第3回国会(臨時会)
答弁書第九号 内閣参甲第一七二号 昭和二十三年十一月二十四日 内閣総理大臣 吉田 茂 参議院議長 松平 恒雄 殿 参議院議員細川嘉六君提出ナホトカよりの引揚船及び上陸地における暴行事件についての質問に対し、別紙答弁書を送付する。 参議院議員細川嘉六君提出のナホトカよりの引揚船及び上陸地における暴行事件についての質問に対する答弁書 一、予想せられる斯種紛争事件に対して講じていた当局の措置 (イ) 引揚船乗込の復員指導官と連絡をとり斯種事件の発生の予知に努めていた。 (ロ) 所轄警察署に連絡し警察官の増員を求め各寮の巡視警戒に遺憾なきを期していた。 (ハ) 現地駐在進駐軍に連絡し巡察警戒の万全を図つていた。 (ニ) 舞鶴引揚援護局次長以下幹部指揮の下に宿直員を増員してかかる事件の発生予防に努めていた。 (ホ) 船中においては復員指導官が揚陸後は援護局次長以下幹部職員並びに寮勤務員により暴行事件の禁止につき懇切に注意して事件発生防止に努めていた。 (ヘ) 被害を予知せられる者は本人の申立により別室に収容してその身体の安全を期していた。 二、英彦丸(十一月一日入港)惠山丸(十一月二日入港)高砂丸(十一月三日入港)引揚者間の紛争事件の真相及当局の措置 (1) 英彦丸の船中における紛争事件について (イ) 艦乗員(林富男)は十月二十九日ナホトカ港で乗船と同時に復員業務の円滑を期して暴力行為の禁止を勧告 三十日一三、〇〇時数名が殴打されたのを艦乗員が発見し制止の結果暴行々為は終止した。 (ロ) 海中に投ぜられた者があり舞鶴入港の際十三名が不足していたいとう事は全く事実無根である。 (2) 舞鶴引揚援護局内における紛争事件について (A) 十一月一日 (イ) 時刻及場所 第一回午後九時三十分頃 第二寮海岸側便所内 第二回午後十時十分頃 第二寮海岸側便所内 (ロ) 紛争の原因 別記被害者山本、下中、重光が在ソ中自己の意見に反対する者をすべて反動者として未帰還に至らしめたと云うことにある模様。 (ハ) 措 置 寮主任が逃廻中紛争を発見、直ちに警察官に連絡制止す。被害者は別室(第一寮)に保護収容し加害者は局内警察官室に連行す。 (B) 十一月二日 (イ) 時刻及場所 午後七時頃より午後八時頃まで第五寮内に於いて。 (ロ) 紛争の原因 前日の紛争と同一の原因によるものの如し。 (ハ) 紛争の状況 次々に起つた紛争事件に対し、舞鶴引揚援護局員及び予め警戒中の進駐軍及警察官に於て極力制止に努め鎮静せしめた。 (ニ) 措 置 別紙被害者を英彦丸下中範雄外七名を国立病院に収容、高砂丸渡邊一臣外十名を検疫病院に収容保護した。 (C) 十一月三日 (イ) 時刻及場所 午後六時三十分頃 第四寮中央玄関口 (ロ) 被害の状況 闇打ち的に殴打したものの如く、被害者恵山丸渡邊暁は腰部捻挫し入院加療す。 (ハ) 措 置 被害者は入院、加害者は鋭意捜索せるも判明しない。 (D) 十一月四日 (イ) 時刻及場所 午後七時三十分頃 第五寮 (ロ) 紛争の原因 被害者廣瀬太郎は元薬剤将校として衛生関係を担当し、奧野、倉石、草野、二階堂四名は通訳又は作業組長の地位にあつたが、当時食糧関係から栄養失調患者続出したに拘らず不当に労働を強要し遂に死亡者十三名を出したと謂う事でその責任を追求したというものの如くである。 (ハ) 被害の状況、奧野は顔面打撲症を負つたがその他は殴打せられたが負傷はない。 (ニ) 措 置 逃視中の局員が発見直ちに制止せしめた結果お互に和解したので寝室に帰らしめ負傷者は医務室にて治療 (E) 十一月五日 (イ) 時刻及場所 午後七時二十分頃 第五寮及第三寮内 (ロ) 被害者及び被害の状況 加害者数十名不詳が被害者淺利篤、淺野正治を殴打せるも負傷はなかつた。 (ハ) 措 置 右二名の被害者の外危険を感じている者九名を別寮に保護収容した。 (3) 本紛争事件被害者中三名が肋骨を折られ入院死亡したということは全く事実無根である。 三、類似の紛争事件の真相について (1) 日時及場所 (イ) 五月十日午後十時頃 舞鶴引揚援護局構内第三寮屋外 (ロ) 六月十六日午後八時頃 同局構内第二寮階上中央玄関及第二寮海岸側階上 (ハ) 六月二十一日午後八時頃 同局第四寮海岸側階下 (2) 紛争の原因 (イ) 在ソ中被害者が同僚の食糧を不正横領したこと。 (ロ) 在ソ中被害者がソ連当局より課せられたノルマ以上の労働を強要したこと。 (ハ) 自己に反対する者を反動者として摘発し帰還を不能に陥らしめた。 (3) 当局の措置 (イ) 引揚者全員に自重を促し妄動を警しめた。 (ロ) 進駐軍並警察当局に連絡警戒を強化 (ハ) 宿直を増員強化 (4) 紛争関係者及被害の状況 (イ) 被害者
四、英彦丸、惠山丸、高砂丸、暴行事件被害者名簿 (1) 舞鶴国立病院入院者
五、英彦丸、惠山丸、高砂丸事件加害者名簿及び処分 1 現在までに判明せる加害者は次の通りである。
六、暴行前後を通じて当局のとつた措置 引揚者の感情問題に絡む相互間の空気に相当険悪なものがある事を予知せられたので舞鶴引揚援護局としては事故の絶対的未然防止を期するため直ちに (1) 進駐軍並に警察当局に対し特別の警戒方を依頼した この結果隊長リツチモンド以下多数の進駐軍が深更まで寮内外を巡察警戒し又所轄舞鶴警察当局にあつては十一月二日五十五名、同三日四十五名、同四日四十名の警察官を増配(常時は六名)しこれを各寮に特別配置し警察署長以下幹部も来局して警戒に当つた、この警察官の増配は十一月八日高砂丸送出終了まで継続した。 (2) 当局幹部の居残警戒及宿直強化 次長、業務部長、復員部庶務課長以下局幹部は深更まで居残又は宿直し、寮勤務者は全員宿直をして巡視警戒に当つた。 (3) 収寮者に対し事故防止方の厳達、各船毎に中隊長を会同せしめ又次長は夕食後マイクを通じて「ソ連抑留中における怨恨、感情等は水に流して大らかな気持、新しい友愛親和の心持になり未復員者を待詑びる留守家族の心中を察して滞寮中和やかに通し事故なく出発出来る様」懇切に説示した。 (4) 警察官と協力して夕食後無用者の各室出入を禁止した。 (5) 鬱積せる感情の吐口を求めるため進駐軍諒解の下に思想討論会を開催せしめたこれは事件防止に相当効果があつた。 (6) 各船引揚者の思想傾向を予知し収容寮の割当を勘案配置し特に被害を蒙る虞ある者にはその旨本人に申立を促し別寮に収容し特別保護を加え事なきを得た。 尚被害者は病院若くは医療課病室に夫々入院入室せしめた。 (7) 事故誘発防止の見地から従来引揚者に出発帰郷の前夜支給していた清酒の給与を中止し代替として甘味品を支給した。 (8) 各寮各室において素人演芸会の開催を奨励し職員も飛入出演したこれも感情融和に相当の効果があつた。 七、船中及上陸地における責任者の氏名及職名 (1) 船中における責任者
舞鶴引揚援護局次長 宇野末次郎 |