質問主意書

第7回国会(常会)

質問主意書


質問第六二号

電気事業再編成法案等に関連して問題となるべ電力外債について国際信義の尊重に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十五年四月二十八日

栗栖 赳夫      

       参議院議長 佐藤 尚武 殿



   電気事業再編成法案等に関連して問題となるべき電力外債について国際信義の尊重に関する質問主意書

 今回政府は電気事業再編成法案及び公益事業法案を国会に提出せられ目下審議中に属するが、元来この法案が規定の対象とする電気事業会社の内、日本発送電株式会社、関東配電株式会社、中部配電株式会社及び関西配電株式会社は、次表に示す通り、もと米英両国において発行した電力外債(米貨又は英貨)を承継負担したものであつて、殆ど総てこれを担保する為にそれぞれその所有する設備財産を以て組成した工場財団を抵当権の目的に供与していたものである。

(表)電力外債

 そもそも右電力外債は大正十三年八月大同電力株式会社が日本興業銀行を受託会社とし、紐育ヂロン・リード・エンド・コムパニーを引受会社として米国において発行したものに端を発し、昭和三年迄に合計九種類の米貨社債又は英貨社債の発行を見たものであるが、昭和十四年四月、日本発送電株式会社法(昭和十三年法律第七七号)に基いて日本発送電株式会社が設立され、又昭和十七年四月配電統制令(昭和十六年八月勅令第八三二号)に基いて九配電株式会社が設立されるに及び、これ等の電力外債は電力管理に伴う社債処理に関する法律(昭和十三年法律第七八号)及び前記配電統制令の規定(第十六条等)によつて、それぞれ右掲の表の通り日本発送電株式会社、関東配電株式会社、中部配電株式会社及び関西配電株式会社にそれぞれ承継負担せしめられたものであつた。(なおこれと同時に各電力外債に日本政府の元利金支払保証を附した)
 しかるに日本政府は、戦争の勃発に伴い、昭和十八年三月公布の外貨債処理法に基いて昭和十八年九月十五日に、前記電力外債を左の通り処理せしめた次第である。

(一) 日本人の所有する電力外債についてはこれをそれぞれその承継負担会社の内地社債に借換せしめたこと。
(二) 外国人(連合国人)の所有する電力外債については
(1) 電力外債の元利支払義務を日本政府において承継したこと。
(2) 電力外債の物上担保はこれを消滅せしめ、従つて物上担保に関する信託関係も又消滅せしめたこと。

 即ち日本政府は外国人たる電力外債所有者の同意を待たず、一方的に、その元利支払義務を日本政府において承継すると同時に、前記日本発送電株式会社、関東配電株式会社、中部配電株式会社又は関西配電株式会社の設備財産を以て組成した工場財団に対して電力外債を担保するために設定した低当権を消滅せしめ、従つて電力外債所有者のために該抵当権の保存及び実行を為す可き受託会社の任務をも解消せしめたものである。然るにかくの如く日本政府が、戦時中外国人に対して一方的に為した処理は、終戦に伴い復元しなければならないこととなるのであつて、外国人たる電力外債所有者に対して物上担保の回復又はこれと実質的に同様な措置をとることは、国際信義の原則からいつて勿論のこと、又今後我国の経済再建と健全な発展等のために必要な外資導入の素地を回復して往く上においても、非常に緊要な事であると堅く信ずる。
 元来、戦前日本の外債については不払がないといわれ、米・英・仏等の投資家から高い信用を附与されていた。終戦後の日本も矢張かかる高い信用を回復せねばならぬ。而して申す迄もなく今回の電気事業再編成に当り、前記電力外債について国際信義の原則の線に沿うて善処することは、外資保護に関する諸法案とともに日本の外債に高い信用を恢復する第一着手であり、これが日本経済の再建とその健全な発展並びに我が国際収支の上に寄与することは誠に多大であると信ずる。よつて左記の点について政府の所見を明示されたい。

(一) 政府においては電気事業の再編成に当つて、国際信義を尊重し前述の電力外債所有者の既得の利益を保護して、今後の外資導入等に支障なからしめるやうに措置される方針であるか。
(二) 果して然らば其の措置の方針は大体どんなものであるか。電気事業再編成法案及び公益事業法案審議の上にも必要であるから、其の措置の方針について大体の所を御示し願いたい。
(三) 今回提出された電気事業再編成法案及び公益事業法案をみると前記電力外債の処理に備える規定と認められるものは、(5)電気事業再編成法案附則(5)があるだけのようであるが、固よりこれだけでは甚だ不充分であると認められる。それで畢竟これはいずれ適当な機会において更に諸般の事情と睨合わせ、前掲措置の方針を織込んだ一連の規定を含む法案を別途に国会に提出される意図であると解してよろしいか。

  右書面を以て質問する。