質問主意書

第7回国会(常会)

質問主意書


質問第五六号

所得税徴収に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十五年四月十七日

池田 恒雄      

       参議院議長 佐藤 尚武 殿



   所得税徴収に関する質問主意書

一、庶業所得税に関する再質問について

1 政府はさきの質問に対し、納税者が自己の正しい計算に基いた所得金額が「お知らせ」による課税見込所得金額と異るときは必ずしも「お知らせ」の課税見込所得金額による申告を必要とするものでないと答弁されたが、税務署はすでに貴殿の所得は○○万円以上であると断定し、それより少く申告すれば更生決定をやつて追徴金をとると告知しているのである。これを政府はどう解釈するか。
2 又政府は、「お知らせ」は一面、自己の計算による所得と比較対照する機会を与えるものと考えられると答弁されたが、損益の過程を記録しないナゾのような帳尻をみせられて、どうして真面目な比較がやれるか、もつと専門的良心をもつて答弁されたい。
3 事実「お知らせ」より多い所得があつても、「お知らせ」と同額の所得額に帳簿を合せて申告すれば真面目な申告として更正決定が行われず、「お知らせ」より少いものは、「お知らせ」と同額に申告しないと同額にすることを事実上強制されている。
 この不公平、不合理は、損益の過程を明らかにしない「お知らせ」の強要の結果である。政府は、この結果をどう仕末するのか。
4 もし、申告の目安を示すことが必要であるとするなら、それは、ナゾのような年所得金額を示すべきでないのである。その所得を計算するために便利な方法や基準を指導すべきものである。
 なぜなら、所得の査定や申告は不公平不定であつてはならぬからである。そのためには、共通の方法、一定の基準によつてその収支計算がなさるべきであるからである。このような指導を税務署がやつたとするなら、一応尤もであるが、今次「お知らせ」は全くそれに反する措置である。何が故に政府はかかる代官的措置を近代税法に照して正しいものと強弁するのか。
5 所得調査の方法は、いろいろあるのであるが、個々に記載することは不可能である云々との答弁であるが、私は一個の納税者として自分の申告について質問しているのではない、従つて税務署に出頭して自己の申告を聞くわけもない。
 私は税政の調査の必要があつて政府に質問しているのである。それに対して真面目に答弁しない政府は、私の権限を無視しまた侮辱するものである。
 政府の責任に属する事実を国会に報告しないという法は一体どこにあるのか、質問事項は忠実に報告されたい。
6 所得の前年度実績に対する割増については、私は、東京、関信、仙台等の事実を見て質問しているのである。けれども、ここで税務署を指摘しなかつたのは、昨年私の質問のために当該税務署員が迷惑したことを聞いたことと、一部の税務署において行われている事実でなく、全国的に見聞する傾向であるからである。
 二十三年度より二十四年度が不景気であることは、政府自ら認めていることである。五人十人の小企業者が死んでも致し方ない世相であることは蔵相の公言するところではないか。
 床屋も、馬車曳も、宿屋も、オデンヤ屋も、タンス屋も、洋服屋も前年より所得が減少していることは一般的傾向として誰も疑わないのに、前年実績より六割なり十割なりだけ多く所得を申告させるということはどういうことか。
7 営業所得の調査方法は、簡記することは不可能である―というが、それ故に答弁を拒否するとは何事か。
 このことは徴税上最も重要なことがらである。簡記出来なかつたら詳記して答弁されたい。

二、徴税の要領について

 三月二十五日茨城県久慈郡太田町において、郡内の農民団体、小運送業団体、大工、左官その他の業者団体共同で納税者大会が開かれた。その大会の報告中に左のような事項が記されているが政府の見解を発表されたい。
1「日雇業、大工、左官その他の稼人は、稼働日数、一日当り収入等を全く画一的に査定し、一様に一日当り二五〇円、一ケ月二十日間、年間所得六万円として、所得を査定し、税を強要している。これは一般専業の業者も、農業の副業としてやつているものと同様である。また昨年実績に対する割増を強求されている。」
2「藁工品を副業としている農業は、その副業所得の故に大金を納税しなければならぬことになり、副業廃止の傾向がある。」
 この事実は全国的に聞くことである。兼業や副業をやつている農家は、がいして経営も生活も悪い、だから、経営の合理化策として副業をやつているのだが、そうした農家の税金が比較的高いというのである。より弱い者がいぢめられている。
3「災害による減収した場合の所得の差引き方が、納得できない。」
 減収については、減収だけの金額を控除しないのは、太田町だけでなく他にもみられる。殊に雑穀その他については、減収の事実による所得の控除を認めないのはどうしたわけか。
4 税務署員が非常に不親切、乱暴であるということがいわれている。
その例として、
 ある人は一万余円の過納があり乍ら、更に四千余円の督促をうけた。
 ある人は、差押品の引上に際し、その差押品が徴税額に達しているのに、更に委託品である店の商品をトラツクに積まれようとしたので、それを拒んだら、公務執行妨害罪として告訴された。
 ある人は、主人が不在で妻だけのところで、差押をうけようとし、タンスや何やを開けひろげられた。主人の帰るのを待つてくれといつたら、あとで覚えていろといわれたといつている。この人は飲食業者である。
以上のようなことは、独り太田町のみでなく他でも納税者から訴えられることである。これらは一体どのように対策すればよいのか。

三、確定申告の修正について

 「お知らせ」は、確定申告以前に出されたものと確定申告以後出されたものがある。
1 確定申告後に「お知らせ」なる文書を出し、所得金額を告知し、税金の追い払いをさせた税務署がある。「お知らせ」の金額だけ納入しないと更正決定をやるというのであつたが、税務署に行つて調べてみると、税務署側の計算に大分間違いがあつた。何故こんな措置をとつたか。
2 納税者を村役場に呼んで、納税者に所得金額を読み聞かせ、納得したら、印判をつけとやつたところがある。これは二月下旬ごろであり、何のことか判らず、只、更正決定をおそれて印判をついたものがある。この会合は通知が不徹底で、集まらない村民が多い村もあつた。その人々は更生決定をうけている。
3 二月末に、更正決定と、伝票と二つを以て納税者に示し、伝票に印判を押せば、更正決定をやらぬという要領をとつたところがある。
 よく調べてみるとその伝票は確定申告の修正であるというのである。
 これは、一応親切のようであるが、更正決定書と同時にこんなものを出されては、親切にならない。せつぱつまつたとき、こんなことをすると、税金の強奪になる。何故なら、この非常措置のため、再審の請求や異議申立等の適法の手続が無視されるからである。
4 更正決定の通知書を発行して、後に確定申告を修正することは適法かどうか。税務署が、勝手に確定申告の修正をすすめることはよいことか。伝票などは殊に正規の様式でもないから印判をおした方は何のことか解らないでいる。
5 確定申告の修正は、一月以内に申告者自ら出すものである。それであるのに、今次伝票による修正は三月三日以後でも、税務署の気分次第で行われている。そして追徴金等を加減している。
 徴税の能率化は課税の公正によるべきである。しかるに、いま納めたものは、追徴金や日歩の棒引といつた具合に、毎日宣伝して、納税を促進することはよくない。まるで大道の香具師のようなことは政府機関としてとらざるところではないか。
6 更生決定について照会を出させ、文書で説明しているところもある。これは納税者にとつて不都合はないが、このようなことを更めてやるなら、何が故に最初から詳しく知らせないのだろうか。
7 副業等雑収入を反当五〇〇円とかときめているところもある。また指定野菜地帯では画一的見積をしている。農業経済事情は急変しているのに、何故にこんな画一的なやり方を止めないのか。

  以上の諸点について政府の見解を発表されたい。