質問主意書

第13回国会(常会)

質問主意書


質問第七号

英連邦軍関係日本人船員の雇用に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十七年六月四日

松浦 清一      

       参議院議長 佐藤 尚武 殿



   英連邦軍関係日本人船員の雇用に関する質問主意書

 英連邦軍関係日本人船員の雇用に関する問題について次の点を質問する。政府は明確にして責任ある回答をなされるよう望むものである。

(A) 現在までの経過

 英連邦軍に労務を提供する船員は、広島県呉に約三百名あり、これら船員は、講和条約の発効日までは、日本政府特別調達庁を雇用主とする所謂連合国軍関係労務者としてよくその重大責務を遂行して来た。然るに講和条約発効の直前(四月十九日)に極東軍司令官より英連邦軍司令官に対し連合国軍関係労務者を解雇すべき旨の勧告が発せられ、外務省を通じてこの文書の写を入手した調達庁は、四月二十二日に関係都道府県知事宛に「四月二十八日の講和条約発効時をもつて連合国軍関係労務者を解雇する旨の予告をなせ」との趣旨の電報を発したのである。
 右の軍及び調達庁の解雇に関する措置については、関係労務者にとつて文字通り寝耳に水のことであり、当時は、解雇後の雇用について、何らの見透しなく甚だ憂慮すべき状態であつたが、翌二十三日には「解雇後労務者を英連邦軍が直用する旨軍責任者より発表があつた」とのことであつたので雇用関係について、一応の見透しを得たものと当時は考えたのである。なおこの際現地軍が船員の労働に対しては、国内法を適用すること、及び労働条件は従来の諸給与中扶養手当及び退職手当を除き、同一の条件でする旨を発表したのである。これ等船員を組合員とする全日本海員組合(以下単に「組合」と書く)は関係政府機関並びに軍当局の発表した右の措置を前提として解雇に伴う退職手当の支給促進その他諸問題の解決を急ぐと共に、直用に関する労働条件の確立等のために現地組合機関は勿論、中央においても運輸、労働等関係各省に連絡して、政府当局の善処を要求したのである。組合代表者は、四月二十五日呉において中国海運局船員部長、呉労務管理事務所長等政府関係者とともに呉所在の英濠軍労務責任者ハリソン少佐と会談し、船員の雇用及び労働条件について協議を行つた。この会談においては、ハリソン少佐が直用後も船員法を適用することを約束したこと、同氏が組合との団体交渉を行うことは考えていないということが判明した程度であつた。一方中央においては船員法の適用について運輸省船員局と、船員保険の継続については厚生省保険局船員保険課と、労働諸法の適用については、労働省労政当局に善処を申入れる等広範活発な運動を続けたのである。
 五月十四日の朝日新聞に日本政府と国連軍との間に在日国連軍の地位に関する暫定的な了解が成立したとの報道が行われたが、暫定的了解の成立によつて国連軍関係労務者の雇用問題も基本線が明確化するものと期待された。然るに同日現地呉においては、ハリソン少佐が船員法の適用に疑義があること、四月二十七日に発した解雇通告は正式な解雇通告ではなく勧告であり、解雇の事実は発生していないこと、従つて日本政府が直ちに退職手当を支給することは適当でない等の発言を行つたと伝えられ、われわれの希望と期待に反し、雇用責任の処在が判然とせず、船員の不安は一層濃化するばかりで、関係船員の身分が不安定の中に放置されたまま徒らに時を過していつた。
 かかる情勢の中において局面打開のため組合の代表者は五月二十二日呉に至り組合呉支部長と同道してハリソン少佐と会談した。
 その結果ハリソン少佐の見解は、直用となつても従来と変りない中央の協定ができない今の段階において団体交渉をやることは考えていない。日本側が公式に労務者を解雇したものではないと思うから労務関係業務は従来通り調達庁がやればよい。中央においては外務省との間に協定が成立するまで労務の調達給与の支払い等を従来通り日本政府が行うことに了解が出来ているにもかかわらず労務者を困惑させているのは日本政府の措置が悪いので遺憾である。日本政府が労務諸費用を立替払をして呉れれば、英国は必ずその費用を払う。具体的な個々の点については、今後の両国間の協定の成立を待たねばならない等々であつた。
 右の会談以後においても組合は中央で関係政府各機関に対して局面打開の努力を続けて来たが何等具体的な成果を挙げるに至つていないのである。
 かかる経過を辿つた結果われわれは現状を要約して、次の如く認識せざるを得ない。
(一) 在日国連軍の地位を決定する協定について現に交渉中であつてこの協定が成立するまでは労務に関しても基本的な決定をなし得ない。
(二) 正式な協定が成立するまでの暫定的な協定さえも結ばれ難い状態にある。
(三) 現状は協定成立までの過渡期であり、空白期間である。加えて関係当事者は、当面する具体的な措置につき、何等の手をも講じていないし、この空白期に対処すべき積極的な意志がない。
(四) その結果が全て関係労務者の上にシワ寄せされ、最も弱い立場にある労働者の苦悩と犠牲によつて局面が糊塗されているに過ぎない。

(B) 即時解決すべき問題

 現在既に発生している船員の具体的な問題は次の通りであるが、これは正式協定の成立を待つことなく即時解決されなければならない喫緊の問題である。
(一) 労務管理業務について
 調達庁は講和発効日以後、英連邦軍関係労務者の労務管理業務を一切停止している。
 一方英連邦軍は労務管理業務を行う機構をもたないし、今直ちにこれを受入れる意志がない。然るに船員は依然として船舶における労働に従事しているから、労務管理業務は継続して行われねばならない。将来の協定の如何にかかわらずその間の労務管理を誰がやるかこれを即時決定せねばならない。
(二) 労務費の支払いについて
 右の労務管理の責任の所在をきめるとともに、何れが労務者に関する諸費用を負担し、誰が支払うのかを決めねばならない。給与の支払いはどうなるかということが労務者にとつて最大の問題であつて、給与は他の諸経費と違つて規定の日時に支払われなければならぬことは言うまでもない。従来は翌月の十日に支払いが行われているが、六月十日に支払わるべき給与をどうするかは猶余出来ない問題である。
(三) 船員保険について
 船員の医療、災害保障その他の社会保障について、船員保険を継続してその保険料のうち、使用者負担分を雇用主より納入しなければ、船員はこの面に対する一切の保護から見放される。現に調達庁は雇用主の変更に伴い直ちに船員保険の被保険者資格を喪失せしめ、新雇用主により更新されることを主張しているが、一方英連邦軍が船員保険にかける船舶所有者の業務を行い、保険料使用者負担分を支出するのかどうかは決つていない。差当り誰が保険手続と費用負担を継続して行うかを決定せねば、船員保険は中断されて終うのである。これは一刻といえども放置出来ない。
(四) 船内食料について
 船員の食料金を支払わねばならない。船員は法律の定めにより使用者の負担によつて食料を支給される。
 食料金が支給されなければ船員の船内労働は遂行出来ない。
 これについて何処が負担して呉れるのか決めねばならない。
(五) その他
 調達庁の下部機構である現地呉の労務管理事務所は、労務管理事務の終了に伴う残務整理を急ぐ余り、船員の米穀通帳を取上げようとした。若し取上げを強行すれば、船員は船員としての主食の配給を受けられないことになるので、組合は関係機関と折衝して取上げ措置を保留せしめることになつた。然し、正式協定の成立まで保留状態でおくことは困難である。この処置をとうするのか直ちに決定する要がある。

(C) 英連邦軍関係船員の雇用問題の現状は、縷々右に述べた通りである。船員の最大限の努力と忍耐にも拘らず、不安定不明確な事態は講和発効後月余にして何等改善されていない。
 若し右の如くにして推移するならば、正式協定が行われるまでは、船員は給与を受取ることも出来ず、一切の労務管理業務の停止状態の中で、多くの任務遂行に対する障碍に悩まされ、その揚句不本意にも労務提供の停止さえ、招来することとなるであろう。ここにおいて組合は政府と国連軍の両者が、即時有効適切な措置をとることを要求して、万一にもそれがなされない場合船員は労働者に与えられた当然の権利を主張する手段として、労務提供の拒否その他の挙に訴え全組織をもつてこれを推進することもまた止むを得ないとの決意をする段階にまで追いつめられているとのことである。かかる最悪事態の発生を極力回避するため当面の問題について左記の質問を提示するからこれに対し、来るべき給料支払予定日である六月十日までに政府責任者である内閣総理大臣の具体的な御回答を願いたい。

◎質問事項

1 労務管理業務をどうするか
2 給与の支払いはどこが行うか
3 船員保険の諸手続と保険料の使用者負担分をどうするか
4 船員の食料金の支払いはどうするか
5 船員の船員法上の雇入雇止等の扱いはどうするか
6 日本政府と船員の雇用契約が終了し、日本政府は一切の雇用上の責任から解除されたものかどうか
7 解除されたとすれば講和条約発効以後は英連邦軍の直接責任が明確に移つたものかどうか
8 もし右の如くであれば、日本国々民である船員の雇傭関係について不安のないよう速やかに適当の措置を講ずる責任が政府にあると思うがどうか
9 国内労働関係諸法規の適用について協定成立までどう扱うのか