質問主意書

第5回国会(特別会)

質問主意書


質問第三十六号

農業所得税に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十四年三月二十三日

池田 恒雄      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   農業所得税に関する質問主意書

農業所得税に関し三度質問を提起する。

一、田畑所得標準率は、「その適正妥当を期するため、市町村、各種農民団体、農事精通者の全部又は一部から適切な資料の提供を受け、特に真面目な関係団体の適切な意見は十分これを参考とするよう努めているわけである。」という答弁にもかかわらず、現地においては、十分にこの努力がなされていないという事実について、政府は果して現地税務署に対し強力なる指導を加えているかどうかを、くり返し質問しているのである。
 市町村の税務主任の説明を聞いた事実は認められるが、農民団体の資料を真面目に検討した事実は認めかねる。茨城県稲しき郡瑞穂村農業協同組合のいうところでは、「村の農家の具体的な経営調査によつて、必要経費を計算し、これを税務署に示したところが、村別に調査することは出来ない、税務署は管内平均で標準を作るのだといつて、とりあつてくれなかつた。」
 これは一つの例であり、大体においてこのような傾向である。
 「民間の意見に拘束せられて妥協をするということは、性質上許されない」としても、提出された資料の正否については、十分検討する義務があると思われる。

二、更に新しい問題を例示すると次のようなのがある。
 茨城県那珂郡芳野村、真壁郡竹島村その他若干の村では、税務署の所得標準率によらないで、自己の経営を個別的に計算して申告をした。ところが、税務署はこのような申告を異端視している傾向がある。
 これを竹島村の例についていうと、一月二十日ごろ確定申告についての説明があつた。このとき下館税務署管内平均の標準は説明されたが、竹島村の標準は説明されなかつた。それで、各農家は、管内標準を参考とし、それぞれ戸別に収入支出を計算して確定申告をしたところが、驚くべき更正決定をうけた。
 それで、三月十二日は直税課長と係長の出席を得て更正決定の説明会を開いた。そこで署員のいうには、
(1)必要経費では減価償却が多すぎる。雇人費が多すぎる。
(2)時間がないので内容をみられなかつたから標準によつて更正決定をした。
 結局これ以上の詳しい説明は得られなかつた。更に農民の話では「異議申立をすればクモの巣まで調べるとか、審査は六月ごろまでおくれるとか」といわれたというのである。事実とすれば甚だしい暴言である。
 「農業経営の実態を明らかにしてその合理化を図るためにも、各農家において正確な収入支出の帳簿記載を行う慣行を確立することが望しい。この見地に立つて、税務署は、まず農家の自主的な正当な申告納税を期待する」というのであれば、
 仮りに現状に鑑みて、今日各税務署が標準率による申告を一応指導しておるにしても、一面このような自主的な申告がボツボツと現れて来ることは当然であり、且つ望ましいことである。
 勿論、農家の自主的申告が正確なものであるとは断定出来ないのであるから、このような自主的な申告に対しては、税務署はとくに力を加えて親切に指導し、自主的申告の健全なる発達を期すべきである。
 ところが、事実はこれらの自主的申告の発達は税務署によつて阻害されている。税務署の人々は真面目な申告、不真面目な申告という言葉を連発する。その意味するところは標準率をウノミにしたものは真面目であり、自主的申告は不真面目のようでもある。一体政府の方針には裏と表があるのかどうか。

三、右の問題と関連して、加算税と追徴金はまた自主的申告や再審査請求等の正当なる納税者の権利の行使を事実上弾圧している。
 今日行われている更正決定には、税務署の事務上の欠陥があることは、すでに政府も知つている通りである。従つて加算税や追徴金を法規通り徴収すべきものではない。若し法規通り徴収するならば、申告も更正決定も法規通りやるべきである。
 ところが、この加算税と追徴金は納税者に対して個別調査を伴わない更正決定を押しつける攻め道具と化している。
 自主的申告をしたもの、あるいは標準率によつたもので、更正決定をうけた農家のすべてが悪意あるものではない。それぞれ納税に努力しているのであるから、余計な金をとらないように指導すべきである。
 「税務官吏は、一面において納税者の相談相手となり、他面において正当に納税が行われたか、行われないかの審判者のような立場において、納税が公正に実現されることを念願としている」と、これは単なる答弁なのか、真実なのか、真実であるなら何故に現地税務署の態度は改善されないのか、私のみた限りでは、土浦税務署のように農民の中に突入して議論もし、指導もして好感をもたれている例もあるが、その他では、政府答弁に甚だしく遠ざかつている。理由は何か。

四、何故に境署にかぎつて一―二割収穫を低くとつて標準率を作成したか。
 また前回質問の減収量を所得額より引くという方式は改善されているかどうか。