質問主意書

第19回国会(常会)

答弁書


答弁書第一〇号

内閣参質第一〇号
  昭和二十九年五月七日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 河井 彌八 殿

参議院議員青山正一君提出水爆実験のわが国漁業に及ぼす影響についての質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員青山正一君提出水爆実験のわが国漁業に及ぼす影響についての質問に対する答弁書

一、米国政府が設定している危険区域は、立入禁止区域とは異なり、同区域内における漁撈又は船舶の航行を積極的に禁止しているものではないので、当該危険区域の設定そのものが直ちに公海自由の原則と背馳するものとは考えられない。

二、米国の水爆実験により近海の航行に影響が及び、例えばそのためにわが国の漁業に重大な損害乃至危害が及ぶ結果となつた場合は米国政府に対し、わが方が蒙つた損害の補償を要求する所存である。

三、危険区域の設定及び水爆の実験が直ちに公海自由の原則を侵すものではなく、この点李ラインの宣言、アラフラ海海棚領有宣言と同一視することはできない。

四、危険区域の設定及び水爆の実険と李ラインの宣言等とは性格を異にするので従来の李ラインの宣言等に対するわが方の主張を否定するものではない。

五、危険区域の拡大によつて危険そのものを局限し得ると能く保障し得るや否やについては近く、原爆被害について政府の調査船が現地に派遣されることとなつているのでその調査結果に基いて検討いたしたい。

六、わが国の漁船の操業の困難についての米国政府の認識は、必ずしも十分とは思われないので、危険区域拡大に伴う出漁漁船の航行の安全を図り、操業上の被害をなしうる限り、減少させるため米国政府に対し、次の申し入れを行つた。
(1) 実験実施期間を短縮すること。
(2) 危険区域を縮少すること。
(3) 実験実施に間隙を設けて被害の影響を軽減すること。

七、米国の水爆実験によりわが国の正当な漁業が蒙つた損害については今後とも米国政府にその補償を要求する所存である。

八、魚体検査に関しては、全品検査を行うことを原則としており、自然放射能(バツクグラウンド)の二倍から三倍以上のカウントがあり、放射性物質による汚せんが確認され、若しくはその疑が極めて大きいものについてこれを食用不適として処理している。
 従つて一尾又は若干の魚体に一〇〇カウント以上のものがあつたからという理由で当該漁船の全部の魚を廃棄せしめたことはない。
 なおこの処理方法は、専門学者の意見を徴して定めたものである。

九、魚類その他水産物の食用の向上普及の問題は、ひとり漁業の発展のためのみならず、わが国民保健上の重要問題であることは、御趣旨の通りであつて、現在の国民の摂取量は戦前を上廻るに至つてはいるものの、なおたん白質の摂取量は十分とはいいがたく、今後より一層多くこれを豊富な魚介類をもつて補給するように食生活の一環としても普及宣伝に力を尽すこととしたい。
 なお、今回関係海域に出漁した漁船の漁獲物については、入港毎に厳格な検査を行い、絶対に国民に被害を及ぼすことのないよう措置し、国民の不安を除去して魚食の恢復を図るとともに併せてその普及宣伝に努力している。

十、わが国の水産関係の科学研究施設については、その拡充強化について努力してきたのであるが未だ十分であるとはいいがたいので今後も御趣旨にそつて十分努力したい。