質問主意書

第15回国会(特別会)

質問主意書


質問第一三号

不当にして人権を全く無視した強制送還に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十八年二月二十四日

須藤 五郎      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿



   不当にして人権を全く無視した強制送還に関する質問主意書

 出入国管理令及び外国人登録法が国会通過の折、政府は朝鮮人の人権をじゆうりんすることはしない。人道的見地から取扱うということを繰返し述べたのであるが、取締当局の一方的な取扱いによつて全く人権を無視している実例を左に掲げて政府の責任ある答弁並びに適切なる処置を求める。
 即ち、現在大村収容所及び鹿児島収容所に数百名にのぼる人々が収容されているが、その中に外国人登録法違反を問われて収容中の李信雨氏の問題である。
 李氏は本籍は朝鮮であるが、約三十年前に入国し、日本に長く在住していた。去る昭和二十五年十二月二十六日大阪簡易裁判所において窃盗罪として懲役六ケ月を宣告されたが、判決文にははつきりと犯行当時極度に心神耗弱の状態にあつたことが記載されているように、全くの軽犯であつたのである。
 刑期が終る頃の二十六年五月頃に家族の住んでいる大阪市東成区森町の民生委員櫻井某より家族に明日釈放されるから迎えに行くようにとの伝言があり、家族は喜んで当日迎えに行つたところ、出獄と同時に、入国管理庁神戸出張所を通じて大村収容所に強制送還のため送られたのである。
 現在大阪市東成区には李氏の家族(妻、長男、次男、長男の妻)がおり、又姉及び弟の一家もそれぞれ日本に在住しており、釈放されれば、家族、親戚の者が李氏の行動を保証できることは明らかであり、このようにして人権を無視し、家族一同を悲惨においこむ強制送還は断じて許すことができないものと考える。
 よつて政府に対し左の質問を行い、責任ある答弁と処置を要求する。

一、政府の強制送還に関する方針如何。又立法当時の政府の責任ある答弁及び立法趣旨とこの問題はくいちがい、非道な処置と考えるが、政府の見解如何。

二、具体的な実例である李信雨氏の処置についての政府の見解を問う。

三、速かに釈放し、温い家族の手にかえすべきであると思うが、政府の具体的措置如何。