請願

 

第204回国会 請願の要旨

新件番号 1156 件名 国立大学法人法の一部改正案に関する請願
要旨  二〇二一年三月二日に国立大学法人法の一部を改正する法律案が閣議決定され、現在参議院で審議されている。この改正案が大きな問題をはらんでいることに鑑み、改正案の修正を求める。政府提出の改正案は、学長への牽制(けんせい)機能(業務の恒常的監視機能)を強化するために学長選考会議や監事の権限を強化するとしているが、こうした措置では学長による不正や法令違反等を防ぐことは困難である。むしろ国立大学法人の自主性・自律性をこれまで以上に損ないながら、研究・教育・医療の現場にある者と学長を中心とした大学執行部との亀裂を深めてしまうおそれがある。公共財としての国立大学法人が、社会から付託された責務として研究・教育・医療の充実と地域への貢献を図るためには、学内構成員によるボトムアップ型の意思決定の仕組みを再構築し、相互の信頼に立つ安定した関係を築くことが不可欠である。そのため、(一)学長選考に関して学内構成員の意向を最大限に尊重すること、(二)学長の通算任期の上限を設定すること、(三)学内構成員の直接請求による学長解職制度を設けること、(四)教育研究評議会評議員の三分の二以上を部局構成員の互選によるものとすることなどの措置により、学内構成員による下からの牽制機能の整備充実を図ることを求める。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、政府提出の「国立大学法人法の一部を改正する法律案」に対して、次のような修正を加えること。
 1 学長選考に際しては、学内構成員の意向を最大限尊重する(第十二条第六項)
    学長選考の在り方は各大学の自主性・自律性に委ねられるという原則から、国立大学法人法は「意向投票」「意向調査」に言及していない。しかし、二〇一四年の国立大学法人法・学校教育法の改正に関わる文部科学省通知(「学校教育法及び国立大学法人法の一部を改正する法律及び学校教育法施行規則及び国立大学法人法施行規則の一部を改正する省令について(通知)」二〇一四年八月二十九日)や二〇一九年の閣議決定(「経済財政運営と改革の基本方針二〇一九」二〇一九年六月二十一日)により、それまで内部的な慣行として行われてきた意向投票を廃止する行政的圧力がかかり、実際に多くの大学が廃止したり、その仕組みを大きく変更したりしてきた。このような行政指導の形式による圧力に抗するために、学長選考に当たって「学内構成員の意向を最大限尊重する」という文言を挿入する。「最大限」という言葉は、学長候補者に不正や法令違反が発覚した場合など学長選考・監察会議(以下「選考会議」という。)が構成員の意向を覆す余地もないわけではないことを示す。ただし、そうした場合に選考会議は学内外のステークホルダーに対する詳細な説明という責務を負うことになる。
 2 学長の通算任期の上限を定める(第十五条第六項)
    やはり二〇一四年文部科学省通知や二〇一九年閣議決定により学長の通算任期の上限を撤廃する圧力が働き、実際に撤廃する大学が増加している。長期にわたるプロジェクトの遂行などがその理由とされるが、プロジェクトの意義が理解されていれば、たとえ学長が交代してもプロジェクトは継続するはずである。自民党総裁ですら連続三期九年という上限が定められていることを考えれば、通算任期の上限が定められていない事態は異常であり、「学長独裁」の温床となっているために上限を設定する。
 3 学内構成員の直接請求による学長の解職規定を設ける(第十五条第七項・第八項)
    学長の解職に関わる規定は多くの国立大学で設けられているが、教育研究評議会や経営協議会の発議に基づいて選考会議が判断する例が多い。こうした方式に加えて、自治体首長のリコール制度のように学内構成員による直接請求の制度を設ける必要がある。その上で、たとえ解職請求が成立したとしても、選考会議が正当な理由なく解職要求を棄却する可能性への歯止めを設けるために、常勤職員の三分の一以上の賛同により解職の発議、常勤職員の過半数の賛同により解職の決定とする。
 4 教育研究評議会の評議員に部局構成員の互選により選出された者を含める(第二十一条第二項第三号)
    現在の国立大学法人法では、部局長(学部長、研究科長、研究所長ら)が教育研究評議会の評議員に含まれる。だが、二〇一四年文部科学省通知や二〇一九年閣議決定により部局長が部局構成員の互選(部局教授会の投票など)による者ではなく、学長指名となる大学が増加しつつある。評議員たるべき者の基本的要件は部局構成員の互選たるべきことを明確化する。
 5 教育研究評議会の委員の三分の二以上を部局構成員の互選による者とする(第二十一条第四項)
    部局長を部局構成員が互選で選出する原則と合わせて、教育研究評議 会評議員の三分の二以上を部局構成員の互選で選ばれた者とする。これにより、学長指名の評議員を三分の一以下として、ボトムアップの牽制機能を実効化する。
 6 教育研究評議会の議長を委員の互選とする(第二十一条第六項)
    教育研究評議会が学長への牽制機能を働かせるために、教育研究評議会の議長を学長とする現行制度を修正する。
 7 学長選考・監察会議の議長を教育研究評議会選出の学内委員とする(第十二条第三項)
    学外委員が選考会議議長となった場合、学長選考後に退任し、選考過程の不透明さに対する説明責任を放棄する事態が生じている。選考会議の議長が説明責任を果たせるようにするために、教育研究評議会選出の学内委員とする。
 8 学長選考・監察会議の手続に関して必要な事項の変更は、教育研究評議会による承認を必要とする(第十二条第五項)
    学長選考に関わる学内規則は本来ならば選考会議による恣意的判断の余地を狭める形で設けられるべきだが、現状では選考会議が自らフリーハンドの権限を持つ方向で規則を変更してしまう事例が見られる。その歯止めとして、教育研究評議会による承認という要件を含める。

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