破堤地点を中心とする六キロ余の遠賀川本流区間には重大な漏水群を生じ、本川は捨ておき難い破堤の危機に直面している。
 政府はこの惨状に対する施策として、前掲答弁書において「目下施行中の遠賀川修補工事を推進すると同時に、鉱害復旧工事の促進を図り、でき得る限り遠賀川流域の根本的治水対策に努める考えである」と述べている。しかし果してこの方策で乱掘のため破局的な進行を示している筑豊炭田地帯の鉱害と、それにもとづく遠賀川と同支流の水害を根本的に解決できるか否か、その点について以下政府の所信を訊したい。

 第一は、政府の云う遠賀川補修工事と鉱害復旧工事は何ケ年計画で、何程の工費をもつて施行されるか、その結果、鉱害と水害の全体のうちどれだけの部分が、どの程度に改善されるか、設計書と図面によつて具体的に示されたい。なお、右の工事進行中に発生する新たな鉱害に対して政府はどう対処するのか、この鉱害と水害の悪循環をどこで切るのか、特にこの点を明らかにされたい。

 第二は、鉱業法第五三条に「通商産業局長は、鉱物の掘採が保健衛生上害があり、公共の用に供する施設若しくはこれに準ずる施設を破壊し(中略)、又は農業、林業若しくはその他の産業の利益を損じ、著しく公共の福祉に反するようになつたと認めるときは、鉱区のその部分について減少の処分をし、又は鉱業権を取り消さなければならない」とあるが、政府はこれをこの地帯に対して発動させる意思があるか、もしそうでないならば、前掲答弁書において、鳩山総理大臣が「鉱害防止については従来とも施業案により監督を行つて来たところであるが、今後も鉱害防止上充分な監督を実施したい」と述べていることは空辞ではないか。政府は吉田前内閣に比して、どうゆう方法で鉱害防止の監督行政を改善しようと考えているか、この点について政府の施策を明らかにされたい。

 第三は政府が前掲答弁書において「その採掘跡も四〇%程度の充填を行つているので沈下は極めて緩慢に進行し」と述べている。しかし沈下の進行速度が緩慢であつても、沈下それ自体が地上の諸施設に実害を与えることは明らかである。それにもかかわらず政府が充填の四〇%をもつて重要河川敷下の石炭採掘を許可した理由を説明されたい。
 なお、実害を伴う沈下をほぼ止め得るためには何%の充填を必要とするか技術的に説明されたい。

 第四は小員のもつとも憂慮する点で、政府の現在の施策をもつてしては、遠賀川流域全般の水害が防止できないばかりでなく、同河の流路を中心とする中央大手、地方大手各社の乱掘のため、水害は愈々激化してゆくことであるが、これに対する政府の見解如何。
 右に関し政府は遠賀川全域について前記大手各社の採掘区域を五万分の一地形図を用いて左記区分(イ)にそい色分けして、図示し、且つカツペ採炭法その他についての左記(ロ)(ハ)の事実を明らかにされたい。
 イ 区分は明治時代、大正時代、昭和元年より同十五年まで、昭和十六年より同二十年まで、昭和二十年以降
 ロ 各炭坑について長壁式及びカツペ採炭法を採用した年代、現在カツペ採炭法を採用している炭坑名、カツペの各炭坑別現在台数
 ハ 遠賀川第一期改修工事区域内において堤防並びに堤防に近接している箇所の鉱害の図示

 第五は遠賀川流域の大鉱害地帯のうち、現在もつとも破堤の憂慮される区域は三菱新入第六、第七両鉱の区域であり新に一昨年の破堤地点を中心とする植木町中ノ江より中間町までの六キロ余の区間に発生した漏水群の問題である。政府は左記の事実(イ、ロ、ハ)を明らかにした上でこれに対する対策を示されたい。
 イ 三菱新入六坑、七坑の昭和十六年以来の毎年の出炭量と同上年次別採掘区域の二万五千分ノ一地形図による図示
 ロ 遠賀川第一期改修工事区域内において昭和十六年以降に生じた漏水箇所を図示し、その発生の年月と原因
 ハ 遠賀川第一期改修工事の竣功した当時の堤防上の標高と、その後の地盤沈下についての水準点測量の成果

 第六は前掲答弁書において「なお、堤外の河床高と堤内の地盤高の差については、ほとんど変化は認められないから、これによる水圧及び漏水速度の増加は、問題にならないと考えられる。」と主張されているが、この主張を証明する事実をあげられたい。尚中ノ江左岸の堤防切開工事に伴う九州地方建設局、九州大学工学部、建設省土木研究所等における研究の成果にもとづき再検討された結果は右の主張を完全に証明し得たか否か、実測図その他をもつて技術的に説明されたい。
 なお、一昨年破堤当時の洪水位が昭和十年、十六年のものより低く、その洪水量は計画洪水位の半分以下であつた点を、洪水による水圧及び漏水速度の増加の観点を除外して技術的に説明し得るや否やを明らかにされたい。これと関連して中ノ江左岸の破堤復旧工事の漏水防止対策として堤内に大規模な二段の補助堤を築造する設計を採用された技術的根拠を説明されたい。

 第七は前掲答弁書において、採掘範囲の喰違いについてこれを、「縮尺の相違に基く図面の誤差程度」と述べているが、これを取消し、改めて何故にかかる喰違いが生じたかを説明されたい。
 なお、堤防その他の沈下量の測量が通産、建設両省において著しく相違していることに対し「目的上一応別個のもの」と述べているが、かかる相違をきたした原因を説明されたい。