質問主意書

第1回国会(特別会)

質問主意書


(質問第二十号)昭和二十二年八月四日配付

産児制限に関する質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十二年八月二日

谷口 彌三郎      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   産児制限に関する質問主意書

 我が国は今回の敗戦の結果、領土は四割強を失い、甚しく狭められたる国土に復員者、引揚者の帰還と出生の激増(戦後一時的の現象ならんも)によりて、人口は益々増加し食糧は不足するため、水陸両方面に於て、科学的施設を加え増産に努力するも食糧危機は次第に深酷の度を加うることと想像せらる、殊に経済安定本部人口分科会の推定によると、昭和二十五年十月には八千万近くに増加する由なれば、現在の我が国土に於て、之れ以上の人口に対する国民生活の保証は困難ならんと考えらる。
 一方生活困難の結果、国民中には避妊特に有害なる避妊器具薬品等を用い或は窃に堕胎を行う者を生じ其の結果余病を惹起し中には生命を失う者もある。
 就いては新憲法の精神に鑑み、国民生活を安定するために、国内情勢の好転する迄、暫定的なるも之が救済策としての左記項目に対する政府の御意見を承け賜りたい。

一、人口の増加を当分の間、抑制するの必要ありとすれば、現行国民優生法を積極的に奨励して、不良分子の出生を防止することは、人口増加抑制の一助たるべきを以て、現在殆んど、空文化せる同法を活用せしむるために其の申請及び手術に関する手続きを出来る丈け簡易化せしむること。

二、優生手術を認めながら、其の手術前に妊娠したるものに対しては妊娠を継続せしむるも、母体に危険なしとの理由にて、妊娠中絶を認めざるは甚だしき矛盾なりと思う。

三、避妊用器具及び薬品中有害なる物あり、今後更に続出するものと思わる、取締りに関し政府の方針如何。

四、妊娠中絶は妊娠の継続並びに分娩によりて母体の生命を危険ならしむる場合にのみ法的に認められ居るも、現下の社会情勢に於ては、或る程度、之を緩和する必要なきや、若し其の必要を認めんとする場合には慎重を期するため先ず中央に産児調節審議会(仮称)を設けて我が国人口の将来性特に民族の逆陶汰を来たさぬよう並びに年齢構成がピラミツト型を崩さぬよう注意すると倶に国民風俗の頽廃を防ぐべく顧慮して妊娠中絶に対する諸条件を定め、其の成案を地方の産児調節相談所(仮称)に示し、地方の相談所は産児調節希望者より提出する医師の妊娠証明書と妊娠中絶希望の理由書を検討し其の中絶の必要あるものには認可証を与えて医師により手術を受けしむること。

五、従来妊娠の継続及び分娩が母体の健康に重大なる危険を及ぼす場合は人工妊娠中絶の医学的条件として法的に認められておるも、尚其の他に刑事政策的、国民優生的、社会的方面よりして左記の場合を認むる意志がないか

イ、強姦、誘惑によりて妊娠せる場合
ロ、精神欠陥者の妊娠せる場合
ハ、健康児を有せる戦災者又は引揚者にして甚だしく生活苦に悩める者が更に妊娠せる場合
ニ、一般婦人にありても既に三名以上の健康児を有し分娩毎に甚だしく母体の健康度を低下する者が更に妊娠して而も生活著しく窮迫して育児不可能なる状態にある場合
ホ、分娩後一年以内の婦人にして乳汁分泌不充分の結果、乳児の発育不良なる際再び妊娠したる場合

  右に対し文書答弁を願います。