質問主意書

第1回国会(特別会)

答弁書


(答弁書第百二十六号)昭和二十二年十二月二日配付

内閣参甲第一三九号
  昭和二十二年十一月二十八日

内閣総理大臣 片山 哲      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員北條秀一君提出戦時公債に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員北條秀一君提出戦時公債に関する質問に対する答弁書

一、戦時公債とは、これを狹義に解釈すれば満洲事変、支那事変及び大東亜戦争の軍事費の財源として発行した公債をいうものと考えられるが、これを広義に解釈すれば満洲事変発生後大東亜戦争終了までの期間中に直接軍事費の財源に充てなくともこれら事変又は戦争に関連して発行せられた公債をいい更に広義に解釈すれば同期間中に発行せられた公債を総称するものと考えられる。そのいづれによるべきかは具体的問題に当つて決すべきものと考える。

二、戦時公債の発行額は、満洲事変公債     一、八六〇百万円
 支那事変公債一八、七〇四百万円大東亜戦争公債八九、七三〇百万円合計一一〇、二九四百万円であつてこれら公債の本年度分の利子額は満洲事変公債七〇百万円、支那事変公債六四三百万円大東亜戦争公債三、一〇五百万円合計三、八一八百万円である。

三、第二項の戦時公債の所有者別の割合については推定困難であるが、右の戦時公債の額は昭和二十二年三月末現在の内国債現在高一七二、二五〇百万円の約六割五分を占めているから、右の国債所有額調によつて大体において推定し得ると考えられる。
 昭和二十二年三月末現在の内国債所有者別所有額によると、
(一) 金融機関一一五、六〇四百万円六七・二%
(二) 政府関係(預金部等)四七、七二四〃    二七・七〃
(三) 地方公共団体五六〃    -  
(四) その他法人、個人二、九九五〃    一・七〃
(五) 非登録国債五、八六九〃    三・四〃
(六) 合 計一七二、二五〇〃    一〇〇・〇〃

四、戦時公債の買入償却は我が国の現下の財政状況の下においては、国債の償還資金は昭和七年法律第八号により前年度首における国債総額の万分の百十六に相当する金額の三分の一程度と財政法第六条に規定する各会計年度における歳入歳出の決算上の剰余金の二分の一の程度しか望み得ない状況であるから、これを一挙に買入償却することは殆ど不可能である。

五、及び六、
(一) 戦時国債の所有者別の割合は、推定困難であるが、昭和二十二年三月末現在の内国債現在高一七二、二五〇百万円についてみると、その約九四%は日本銀行、預金部、その他の市中金融機関の所有するものであつて、個人又は法人の直接所有分は残りの約六%に過ぎない。
(二) 従つて国債は国民大衆が金融機関に対する預貯金を通じて間接に所有しているものといい得るのであつて、国債の元本切捨て、又は利子の支払停止、引下げ等を行うと、当然に金融機関の内容を悪化せしめるか、然らずんば直接に預貯金の切捨て又は無利子化等の措置を講ぜざるを得ないことになる。
(三) 右のような新勘定預貯金の無利子化又は利子率の引下げを行うことは、目下救国貯蓄運動を強力に推進し、経済再建に努力しつつある今日極めて悪影響があるのみならず、仮りに金融機関に損失を負担せしめることとすれば、金融機関の業績を長期に亘り著しく悪化せしめ、金融界に非常な動揺と混乱を与え金融機関の再建整備ひいては我国経済の再建工作に重大な障碍となるから、政府としては総予算中に占める国債利子の比率(昭和二十二年度一般会計歳出総額に対し三・四%)と、これらの不利益とを比較勘案して、この際執るべき措置ではないと考える次第である。
(四) 更に又新規国債発行との関係においても慎重考慮すべき問題がある。本年九月以降復興四分利国庫証券の公募を実施し、国民各位の御協力によつて今日までに三〇億円の大衆消化の成績を挙げており、今後も相当多額に上る国債を公募しなければならない現状においては、国債の信用を動揺せしめるような国債の処理は、将来の施策に障碍となることも考えられる。

七、御質問のように、戦争犠牲者の更生救済ということは、政府においても極めてその緊要性を痛感し、これが対策については万全の措置を講じたいと考え、現に極力更生救済の方途について対策を講じつつある次第であるが、戦時国債の利子の支払を二ケ年間廃止するか又は利率引下げを行い、これを財源として戦争犠牲者の更生資金として融通する案については、先程申し述べた理由によつて、救国貯蓄運動、金融機関の再建整備等現下我国経済の再建工作に悪影響を及ぼすから別途研究致したいと考える。