第12回国会(臨時会)
質問第七号 参議院議員細川嘉六君を逮捕し、公職追放の措置にいでた問題に関する質問主意書 右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。 昭和二十六年十一月二十四日
参議院議長 佐藤 尚武 殿 参議院議員細川嘉六君を逮捕し、公職追放の措置にいでた問題に関する質問主意書 一、去る九月四日参議院に議席を有していた細川嘉六君が占領政策に違反するとの理由で突如逮捕され、勾留処分を受けるに至つたが、この逮捕が全く架空の容疑によるものであることは、その後の事件の発展によつて明かにされている。 即ち検察庁は二十三日間にわたる必死の捜査にもかかわらず何等容疑事実の証拠をあげられないため遂に同君を釈放せざるを得ない結果に至つたのである。 この点について法務総裁は、去る十七日の本会議において細川君は「昭和二十五年政令第三二五号違反の相当な容疑ありと認め、裁判官の令状を得て同月四日逮捕したのであります。同君に対する同事件は現在なお捜査中に属しておるわけでございます云々」と答弁したが、若しその答弁の如くに、政令第三二五号違反の相当の容疑があつて、なお捜査中であるとのことならば、その違反の点につき容疑事実を具体的に示されたい。 二、又更に政府は同君を公職から追放し国会議員の資格を剥奪するの措置に出でたが、この点につき法務総裁は同じ日の本会議において「一九五〇年六月六日付の連合国最高司令官の書簡は、覚書第五四八号の条項即ち団体等規正令に違反した個人に対しまして、覚書第五五〇号即ち昭和二十二年勅令第一号の公職追放の制限が加えられるという法的根拠を明示し、且つその法律上の先例を設定いたしましたもので、これは最高司令官の有権的解釈である」と述べ同君に対する公職追放はこの指令の適用によるもので、即ち同君は団体等規正令第二条に該当する行為をなしたため、昭和二十二年勅令第一号により公職追放を受けるに十分の理由があると認められたのであるとの答弁を行つた。 然し乍ら占領軍の統治方式は、国内の統治機構による間接統治であり、従つて連合軍最高司令官の書簡乃至指令についても国内の法令を通してのみ始めて法律上の効力が生ずるものであるにも拘らず政府は一九五〇年六月六日付書簡が公職追放に関する法的根拠を明示したものであるとの見解に立つて国内法上の関係をも顧みることなく、団体等規正令第二条該当の行為をもつて直ちに昭和二十二年勅令第一号による公職追放の理由ありと認めて、細川君を追放したことは、明かに法治国家の建前を無視した官僚的独断と言わざるを得ない。 昭和二十二年勅令第一号による公職追放は、同令に規定するA項よりG項までの事由に該当することによつてのみ行われるものであつてその他に団体等規正令違反の行為に対してまで同勅令第一号での適用があるとは法律上解釈に苦しむところである。 一体政府は連合軍最高司令官の書簡乃至指令が国内法秩序に対して如何なる効力を及ぼすと考えているのか。答弁を求める。 又政府のいう如く細川君が団体等規正令第二条該当の行為をしたために追放されたとするならば、同君の如何なる行為が同条の如何なるところに該当すると認めるのか、具体的に示されたい。 そもそも国会議員は、主権者たる国民の厳粛な公選によつて確固不動の身分を獲得したものである。もし国会議員の身分を国内法上の根拠のない取扱によつて奪うならばそれは憲法を蹂躙し、法治国の名に泥をぬる行為といわなければならない。以上に述べた細川君の逮捕及び公職追放措置についての疑問は、単にその一例を挙げたにずぎないのであつて、如何なる行為が如何なる法令に牴触したのか選挙民に対してその理由も明示されることなく、一方的に追放せられるが如きは、国会議員の身分に対する侮辱以外の何ものでもない。一体政府は、国会議員の身分について基本的に如何に考えているのか、明かに答弁されたい。 |