請願

 

第211回国会 請願の要旨

新件番号 1266 件名 理解と合意なき汚染水の海洋放出の中止に関する請願
要旨  政府は、福島第一原発事故により発生したタンク貯蔵汚染水をALPS処理水として海洋放出しようとしている。事故から十二年が経ったが、政府による原子力緊急事態宣言はいまだ解除されていない。福島第一原子力発電所一~四号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップでは三十~四十年で廃炉としてきたが、二〇二一年実施予定の燃料デブリ取り出しも延期されて見通しが立たず、廃止措置の完了形態も法的に定められていない。にもかかわらず、政府は復興と廃炉の両立という美名の下、廃炉を計画的に進める必要やデブリ取り出しなどに大きなスペースが必要であるとして、二〇二一年四月に汚染水の海洋放出処分を決定し、今年一月には、ALPS処理水の処分に関する基本方針の着実な実行に向けた関係閣僚等会議において、「海洋放出設備工事の完了、工事後の原子力規制委員会による使用前検査、IAEAの包括的報告書等を経て、具体的な放出の時期は、本年春から夏頃と見込んでいる」と放出ありきの強硬姿勢を続けている。これは、関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないという政府と東京電力による福島県漁連や全漁連に対する二〇一五年の文書約束をほごにするものである。政府は、漁業者を始め福島県内農林水産業・消費者の協同組合による共同声明や福島県内自治体議会の海洋放出反対・慎重の意見書、宮城県など周辺自治体の反対意見など国内の声を無視し、アジアの近隣諸国を始めオーストラリアなどが加盟する太平洋諸島フォーラムや全米海洋研究所協会などからの安全性への懸念など、世界の声を軽視している。約百三十二万トンを超えるタンク貯蔵汚染水を年間二十二兆ベクレルを上限に三十年を超えて放出する計画について、トリチウムや炭素14を含めた核種を告示濃度限度以下にして流すものであるが、海水で薄めても放射性核種の総量は同じである。放出水に含まれる全ての放射性核種の定量確認もないまま多量の放射性核種を福島の海へ流せば、太平洋に広がり海洋環境が汚染されてしまう。東京電力は、海底土や海浜砂、生物への吸着・濃縮は一年以内で平衡になると放出による放射能の蓄積とフィードバックを過小評価しており、政府は不十分な放射線影響評価を東京電力に見直させるべきである。また、被害の発生を前提にした風評対策は廃炉を優先して復興を犠牲にするもので、多くの福島県民が不信感を抱いている。関係者の理解なしにはいかなる処分も行わないという約束を守ることが、福島第一原発事故対策を進める政府の責任であり、このまま強引に放出を強行すれば将来に大きな禍根を残す。ふるさとの海、日本の海、世界の海を放射能でこれ以上汚してはならない。国民の安全と安心を確保するため、理解と合意なき汚染水の海洋放出は中止するよう強く求める。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、海洋放出について、福島第一原発事故及び汚染水発生の原点に立ち返り、「関係者の理解なしにはいかなる処分も行わない」とする福島県漁連などとの文書約束を守り、理解と合意のないまま汚染水の海洋放出は行わないよう政府に求めること。
二、情報公開と放射線影響評価の見直しについて、政府は東京電力に対し、放出する全放射性核種の濃度、総量などの全情報を公開し、海底土や海浜砂、生物への吸着・濃縮による放射能の蓄積とフィードバックを再評価して、原子力規制委員会に改めて補正書を提出するように求めること。
三、汚染水対策について、地下水の止水、大型タンク長期保管案やモルタル固化保管案などの検討、トリチウム分離技術の実用化など、汚染水についての抜本対策を早急に確立するよう政府に求めること。
四、説明・公聴会について、福島県内を始め全国で本件の説明・公聴会を東京電力とともに開催し、汚染水対策について国民的議論を行うよう政府に求めること。

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