質問主意書

第15回国会(特別会)

答弁書


答弁書第五号

内閣参質第五号
  昭和二十七年十一月十四日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿

参議院議員青山正一君提出水産基本政策についての質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員青山正一君提出の水産基本政策についての質問に対する答弁書

第一 水産資源対策の確立

一、水産資源に対する基本的調査について
 水産資源は、多種多様なものから成り立つており、その分布回游等も広範複雑であるのみならず、年による変動も大きい。従つて、現在の所全面的な資源調査は行い得る段階に達していないが、国民生活に重大な関連ある重要漁業資源については、極力その実態の究明に当り、科学的行政の基礎資料の整備充実につとめているが、更に進んで、新漁場の開発並びに海況漁況の予報等により、漁業経営の安定に資せしめるべく努力中である。
 即ち、(一)以西及び以東底曳網漁業資源、(二)イワシ、(三)ニシン、(四)スルメイカ、(五)サンマ、(六)カツオ、(七)マグロ、(八)内海生産力、(九)紀伊水道資源、(十)内水面資源の調査等を各水産研究所において、(十一)膃肭獣、(十二)日米加漁業条約に基くぺーリング海の鮭鱒資源調査等を水産庁にて直接実施している。なお、行政上急速に解決を要する越佐海峡の資源の調査を実施すべく努力中である。
 又対馬暖流の資源開発及び瀬戸内海漁場開発については、本年度より部分的に着手したが、これを関係府県の協力の下に来年度から組織的に年次計画をもつて実施すべく目下努力中であり、又、近海の鯨、サバ資源の調査及び水質汚濁による沿岸資源の荒廃防除の方策をも究明する予定であるが、更に海洋の科学的調査により漁況の予報を行い、漁業経営の安定に資せしむる方途につき検討中である。

二、稚魚の実態調査に基いて、その乱獲の防止と繁殖の保護のための有効適切な制限措置について
 稚魚の実態調査は、重要水産資源調査の一環として研究中であるが、農林漁業試験研究費補助金の一部をもつてこれが研究を奨励補助しつつあり、なお研究の途上にあるが、現在判明せる沿岸重要漁業の一部について見れば、我が国の漁業が稚魚の漁獲に依存する事大であるため、広範な社会経済的問題を含みその対策樹立にはなお多くの考慮を要する。(例 マイワシの全漁獲重量の六七%は当才魚)
 以東底曳網漁業資源については、網目制限の効果について研究され、部分的には効果の確認せられるものもあるのであるが、これを行政施策面にとり上げる点については鋭意検討中である。

三、科学的調査研究施設の充実強化と漁業取締指導監督の強化について
 水産研究所は、従来の農林省中央水産試験場を昭和二十四年六月一日に改組し、八海区制(東海区、北海道区、日本海区、東北区、内海区、西海区、南海区、淡水区)の水産研究所として新発足したが、現在の陣容と機能をもつて、必ずしも充分とは云い難いのであるが、国家財政の許す範囲で極力これを充実強化して行きたいと考える。
 漁業取締指導体制の強化については、目下進捗中の沿岸漁業の再編成過程と併行して、資源維持の面と漁業秩序の確立から留意し、これが強化に努めてきたのであるが、現在、沿岸、沖合漁業の指導取締船として官船二隻、傭船十隻、計十二隻を特に資源維持の配慮を必要とする瀬戸内海、伊勢湾、有明海、中型機船底曳網漁業の入会操業をめぐつて、対県関係が微妙なる北海道海域、日本海中部及び西部海域並びに太平洋北区及び南区等の海域に配船し、違反操業の絶滅と健全なる漁業の育成を期している次第であるが、なお一層指導監督の機構の拡充強化に努力中である。

第二 漁業金融の改善

一、漁業金融を行う金融機関に対して低利資金融資のわくを大幅に与えるべきであるという質問については、漁業金融を行う金融機関に対してそのままで紐付の低利資金を融資することは困難と考えられるので、特に金融の不円滑と目される中小漁業者に対して信用力を補完する制度の創設を考慮しており、各都道府県に漁業信用基金を設け、これの保証を更に政府が補償又は保険することとして中小漁業金融の促進を図ることといたしたい。
二、漁業手形及び漁業共済基金制度の法制化については、漁業信用基金制度の活用により事実上法制化と同じ効果をもつこととなるので、御質問の趣旨は、達成しうるものと考えられる。
三、漁船建造資金その他の設備資金又は漁業着業資金の融資については、漁業者の信用力を補完する漁業信用基金制度が創設されることにより円滑になるものと考えられるが、これに伴う金融機関の長期資金の確保については、基金制度の法制化に即応して考慮中である。
四、漁業共済基金の積立が一般の出資と異ならない場合には、その積立について免税措置をとることは適当でないと考える。

第三 漁業に対する課税方法の改善

一、割当課税は、これを行わない方針であり、また、国税局及び税務署に対してもこれを行わないよう屡々指示している。従つて、現在においては割当課税は行つていないものと信じている。しかし、もし、なお、割当課税の方法が改められていないところがあるとすれば至急これを改めるよう努力する。
二、漁業所得については、毎年の所得に変動がある等の実情にかんがみ、所得税の課税に当つてこれを変動所得として特別の取扱をし、不漁の年において所得税を減免する場合の負担の低下以上に軽減措置を講じている。従つて、現行の所得税の取扱以上に不漁の場合に課税減免の制度を設けることは差当り困難である。
三、漁業所得の計算上収入金額から控除する経費は、その収入を得るに必要なものを控除するのであつて、適正な記帳のある者について、その経費の額を予め協議し、又は経営費査定基準によることは適当でないと考える。しかし、適正な記帳のない者の経費の額の算定に当つては、記帳のある者について計算した経費の額等を基準として経費査定基準により推定することとなる。こうした場合の経費査定基準については、漁業者の意見は充分尊重するがこれを漁業者と協議して定めることは適当でないと考える。
四、現在、青色申告書を提出する者については、専らその者の経営する事業に従事する親族(配偶者及び十八歳未満の子女を除く。)が当該事業から支給を受ける給与の金額は、年五万円を限度として、これを必要経費として所得を計算することとしているが、所得者本人の労力に対する対償まで必要経費とすることは所得の性質上適当でないと考える。
五、附加価値税は、現在その施行を延期されており、これを現行のまま、明年実施することには種々困難な問題がある。従つて、漁業を附加価値税の対象とするかどうかの問題についても、附加価値税を具体的に実施することとなる場合に、検討することとしたい。
六、青色申告の帳簿様式は、その記帳によつて所得の計算が明らかとなるよう定められているのであつて、その目的を達成し得る範囲内において、なるべく簡易化することについては、今後とも十分検討することとしたい。