請願

 

第201回国会 請願の要旨

新件番号 921 件名 種苗法の一部を改正する法律案に関する請願
要旨  農林水産省は、日本の優良な種苗の海外流出を防ぐために種苗法改正が必要であると説明している。しかし、登録品種の自家増殖を許諾制(実質禁止)にしても物理的に種苗の海外流出を防ぐことはできず、流出を防ぐには該当国で品種登録(育成者権の取得)を行うしかないと農林水産省自身も二〇一七年に明言している。それに加え、海外流出を防ぐには、国や都道府県の種苗の知見を民間企業(海外企業を含む)に提供することを促進する農業競争力強化支援法の第八条第四号を廃止する必要がある。育成者権が海外企業に移った場合、日本の優良な種苗は合法的に海外で栽培され、日本の農家は海外企業に使用料を払って栽培することになってしまう。種苗の自家増殖が経営に不可欠な農家は多く、サトウキビ、芋、イチゴ、米、麦、大豆、リンゴ、かんきつ、梨、柿、ブドウ、梅などの農家は、登録品種の自家増殖禁止の影響を受ける可能性がある。農林水産省は、登録品種は一部であり、その他の一般品種は自家増殖できるので問題ないと説明している。しかし、農林水産省は、これから登録品種を大量に増やしていくことを目指している。今でも既に登録品種は市場に多く出回っている上、毎年八百種ほど増えており、将来的に市場は登録品種が中心になることが予想される。農林水産省は都道府県の許諾料は安く、品種開発に使われると説明するが、国や都道府県の持つ種苗の知見は民間企業に提供することが促進されており、民間企業に種苗の育成者権が移った場合、各都道府県で守ってきたブランドの農産物は失われてしまう上、民間企業の許諾料は公共種子のように安くはならない。種苗法改正では、登録品種の農作物の特徴が記載された特性表の活用により育成者権が強められ、侵害立証が容易になる。このことは在来種の栽培、自家増殖にも影響を与え、登録品種の花粉が虫や風によって在来種と交雑すれば、在来種を栽培している農家が権利侵害で訴えられる危険性も出てくる。海外では、多国籍種子企業が農家を権利侵害で訴える事例が起きている。これまで登録品種か在来種かの判断は、農産物の現物を比較して、裁判所で判断されてきた。しかし、種苗法が改正されると、裁判所の判断の前に農林水産大臣が登録品種の特徴が記載された特性表のみで登録品種か在来種かを推定し、登録品種か在来種かを判定できるようになる。同じ品種同士の僅かな違いは現物を比べなければ分からず、特性表のみでは細部までは分からないため、同じ品種とみなされやすくなる。種苗法で育成者の権利は守られるが、在来種を守る法律も在来種の特性表もない。企業から訴訟を起こされるリスクを考え、農家は在来種の栽培や自家増殖を委縮してしまうおそれがある。また、在来種は新たに品種登録できないとされているが、農林水産省が持つ在来種に関するデータは在来種全体のごく一部でしかない。データのない在来種の品種登録の申請があった場合、新品種として登録を認めざるを得ない。また、ゲノム編集の種苗が表記なしで販売されることも問題になる。農家はゲノム編集種苗と知らずに購入し、栽培してしまう。ゲノム編集の花粉との交雑が起こればゲノム編集汚染地帯になってしまい、在来種の種苗は汚染され、有機栽培もできなくなり、消費者はゲノム編集の食品を知らずに食べてしまう危険がある。日本が二〇一三年に加入した食料農業植物遺伝資源条約は、政府に農家の種苗の自家増殖の権利を保障し、守ることを義務付けている。農業者は種苗など植物遺伝資源の意思決定に参加する権利を持ち、政府はそれを保障しなければならないとも規定されている。種苗法改正に当たり、公聴会やパブリックコメントも行われておらず、広く農家の意見を聞くことがないまま自家増殖禁止になれば、国際条約違反になる。種苗法が改正されると、農家の負担が増える。離農が進み、農家の新規参入も減れば、日本各地域の種子企業の経営にも影響が出る。国や都道府県の持つ公共種子の知見が民間企業(海外企業を含む)に提供され、日本の種子企業が弱体化すれば、資金力で勝る海外の多国籍種子企業に日本人の命を支える食が握られてしまうおそれがある。種子を制する者は世界を制する。既に日本で栽培される野菜の種子の九〇%は海外の多国籍種子企業が海外で生産しており、国内大手種子企業も採種の八〇~九〇%を海外に委託している。寡占が進んだ野菜の種子は、年々価格が上がっている。野菜の種子の次は、米の種子が狙われている。民間企業の米の種子の価格は、都道府県の公共種子の十倍である。米の都道府県の公共種子が民間企業に払い下げられて多国籍種子企業による独占が進めば、販売される米の価格は大幅に上がり、飲食店を始め、米を主食とする日本国民全体に大きな影響が出ることが予想される。今、種子は僅か三社が世界の七〇%のシェアを占めるビッグビジネスに なっている。世界中で安価な公共種子や農家が代々栽培してきた在来種の種子をなくして、多国籍種子企業の遺伝子組換え等の種子を農薬、化学肥料とセットで販売するという手法が広がっており、多国籍種子企業は農家が次期作に利用する種子を採れないF1種子、遺伝子組換え種子、ゲノム編集種子を毎年農家に買わせ続けることで利益を出している。農薬、化学肥料、遺伝子組換え、ゲノム編集はどれも安全性に問題があり、世界中でこれらを規制する動きが広がっている。多国籍種子企業は単一な品種を大量生産することにより利益を出している。しかし、過去には気候変動や作物の病気が流行した際に作物が全滅し、食料危機が起きたこともある。各地域の農家が守ってきた多種多様な在来種こそが気候変動、病気へのリスク軽減に有効である。多国籍種子企業は地域性や農家の経験など関係なしに、指定した自社の農薬、化学肥料のみを全量使わせるなどマニュアルどおり栽培することを農家に契約させるため、農薬の使用量は増え、化学肥料で耕作地もダメージを受ける。日本国民の健康、日本の国土を大切にする農業こそが未来につながる。新型コロナウイルスの影響で輸出規制を掛けている海外の食料生産国は、現在十六か国以上ある。ロックダウンで輸出が停滞している国、農作業の季節労働者が入国できないことにより人手不足になっている国もある。穀物価格も上昇しており、世界的な食料危機が予想されている。日本の食料自給率は三七%である。食料輸入が止まった場合、国民の命を守るのは国内農家しかいない。農家は高齢化で減少している。これまで当たり前に行ってきた自家増殖を禁止され、毎年の許諾料の煩雑な手続等で廃業を考えている農家の声は国に届いていない。緊急事態宣言が出されている今、新型コロナウイルス対策を全力で行い、日本国民の命を守ることが第一優先であり、新型コロナウイルスの影響で苦境にある農家をサポートすることが、日本国民の食料を確保するために国がすべき大切なことである。今このタイミングで種苗法改正を行い、農家を混乱させ、経営を圧迫することは、日本の食料安全保障に逆行する自殺行為である。農家を保護し、食料が安定的に全国民へ供給されることを求める。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、海外で食料生産国の輸出規制が広がる中、農家の権利を制限し、農家の経営を圧迫して日本国民の食料安全保障を危うくする種苗法改正は行わないこと。

一覧に戻る