質問主意書

第2回国会(常会)

答弁書


答弁書第五十九号

内閣参甲第六〇号
  昭和二十三年四月二十三日

内閣総理大臣 芦田 均      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員市來乙彦君提出均衡財政の確立に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員市來乙彦君提出均衡財政の確立に関する質問に対する答弁書

第一、外資導入と「インフレーシヨン」との関係について

 インフレーシヨンの荒波の中へ外資を導入しても、その効果は荒波に依つて、減殺され、十全の効果を挙げ得ないから、先づ外資導入の受入体制を確立すべきであるとの御意見には賛成でありますが、外資導入と「インフレーシヨン」との関係について政府の考えている所は次のとおりであります。
 外資導入と一口に申しましても、之は二つの種類に分れるのでありまして、第一は緊急援助費、再建援助費その他政府対政府又は政府の斡旋にかかるいわば政府的外資の導入であります。第二はいはゆる民間外資の導入であります。民間外資の導入につきましては「インフレーシヨン」の荒波の中に導入せられても、その効果が減殺せられるばかりでなく、もともと利潤性と安全性を前提として入つて来るものでありますから、「インフレーシヨン」下にある現在の不安定な我が国経済状態では、之を本格的に導入することは困難であると云わなければなりません。その意味で御説の通り、先づその受入体制を確立することが必要でありまして、「インフレーシヨン」の抑制は是非実現しなければならないと考えるのであります。
 併しながら「インフレーシヨン」を抑制致しますためには、現在の我が国の基礎的な経済条件下においては、外資の援助を受けなければこれを実現することが出来ないことも事実であります。
 従いまして、政府と致しましては関係方面並びに米本国の政府的な外資援助について出来る限りこれを多く仰げるように懇請致しますと共に、その外資の援助と睨みあつた国内的な綜合策を実施致しまして、先づ経済の安定を実現したいと考えて居ります。御説の通り均衡財政、均衡予算もその綜合施策の最も重要な一環として是非確立致したいと考えている次第であります。

第二、均衡財政又は均衡予算とは収支の均衡を得たる歳計予算を指すものであるかについて、及び
第三、均衡財政の意義について

 御質問の第二、均衡財政又は均衡予算とは、単に収支の均衡を得た歳計予算を指すものでないこと、御質問の第三、均衡財政とは財政が、国富との釣合いを保ち財政と一般経済とが、全然融合し、歩調を整えて釣合いを保ち、偏せず、侵さず渾然一体として作用する体制を意味することについては全然同感であります。従いまして、この際均衡財政或は健全財政につきまして若干の見解を補足して御答え致します。均衡財政を確立致します場合には、形式的の収支のつじつまが合つていること、つまりいわゆる赤字のないことだけを以つて足りるものでないことは明かであります。
 しかしながら均衡財政を確立する場合におきまして、形式的な収支の均衡を確保致しますことは、依然として最も重要であり不可欠の条件であることには変りがありません。形式的な収支の均衡の確保の外、実質的な均衡財政を確保するために政府の考えております見解を申しあげますと、均衡財政と申しますれば、これは国民所得との関連におきまして、これと調和を保つておることを第一の要件と致します。つまり国民所得の配分上、財政資金が国民消費資金と産業資金との合理的な枠を侵すことなく円満に計画されていることを必要と致します。この意味におきまして、歳入につきましては租税及び専売益金は国民の所得と調和したものでなければならないのでありまして、昭和二十三年度の税制の改正はこの線で考究中であります。又歳出については、終戦後の特殊事情によりまして、現在以上にこれを抑制することは非常な困難がありますけれども昭和二十三年度の予算編成に当つては不要不急事業と人員の増加とを極力抑制する方針であります。
 均衡財政を確立するための第二の要件は、歳入と歳出とが、時期的に均衡を得ていることを必要と致します。つまり年間の計画と致しましては、収支の均衡がとれておりましても、期間的には政府資金の撒布超過を実現して「インフレーシヨン」昂進の要因となることがあつてはならないのでありまして、昭和二十三年度におきましては、この意味で歳入の早期確保に努めつつある次第であります。均衡財政確立のための第三の要件と致しましては、財政の負担を不当に金融に転嫁して金融面からする通貨増発を来すことを避けるものでなければなりません。これは昭和二十二年度の復興金融金庫の貸出事情を見ましても、相当注意を要することであり、物価改訂の問題をも考え併せて解決を要するものであります。

第四、均衡財政の確立に関する方策について

 この項において述べられた意見は(一)通貨増発の抑制(二)物価の安定(三)食生活の安定(四)納税義務者の不満に対する処置(五)安全なる「為替レート」の設定の五点でありまして、いづれももつともな御意見であります。ただこれらの点についていささか私見を述べますならば、
(一) 通貨増発の抑制策として述べられました国費の緊縮については、もとより同感でありますが、今日国費の中には終戦後の整理に伴う止むを得ない経費や、物価の高騰を抑制するための調整費等が非常に大きな部分を占めて居りまして、その他の面では公共事業費でも、保健衛生の経費でも教育文化の経費でも、地方財政に対する分与金でも既に極端な切りつめを実行して居るのでありまして、これ以上の節約は仲々困難かと考えられます。
 また、御指摘の行政整理につきましては、いろいろ対策を練つて居りまして、早晩実行したいと考えて居りますが、戦後の労働条件の悪化した現状におきましては、人員の過剰というよりは、寧ろ労働の生産性の低下が大きな問題なのでありまして、まづ、官業及び官庁事務をできるだけ能率化して労働の生産性を高めることに努力したいと考えます。
 民間企業に対しましても、資金の供給をできるだけ重点的にし、不用の企業はこれを整備することの必要は御指摘の通りでありまして、融資の規制につきましては、万全の努力を致して居ります。ただ重要な産業につきましては、官業の場合の同様に、まず能率を高め、労働の生産性を向上させることが重要であらうと考えます。
 なお、官業の民業への移換につきましては、今日におきましては、先に申し述べました通り、まず官業を能率化することに重点をおく所存でありまして、移換の問題は現在は考えて居りません。又失業対策につきましては御意見に全く同感であります。
(二) 物価安定の方法として、鉄道運賃、通信料金、酒類、煙草の価格等の引下げを行うことの御提案につきましては、御趣旨には賛成でありますが、実際問題としまして、官業の料金は現在の一般物価水準から考えましても、独立採算制の必要から申しましても、これを引下げることは困難であります。また、酒、煙草等も今日の財政上の要求から考えまして、これを引下げることも現在は遺憾ながら困難と考えられます。併しこれらの国民生活に及ぼす影響の大きい点からその決定には十分慎重な考慮を払う所存であります。
 なお、通貨対策としては、通貨に対する信用を守ることが、第一の要諦であり、その意味から新円再封鎖のようなことは全く考えて居りません。
 奢侈的な消費等で法令に違反するものに対しては今後も一層取締りを厳重に致したいと考えて居ります。
(三) 食生活の安定については、概ね御意見の通りと考えます。「インフレーシヨン」を克服するためには、均衡財政の確立を必要とし、均衡財政を実現するためには、国民の消費生活の内容を安定させなければなりません。故に政府と致しましては、供出、増産の促進に努める外、極力食料の輸入を懇請し、繊維類の放出許可と、その他の消費財の輸入の懇請とを重ねているのでありまして、これによつて、賃金と物価の循環による「インフレーシヨン」の昂進を阻止しようとするものであります。
(四) 納税義務者の不満につきましては、「政府は、最近における賃銀、物価等の経済諸情勢の推移、課税の実情に照し、租税負担の軽減を図る等のため、税制改正の具体案を検討中でありまして、できる限り速かに成案を得て、これが改正案を国会に提出する方針であり、なかんずく小額所得者特に勤労所得者に対する所得税を軽減することを考慮して居ります。しかしながら現在の財政事情から見れば、この際と致しましては相当の税負担はやむを得ないものと考えます。
(五) 安全なる「為替レート」が「インフレーシヨン」下においては設定せられることが困難であるから、先ず均衡財政を実現し「インフレーシヨン」とを除却して速かに「為替レート」の設定を実現すべしとの御質問の主旨には賛成であります。
 わが国経済も、程度は僅少乍ら漸次国際経済との関連を生じておりますので、既に種々の送金関係を生じ、又未だ本格的ではないにしても色々と民間外資の導入に関する具体的な話もあるのでありますが、「為替レート」が設定せられていないために、非常に不便な現状であります。従いまして本格的な「為替レート」の設定でなくとも、送金関係その他貿易外収支にのみ適用されるべき、率だけでも決定されることを希望致しているのでありますが、今日までやはり「インフレーシヨン」の関係で実現しておらないのであります。
 御説の通り先ず経済を安定して速かに「為替レート」の本格的設定を実現することが、わが国経済を、民間外資の導入、貿易の振興等を通じて国際経済に参加せしめるために是非必要であると考えております。均衡財政がかかる経済安定のための綜合施策の一環として重要なものであることは申すまでもありません。

第五、均衡財政を確立する方策の研究について

 政府はわが国経済の復興計画を進めるために経済安定本部を中心に日本経済復興計画委員会を設けて復興計画を立案させることを考えております。この委員会が発足すれば、復興計画の面から当然財政の問題もその一環としてとり上げられることになるでありましようが、具体的な問題についてはまだお答えする所まで進んでおりません。