質問主意書

第2回国会(常会)

質問主意書


(質問第九十五号)

引揚農民の新規入植に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十三年四月二十六日

北條 秀一      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   引揚農民の新規入植に関する質問主意書

 嘗つて国策によつて満洲に送出された開拓農民は最も悲惨な状態に追いつめられて本国に引揚げて来たが、その数五万戸に及んでいる。彼等は移住に当つて一家一村を挙げて行つたものが多いために、本国に尺寸の農地をも持つていないのである。しかも彼等は祖先伝来の農家なるために、農業に天職を求め、農業以外に生きる方途を持たないものであつて、これら農民の帰農は国家の責任において当然に完成すべきである。
 これらの開拓農民は昭和二十二年度に一万二千戸入植せしめられ、その実績は全く見るべきものがあるが、なお一万九千五百戸の引揚農家が本年度の新規入植に希望をつないで、雇農の生活を続けているのである。従つてこれらの新規入植の実施は絶対に決行すべきであり、然らざれば由々しき社会問題を発生するに至るであろう。
 以上のような事情にあるにもかかわらず、政府部内には新規入植を中止せんとする意向ありと巷間に伝えられ引揚農民の間に大きな不安を惹起しているのである。海外同胞引揚問題特別委員会における政府委員の説明によれば、昭和二十三年度は五千三百戸程度の新規入植を考慮しありとのことである。その理由とするところが、新規入植の予算厖大なることと、公共事業費の総額の僅少なることにある如くであるが、新規入植予算についての政府の考え方と農家の要請とが余りにも懸隔があるので、この点を明らかにし、政府の謬見を是正したいと思うので、これを以下数次に分つて記し、これに対する政府(経済安定本部、農林省及大蔵省)の所見を明らかにされたい。

一、政府の予算案によると新規入植一戸当約三〇万円近くの経費が必要であると云うことであるが、これについて左の点を入植農家の直接費と政府等の経費とに分つて明らかにされたい。
イ、開墾費の年次別所要額
ロ、住宅及共同施設建設費
ハ、営農資金
ニ、農家の家族数の基準及その生活費基準

二、昭和二十二年度新規入植農家一戸に対する融資金は二万五百円であるが、しかもこの一戸の入植に対して三〇万円近くの経費を国庫より支弁するとせば、約二十七万円の経費が政府側において支出されることになる訳であるが、その内容を詳細に示されたい。

三、引揚農家の新規入植のための所要経費についての要請(本年四月現在入植待期農家の要請)は次の通りであるが、これによると農家は土地さえあれば、十四万円で何等の政府等の援助を得なくても立派に営農すると云うのに対し、政府が三十万円近くも必要だと云うのは、例へ間接費か土地購入費が必要だとしても、余りに差があり過ぎるが、これについての政府の見解を具体的に数字で以て示されたい。

新規入植経費(開拓団の要請額)
イ、生活費 二・五人家族 一日三〇円の計算
  初 年 度二六、〇〇〇円
  二 年 度二一、〇〇〇円
  三 年 度一三、〇〇〇円
  小   計六〇、〇〇〇円

ロ、建築費及共同施設費
初 年 度二〇、〇〇〇円
二 年 度一〇、〇〇〇円
共同施設費五、〇〇〇円
小   計三五、〇〇〇円

ハ、営農資金(開墾費を含む)
営農資金指 導 費
初 年 度二〇、〇〇〇円一、〇〇〇円
二 年 度一〇、〇〇〇円一、〇〇〇円
三 年 度一〇、〇〇〇円一、〇〇〇円
四 年 度一、〇〇〇円
五 年 度一、〇〇〇円
小   計四五、〇〇〇円
総   計一四〇、〇〇〇円

三、新規入植に対し政府が消極的態度をとつている理由として、終戦後の新規入植の成績不良を指摘している様であるが、これは全く引揚農民に対しては当らざるも甚だしい。終戦後の新規入植の大部分が、元来農家ならざる転業農家であるか又は一時的偽装入植者が多かつたためであり、他方開発営団並に行政官庁の無方針と浪費が原因であると思う。このことは昭和二十二年の満洲引揚農民の新規入植の実績が如実に物語つているのであるが、新規入植を好ましからずとする政府の見解を事実に徴して示してもらいたい。

四、現在入植待機中の引揚農家一九、五〇〇戸に対しては、入植せしめようと考えているのか何うか。入植せしめるとせば、その具体的な計画(方針案にて可)を示されたい。

五、本年シベリヤより引揚げる農家について政府は、その入植について何等かの準備措置を用意しているか何うか。