質問主意書

第1回国会(特別会)

答弁書


(答弁書第八号)昭和二十二年七月十七日配付

内閣参甲第一三号
  昭和二十二年七月十六日

内閣総理大臣 片山 哲      


       参議院議長 松平 恒雄 殿

参議院議員山下義信君提出新日本建設国民運動に関する質問に対し、別紙答弁書を送付する。



   参議院議員山下義信君提出新日本建設国民運動に関する質問に対する答弁書

一、国家総動員法、輸出入品等に関する臨時措置に関する法律を基礎法律とするいくたの戦時経済統制法令や、軍需会社法、商工組合法など企業経営を束縛した戦時法令、更に軍需産業の助長育成を目的とした各種事業法など、戦争目的のためにつくられた諸法令は、終戦以来すでにその大部分が撤廃せられており、現在において戦時中からひきつづき残つているものは、臨時資金調整法ぐらいのものであるが、これはインフレーションを防止するためには、終戦後も撤廃するわけに参らぬので、必要な改正を加えて残置しているものである。
 終戦後の経済は、国民がすでによく理解している如く、甚だ不安定な状態にあるので、これを一日もはやく再建し安定させるためには、どうしても或程度の統制が必要であるが、このための法令は、いづれも終戦後の実情に即し、議会の協賛を経てあらたに立法され、又は聯合軍司令部よりの指令に基づいて制定せられたものであつて、戦時統制の延長ではない。
 戦時中の悪法にしてなお残つているものについて、その撤廃または改正を行なうことの必要については、全く同感である。

二、終戦後の統制の目的は、国民から遊離した政府が、自分の都合のよい法規を作つて国民の自由を不当に束縛しようとするものではなく、混乱した経済を最も速かに、かつ円滑にたてなおすために、国民全体の利益を目的として、秩序のある経済の運営をはかろうとするものである。従つて、その立法の目的においても、手続においても、またこれが施行のやりかたについても、あくまで民意を充分に反映させるように留意されているのであるから、まじめな国民は、これを自由の束縛をしてではなく、祖国再建のための自己の行動の基準として理解し、積極的に協力できるものと思う。もしそうでない点があれば、十分に検討して、改めるべきものは改めるつもりである。
 統制のための統制と云ふ如き不必要な統制は、政府としても行う意志はない。

三、現在の国民生活が、すでに非常な耐乏生活であることは政府も充分承知致している。しかし、経済の再建に必要な資材や、資金が、敗戦国としてはふさわしくない方面に、相当量流れていることは国民が現に目にしている事実である。このような奢侈娯楽の方面に対する慾望を抑えて、ここに消費されている経済力を再建の方にまわすことが先づ第一である。しかしこれだけでは足りないのであつて、敗戦国たるわが国としては、外からの援助をたのむまえに、先づ自力で出来るあらゆる努力をつくさなければならない。そのためにはただでさえ足りない生活資料を節約し、一時の不便苦痛をしのんでもこれを重点産業の原材料資材に、或いは農民や重点産業労務者の労働確保のために、さらには食糧輸入の見返りをしての輸出のために廻して、将来の生活向上のために使わなければならないのである。勿論、国民の最低生活を確保することは、いかなる事態においても第一の要件であるから、この最低の限度を無視することはできないが再建の速度は、現在におけるわれわれの耐乏の度合によつてきまることについては、充分の理解を要望したい。
 耐乏の度合は、生活物資の種類に応じてそれぞれ異なるので、一概に何割と云うわけには参らないが、政府としては、今回決定した鉱工業全国平均賃金水準一八〇〇円の基礎となつている物的消費基準は、絶対に確保する決心で努力している。

四、国民道義の根源は正しき政治にあるとの御所見には、誠に同感であるが、然し又、正しき政治の根源は国民道義の確立にあるとも言いうるかと思う。
 殊に、国際間に真の信頼を回復するに足る民主国家の建設という大使命を負つている現在、政治が国民一般の政治的自覚と道義確立に基いて、国民の正しい批判と協力とによつて運営されると共に、正しく明るい政治の下に、国民の日常生活がより向上し、国民道義が自ら確立されることが何よりも必要であると考え、政府においても、憲法精神の普及徹底をはじめ、国民の政治的自覚の喚起のために努力すると共に、よき政治、真に国民の政治が行われる基盤を作るため、新日本建設国民運動の強力な展開を期待して、いるのである。
 次に信賞政策の必要に関しても、同感であり、あらゆる機会に勧善賞揚の方途を講じ、政治と道義との一体の実を挙げるよう努力致したいと考えておる。

五、経済危機の突破は、いつに国民の勤労にかゝつているのであるから、見事な勤労成績をあげた者に対しては、国民を代表して表彰することは極めて意義あることと考える。従来でも、かかる考えにもとづき、いろいろの機会に表彰を行なつて参つているが、今後もこの方針をますます発展させていくつもりである。しかし、表彰する場合の基準や、表彰の方法などには、いろいろの変化があるので、国民表彰法というような統一的な法制によることがよいかどうかについて、十分研究をすゝめる方針である。

六、新日本建設国民運動は、真に国民の自主的な運動として展開されることを期待しており、殊に青年層の活溌にして清純な活動に期待するところが特に大きいのである。政府としても、青年層の救国の至情より発する新日本建設運動が、大きく全国民運動となつて展開されていくことを希望し、この運動の中央実践機関として構想している中央協議会に青年団体部会を設け、この部会を中心に青年層における国民運動の推進を図りたいと考えておる。

七、今回の新日本建設国民運動が祖国再建をめざす積極的な意慾を情熱のみちた力強く新しい精神を喚起することを目標としているから従つて、宗教的信念の基礎付けによつて国民相互の間友愛協力が充分に行われて始めて力強いものとなると考える。よつて、かゝる運動は宗教家各位の積極的な協力によつてその効果を期することが出来ると思う。

八、国民の間にかゝる意見をもつものがあるが、宗教については信教自由の原則に立ち国民の自主性によつて生まれるものであるので政府が自ら手を下して指導し、又は干与すべきものではないと思つている。寧ろ、宗教の改革の必要があれば宗教団体自らの問題として考うべきものと思う。

九、政府は充分宗教を尊重する。このことは新憲法の趣旨においても、又教育基本法の明文によつても明かである。そして、宗教の取扱については政府は一宗一派に偏するような措置はとらないよう常に注意している。又、宗教行政は宗教界の意嚮を充分尊重する必要があり、政府は充分留意しているところである。
 斯界の長老をもつて宗教行政の最高指導者とすることについては今の処考えていない。又、現在のところ宗教行政についての特別の機関を設置する意図はない。

十、戦争犠牲者戦災孤児等の困窮の状態は洵に測り知れない深刻なものがある。
 これ等の人々に対する援護は素より政府の責任において行わるべきものではあるが、国民も又心から隣人愛に徹し温い涙を注いで一日も早く生活再建への心強い出発をなさしめ新日本再建設に邁進することは刻下の急務であると思う。
 故にこの際政府も民間も力を合せて社会事業の強化拡充に努力すると共に、国民協助の運動を近く全国的に展開致したいと考えておる。