質問主意書

第1回国会(特別会)

答弁書


(答弁書第七十九号)  昭和二十二年十月九日配付

内閣参甲第九一号
  昭和二十二年十月七日

内閣総理大臣 片山 哲      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員三好始君提出供出制度の理論的立場に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員三好始君提出供出制度の理論的立場に関する質問に対する答弁書

一 実収主義と責任主義について

(1) 従来政府は、国内食糧の公平なる分配を最高度に実現せしめんがため、食糧の生産者たる農民も自家保有量を除くすべての食糧を供出する責務を負担せしめる建前をとり所謂実収主義を採用した。但しこの場合における「実収」とは、供出割当がなるべく早く割当てねばならぬという必要性から、むしろ最終予想収穫高の意であり、従つて供出割当量はその最終予想収穫高から一定の農家保有量を差引いて決定される。従つて「実収」は真実の意味の実収と必ずしも一致しえないことは当然のことである。これ故に形式的に云つても又実収主義の本来の立前から云つてもこの誤差の補正のために何等かの措置を講じなければならない。この場合において先ず考えられるのは実収量確定後に再割当をすることであるが、この方式は、供出割当を時期的に遅延せしめ、且つ農民心理に悪影響を及ぼすという意味において致命的欠陥を持つものといいうる。これゆえにむしろ実収量が予想量を上廻るような場合には可及的に報償制により吸収し、又実収高が災害等の為甚しく減少した場合には減額補正をすることが当然であり且つ実際的であると考えられ、現行制度はこの方式を採用しているのである。而して昭和二十一年産麦以降は建前として還元配給を必要としないような計算の基礎の上に尠くとも都道府県別の供出割当を決定しているが、たまたま昭和二十一年産米に於ては諸般の情勢上百十%供出を実施しなければならなくなつたために、還元配給を必要とする事態が発生したことも事実である。
 然しながら、いずれにもせよ従来の実収主義が国内食糧の最高度の調達を建前とする反面においてややもすれば日本農業の再生産に対する顧慮を欠き、ために農家の再生産意慾を制約し飯米農家の増加等却つてこの目的と相反する結果を齎らし勝ちであつたことに鑑みて今般政府は既に本国会に提出した臨時農業生産調整法案において所謂責任供出制を採用し、生産計画と同時に且つこれを基準として供出割当を決定し、農家の努力による生産の増加に基く超過供出分の買入については報償金、報償物資につき特段の措置を講ずることとした次第である。
(2) 今次国会に提出された臨時農業生産調整法の中心は、合理的基礎の上に立つ生産及供出計画の適確なる遂行を期するため、生産の割当制の実施及びこれにリンクした肥料その他の生産資材の割当並びにこれに基く供出責任数量の決定を有機的に連繋せしめる点であるが、この場合供出責任体制の基本となる生産割当は正に農村の実体-生産及び供出の条件-から遊離しては全くこの意慾を失つてしまうことはいうまでもない。
 然してこの農村の実態を把握する方法として考えられるのは統計調査の整備と委員会制度の民主化である。第一の統計調査の整備については、既に農林省内に新たに統計調査局を設置し、中央政府に対し直接責任を負う国の官吏を各地に配置して、供出担当官庁の業務とは関係なく独自の立場から純粋に客観的調査を行うこととし、調査の具体的方法についても、各農事試験場で行われる気象感応試験を始め、作況試験、標準坪刈調査、サンプル調査、アンケート調査、作付面積調査等種々研究を重ね、より実体に近い科学的数字の把握に努力しつつある。又他方責任の基礎となるべき耕地の実態の把握特に地力調査等を、実施する計画を有している。
 第二の点については都道府県及び市町村農業調整委員会を議決機関として、生産者の意見をよりよく反映するような方策を講ずることとした。

二 綜合主義と制限主義について

 臨時農業生産調整法の施行に伴い、農民の供出責任数量は予め作付前に明示せられる訳であるが、単に適地適作主義により年間を通じて広範囲の代替を認めることについては、現在の食糧需給操作の能力、藷類の加工、貯蔵、輸送等の能力から或程度の技術的制約を蒙らざるを得ない。従つて純理論的問題としては、完全な綜合供出制度の利点は首肯出来るが現実の問題として出来得る限り、綜合制の改善、拡大を図り増産意慾の高揚に資せしめ度いと考えている。