質問主意書

第1回国会(特別会)

答弁書


(答弁書第十二号)昭和二十二年八月十二日配付

内閣参甲第二〇号
  昭和二十二年八月八日

内閣総理大臣 片山 哲      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員北條秀一君外四名提出民主主義新日本建設の基礎条件として戦争犠牲の公平なる負担問題に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員北條秀一君外四名提出民主主義新日本建設の基礎条件として戦争犠牲の公平なる負担問題に関する質問に対する答弁書

(一)戦争犠牲の均分化については、終戦後各般の施策において、政府は、できるだけ戦争犠牲の均分化の趣旨を生かすことに努めているのであるが、何分にも終戦に伴う我国の経済的打撃が深刻のため、戦後経済建直しの途も極めて困難であり、ために戦争犠牲の均分化の趣旨も、この経済再建を著しく妨げない程度に止めねばならぬ場合も生じて来る。昨年戦争保険や軍需補償等を打切つたのに併せて財産税の賦課を行つたが、この措置は多分に戦争犠牲の均分化の趣旨を持つているのである。
 その外、引揚者、戦災者等の戦争犠牲者に対しては、引揚の援護のほか、乏しい衣料品の配給、少い建設住宅の貸付に当つても、できる丈けこれ等の犠牲者を優遇することに努めている。又その更生や失業対策として、庶民金庫からの貸出に考慮を払い、失業対策、生活保護法の施行等の措置を講じている。
 これらの方針は今後においても国力の許す限り同様の趣旨で続けてゆく所存であつて目下政府は今国会に非戦災家屋税法案の提案方を考究しているが、これも亦その方針の現われと御諒解頂きたい。

(二)庶民金庫の貸付金に関しては、本事業が引揚者の自立更生を図らしめるため極めて緊要な施策であり、且つ、貸金の需要も極めて多いので、その増額及び即時貸出の必要性は充分認められるが、目下の処国家財政の都合もあり、困難な事情にあるので、現在高五億円の未放出分の貸付に就ては堅実な貸付方針により真に必要な方面に対しては、円滑な貸付の行われるよう努力する考えであり、又引揚者とそれ以外の者との間には何の不公平のないよう取扱つているから御諒承願いたい。なお今後とも国庫予算の状況を勘案し他面庶民金庫自体の貸金調達能力をも併せ考えて、更に或る程度の追加計画に関し考慮致したい。
 生活保護法の運用については引揚者の故を以て一般要保護者とは別個に差別的又は優先的な取扱を致すことは、出来ないが、苟くも生活困窮のため保護を要する状態にある者に対しては、本法によつて保護し、一層その趣旨の徹底を図り、速かに生活の再建が出来るよう努力を致したい。
 又引揚者の失業対策については一般的失業対策の一環として全国各地の公共職業安定所の適職斡旋、土地開拓事業等所謂公共事業への就労促進等特に重点をおき之が設営に当つている。特に引揚者としての特殊性及び適職への転換、就労を推進する為都道府県に設置されている失業対策実施本部の適切なる活用を図る等引揚者失業対策に鋭意努力を重ねている。以上に依つても尚就職に恵まれない生活困窮者に対しては生活保護法に依り其の最低生活の維持を図るべく努力致して居る。
 又引揚者の更正について財団法人「更生事業推進中央会」等が設置せられ目下活動を開始している。これらの設置は今後引揚同胞の就業就職等に大に貢献する所があるものと期待している。

(三)在外同胞救済資金については、之と同性質の在外公館借入金もあり、此等は在外資産として報告せられていると思われる、その解決には努力する考えであるが、その補償を優先的に取扱うことは他の賠償充当資産との振合い、その他諸般の点から十分研究の要があるから慎重に考究いたしたい。

(四)戦時公債中、在外同胞の所有にかかる分については、その所有者が現在手許に利札を持たず、又当局において所有者を個別的に調査することが現状として至難である等のため事実問題として支払が不可能であるがなお今後考究の上出来る限り御期待に副うよう努力致したい。
 在外邦人の所有する国債の利子未払額については、在外邦人所有の国債の金額が判明しないため、これに対する利子の未払額がいくらになつているかは、算定出来ないが、登録国債については、所有者が本邦に引揚げれば、利払地を本邦内に移すことが出来る取扱いであり、その手続をとれば直に支払を受けられることになつているから一応これを除外し、無記名証券について郵便局を通じての外地売出額とか戦時中の外地における利子支払額等を資料として、且つ在外の国債証券はすべて本邦人の所有するものと看做して推算すると次のようである。
無記名国債証券の額面 約四五〇、〇〇〇千円
右に対する利子年額   一五、七五〇〃
自昭和二十年九月
至昭和二十二年六月
一年九ケ月分利子   二七、五六二〃

なお、右の国債証券に対する元利払の取扱い方は、一般の在外財産の処理方針に則して決定せらるべきものであるから今直にその未払額を社会政策費の財源に流用することは不適当と考える。

(五)未帰還者の引揚促進については、政府は凡ゆる機会において適切と思われる措置を講じて来たが、今後も同様に促進に努力する。未帰還者家族の慰安と激励のため、対外通信の斡旋円滑化を図り、更にラヂオ放送に「引揚者の時間」を設けて現地情況の速報等を行つている。