質問主意書

第7回国会(常会)

答弁書


答弁書第二四号

内閣参質第一一号
  昭和二十五年二月七日

内閣総理大臣 吉田 茂      


       参議院議長 佐藤 尚武 殿

参議院議員池田恒雄君提出いも類統制に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員池田恒雄君提出いも類統制に関する質問に対する答弁書

一、政府は二十五年産いも類については食糧管理特別会計の予算の範囲内で優良品種のものに限り一部政府買入を継続する方針である。その場合の買入予定数量は甘しよ二億七千万貫以内、馬鈴しよ一億三千万貫以内を予定している。

二、昭和二十五年度のいも類については食糧確保臨時措置法による農業計画の指示は行わず、目下新しい政府買入方式を研究中である。その具体的内容は食糧確保臨時措置法の定める割当手続に準じた手続により農家の政府に対するいも類の売渡希望数量を充分に参酌して各生産者に対し政府買入予約数量を指示し、その範囲内で生産者が政府に対して売渡すときは政府は必ず買入れることとしたいと考えている。

三、いも類については、統制が長年行われたためばかりでなく、統制開始当時とは食糧事情、生産事情等が著しく変つていること等のため、統制廃止乃至緩和後の需給、自由市場における価格等については、適確な予想が相当困難であるが、食糧配給基準、食糧輸入事情その他について現在の見込が今後一応変化がないと仮定して過去の実績と関係需要業界、官庁等の意見を参酌すれば概略左の如くであると想定される。

昭和二十五年度有効需要見込(未定稿)

四 (1) 品種改良
 いも類の品種改良について政府としては、昭和十三年以来特に努力を続けてきており現在迄に選抜育成した優良品種は甘しよについて農林一号より同十号までの十種、馬鈴しよについては農林一、二、三号の三種である。
 而して今日までのいも類品種改良の基本的目標は端的にいえば生産の見地からは多収性であり消費の見地からは食用工業用の並用種の育成にあつたと云える。然し今後に於ける育成の目標は消費の見地からの考慮を加え食用向と原料向を明確に区分して育成して行くことが市場の要請に応え且つ、生産農家の取引条件を有利ならしめる方途と考えている。
(2) 栽培技術の改善、生産奨励の施策
 政府は品種改良と同時に栽培技術の改善についても従来試験研究並に奨励の施設を講じている。即ち従来甘しよについては育苗の改善に重点を置き共同育圃、特設育苗圃を設置し、特に醸熱材料の入手困難な地帯については電熱育苗圃の設置を奨励し今日に至つては飛躍的に育苗技術の改善をみて、育苗困難とされた東北、北陸地方においても普く甘しよの育苗を見るようになつたことは之を立証しているものといい得る。また甘しよについては収穫期に於ける労力軽減の必要性が大きいのに鑑み畜力の利用化について試験研究を進めると共に一面甘しよの貯蔵中に於ける腐敗の大なる事実に鑑み従来あなぐら貯蔵庫の設置、最近に於いてはキユアリング倉庫の設置について補助又は融資の方途を講じてきている。
 次に馬鈴しよについては優良な種いもの使用が馬鈴しよの生産改善の最も適確捷経の方途であることにより原々種圃、原種圃、採種圃の採種体系を確立し特に原々種圃は政府の直営として無病健全な馬鈴しよ原々種の確保を期し、原種圃についても都道府県に従来より今日まで引続き相当の補助金を交付して採種増殖事業の奨励を行つてきている。
 尚馬鈴しよによつては最近輪腐病と系新な危険病害の輸入を見たので昨年度来都道府県に相当の補助金を交付して之が防除奨励に努め、早期撲滅を期している。
 尚甘しよ、馬鈴しよ共にいも類専門職員を設置せしめ従来常時生産奨励の任に当らしめつつある。
(イ) 昭和二十四年産種馬鈴しよの供出配給計画と最近(一月二十日現在)の配給状況を見ると次のようである。即ち、



(ロ) 対策
(1) 十二月初旬より本年の食糧事情及び統制緩和の事情から配給辞退の様相が見えたので、政府は十二月十七日附の食糧庁長官通牒により、公団いも類局の引継価格を基準として、保管料、運賃、欠減等を加算して、公団の最低販売価格四七〇円〇六銭(一〇貫当り)を指値として公団経理に赤字を生じない範囲で、青果市場等に入札販売を実施中である。
(2) 右の要処理数量は主として東京、神奈川、大阪、愛知、北海道、京都、宮城に公団いも類局の所有として保管されているが、一月以降の右措置による配給消化の経過と、市場価格の推移を見ると、京浜地区は、近県の蔬菜出廻事情が予想外に好況を示していることにより荷捌状況は稍々不良であるが、京阪神及び九州地区に於いては、市場価格も有利であり、従つて京浜及び東北地区保管のものを、運送賃を加算しても、相当消化出来る見透しであるので、京阪神及び九州地方の消費事情調査員を派遣中で、判明次第転送売却を行う等措置する予定である。又今後においても種子用需要がなお若干ある見込である。
(3) 右により荷捌の完了する見込のない数量については、発芽及び品傷みの点から遅くも三月末までに配給を完了する必要があるので、消費地に於ける市場価格の見透しと「にらみ」合せ、公団経理の赤字を可及的にすくなくするよう配給計画並びに公団いも類局の販売価格に再検討を行う予定である。

六 (1) 政府はいかなる対策をもつているか。
 いも類の生産は農業経営上将又農家経営上極めて重要なものであるから統制の緩和乃至徹廃後とも出来る限り之が生産の維持を図るよう措置して行く方針である。而して之がためには次の如き対策を採るよう目下準備を進めている。
1 作付品種の転換
 いも類は周知の通り品種に依り著しく特性を異にしていて、最近におけるその作付の実収は食用としては不適な品種が所謂供出いもとして多く作付されている現状に鑑み此の際之等食用不適品種の作付を出来る限り食用適品種に転換せしめて行く方針である
2 いも類の飼料化促進
 市場より著しく遠隔の地にあり且つまたいも類を原料として使用する工場も近くにないようないも作地帯就中開拓地等について仔畜の導入或はいも類飼料・製造設備の設置等を奨励し飼料としての需要増加を図り併せて農業経営の有畜化促進を期して行く方針である。
3 いも類を原料とする農村工業の振興
 いも類を原料とする農村工業の設備並に技術の改善に指導を行い加工品の品質の向上、生産費の低下を図り原料用としてのいも類の需要増大を期して行く方針である。
4 いも類の生産利用加工等に関する試験研究事業の推進いも類の生産量の低下、いも類を原料とする加工業の設備並に技術の改善更に新規用途の開拓等に関する試験研究事業を推進して行く方針である。
 以上の如き対策に依りいも類の生産の維持並に需要の確保を図つて行く方針であるがいも作不適地等にして一部他作物への転換を行う事を得策とする地方の農家に対しては適当な作物の種苗を確保し之が集荷配給に関し政府に於ても斡旋の措置をとつて行く方針である。而して以上の如き諸種の対策に付ては予算的或は資金的措置の裏付を必要とし、所要経費に付ては目下、農林、大蔵両当局間に於て具体的折衝を進めている次第である。
(2) 地方的な動き
 一部主要生産地に付ては、いも作農家に付て直接調査し、また、一般的には都道府県当局より聴取したところに依つても地方に於ける今後のいも作に対する考えも大体政府の方針に合致している様である。即ち基本的にはいも類の作付維持を図つて行く方針にして、要すれば統制の継続を希望し、統制の緩和乃至撤廃に処しては前記の如き対策に関し政府の積極的措置を要請している。
(3) 農業経営に対する影響
 いも類は他の作物に比較し一般的に労働生産性が高いのみならずいも作の所要労力は他作物への耕種労力と時期的に極めて好都合に組合せ得られる経営上の利点を有している、又吸収する肥料成分に付ても他の作物と趣を異にしているため輪作経営の一環にいも類の作付を導入することは地力の維持消耗防止を計る意味に於て極めて好都合である。
 いも類の生産は農業経営上右の如き重要な意義を有している為前記の如き対策を講じ之が生産の維持を図るよう措置することが肝要なる次第にして然らざる時は他作物の生産に付ても勢ひ労力、地力の面から好ましからざる影響を受けて来るものと見なければならない。