質問主意書

第1回国会(特別会)

質問主意書


(質問第十二号)昭和二十二年八月二日配付

民主主義新日本建設の基礎条件として戦争犠牲の公平なる負担問題に関しての質問主意書

右の質問主意書を国会法第七十四条によつて提出する。

  昭和二十二年七月三十一日

北條 秀一      
穗積 眞六郎      
淺岡 信夫      
星野 芳樹      
千田  正      

       参議院議長 松平 恒雄 殿



   民主主義新日本建設の基礎条件として戦争犠牲の公平なる負担問題に関しての質問主意書

 民主々義新日本建設は(一)戦争の原因を払拭すると共に、(二)戦争犠牲の均分化を図ることの二つによつて基礎条件を確立するものである。
 この基礎条件が確立されないならば、政府が全国民に要請する経済危機突破対策も新日本建設運動も極めて推進力が弱くなるのみか地から浮いたものとなる事を憂うのである。
 戦争の原因の払拭は軍備の廃止、公職追放、財閥解体及び官僚機構の刷新、官紀粛正等によつて進められているが、更に之を徹底的に行はなくてはならない。戦争犠牲の公平なる負担には、プラスとマイナスの二つの面がある。
 即ちプラス面である戦争犠牲を蒙らなかつた者に対する犠牲の負担は財産税の徴収等によつて行はれたが、マイナス面の戦争犠牲者に対する処置としては、本国の戦災者に対して戦災補償及び一ケ年間の免税等緊急措置をとられたが引揚者に対しては、昭和二十一年八月十五日までに限り免税の取扱を準用したのみで其の他については、何等の措置も講じていない。勿論引揚援護院の設置等による援護がなされたが、それは援護であつて戦争犠牲の公平なる負担ということではない。今回政府は財政健全化を図るために、新しく財源を求めむとし、その理由を戦争犠牲の均分化に置いているとのことであるが、国家の危機を救うための已むを得ない措置であると考えられる。然し今日最も問題としなければならないのは、引揚者等の甚大なる犠牲負担の軽減に関する措置である。之は根本的には、道義問題であり殊に現下の社会不安状態よりすれば大きな治安問題にまで発展しつつあるのである。以上の基礎的見解に立ち次の事項につき政府の方針を明かにされたい。

(一)戦争犠牲の公平なる負担は民主主義の新日本建設の基礎条件であると考えるが之に対して政府はいかなる考を有しているか、そしてこれについて、今日まで如何なる方法によつて戦争犠牲の均分化を図つたかについて具体的説明をされたい。又今後如何なる方法によつてこの方針を具現化せんとするかについて承りたい。

(二)引揚者等の在外資産の補償は根本的には、講和条約締結後でなければ解決し得ない問題だとしても、在外資産の一小部分である個人資産については、本国における戦災者対策に準じて引揚者等の緊急更生のための社会政策的措置を講ずべきである。これについては、引揚者は本国居住者と違つてその定着地における職縁、人縁、地縁が極めて薄いために、更生が容易でない。庶民金庫の貸出とか、生活保護法とか、失業対策等が講ぜられているが全く不充分である。従つて引揚者は、国民として如何にも不公平なる取扱をうけているという印象を持つており、今日の如き経済危機に直面し極端なる社会不安醸成の原因をなしている。従つて政府は之等のことにつき引揚者を納得せしむるに足る理由を明かにされたい。又今後これについての対策を持つておるべきであるが、これらについて具体的に所見を明かにされたい。

(三)在外同胞救済資金は、敗戦後在外同胞が僻地よりの避難同胞救済のために、或は生活難に陥つた在外公館員救済のために、同胞間より募集した借款である。之等の借款は、全く政府の行政費に属するものであつて従つて全額を支払うべきであるが、政府の見解如何、そしてこの問題は今日まで多くの陳情がなされたにも拘らず、何等の処置も講じなかつた理由如何。

(四)引揚者等が在外時に主として政府の割当によつて引受けた戦争公債に対する利子の支払は敗戦後実行されていないし又今後も支払はれ得ないと考えられる。従て之等の未払利子は相当額に達するであろうと考えられるがその未払国庫保留額はどの位あるか。又この未払額を引揚者等の更生のための社会政策財源として活用すべきを至当とするが政府の見解如何。

(五)未帰還者の帰還については、政府も最善を尽しているのであるが、更に之が促進に努力されたい。特にその家族の慰安と激励をする事は今日最も緊要なことである。これに関し政府のとつてきた方策並びに今後の方策について之を具体的に示されたい。