請願

 

第201回国会 請願の要旨

新件番号 793 件名 閣議決定された種苗法の改正案に反対し、代わりに日本の農業を真に守るための改革を求めることに関する請願
要旨  政府が閣議決定した種苗法の一部を改正する法律案(以下「本改正案」という。)は、日本で育種開発された優良品種の海外流出を防ぐためという一面のみが農林水産省やマスコミなどで強調され、伝統的な日本の農業を実質的に衰退させるという面も含まれているにもかかわらず、それが分かりにくい案になっている。我が国は、二〇一八年四月に主要農作物種子法を廃止して、これまで都道府県が担ってきた米、麦、大豆など主要農作物の種子の生産・普及体制に終止符を打った。また、その前年に施行された農業競争力強化支援法により種子生産に関する知見を民間企業に提供・促進することが公的な試験機関に求められており、種子の開発、生産、普及に関する事業が公的機関から民間企業に移譲される事態になっている。公共品種の権利が外資を含む民間企業に譲渡されれば、その譲渡された種苗企業の裁量により種苗を合法的に海外で栽培し、産地化することが可能となる(本改正案第二十一条)。つまり、本改正案の提案理由とは真逆に、むしろ改正案が日本で育種開発された優良品種の海外流出を加速・強化する可能性をはらんでいる。そして、これまで原則認められてきた農家による次期作のための登録品種の自家採種・増殖の権利を認める条項が削除され(同第二十一条)、通常利用権(有料の許諾制)によって実質的な禁止へ導く内容にされるとともに、特性表の活用によって種苗企業などの育成者権者による権利侵害の立証が容易になるなど、国際的に認知された農家の自家採種・増殖を認める権利が著しく制限されるものになっている。さらに、国などの公的な機関の知見・人材・労力を使って、民間企業などの育成者権者のために新品種登録を推進する方向に重きが置かれた内容(同第十五条)となっている。こうした政策は、公的機関による種子の保全、育成及び供給を困難にし、種子開発生産における民間企業支配と独占に道を開くことになり、農家の経済的負担の増大や育成者権者からの権利侵害を理由とした訴えなどへの懸念から離農が促進され、後継者不足も重なって、伝統的な日本の農業の更なる衰退をもたらすおそれがある。ひいては、食料の安全保障、種の多様性、環境の保全、地域の存続といった持続可能な経済社会の確立にとって大きなマイナス要因ともなりかねないことが危惧される。そもそも、植物遺伝資源である種子は生きとし生けるものの命の根源であり、種子の安定的な供給は国民の生存権保障の義務を負う政府の役割である。その役割を、当該義務を負わず、何が国民にとって必須であるかより何が一番もうかるかを考えて事業を行う民間企業に委ねることは、政府の責任放棄である。よって、本改正案に反対することを求めるとともに、現在の農業政策では日本の種子と食の安全が脅かされていることから、下記改革案の実行を政府に提案することを求める。
 ついては、次の事項について実現を図られたい。

一、種苗法改正案に反対すること。
   反対理由の一点目は、農家による自家採種・増殖の権利が侵害される危険性である。政府は優良品種の海外流出防止のためとして、農家による次期作のための登録品種の自家採種・自家増殖の権利を原則認める条項を改正案で削除したが、通常利用権(有料の許諾制)によって実質的に禁止の方向に導くことは、農家の負担を重くし、更なる疲弊を招き、離農が促進されかねない。また農研機構などの公的な機関や地方公共団体で育種・育成された公共品種は、税金を使って我が国の農業振興のために作られたものであり、それを有料の許諾制にすることはその趣旨に反する。こうした問題のある種苗法改正案は、日本の農業者の九割を占める小規模・家族経営の農家を壊滅に追い込む危険性のみならず、長期的には、農業生産者の寡占化を招き、消費者にとっても農作物が高騰する可能性がある。反対理由の二点目は、新品種登録の審査に農家・農民団体の推薦する代表者が認定決定権に関われないことである。新品種登録のための審査について、厳正・公正な審査が行われるよう、出願された品種を登録品種として認定するための機関に、農家や農民団体の推薦する代表者が認定決定権に関われるよう措置されていない。日本政府も批准している「食料農業植物遺伝資源条約」には、農民の種子に関する伝統的知識の保護、種子の利用から生じる利益配分、種子に関する政策決定に参加する権利があるとし、締約国政府はこれらを措置する責任を取るべき、と明記されている。今回の改正案では、多国籍企業を含む民間企業によって新品種の登録をより促進する法案となっており、資本力の強い多国籍企業などからの政治的・外交的圧力や審査過程に関わる人員への利益誘導などによって、企業のための種苗審査に傾く可能性が否定できない。これにより、一般品種(在来種・伝統品種・登録切れの品 種)から次々と品種改良され登録されることにより、農家の種子の権利が奪われ、日本の農業は多国籍企業の傘下に入ってしまう可能性さえ懸念され、日本国民は、多国籍企業の一挙手一投足にろうばいする状況になる可能性すら否定できない。反対理由の三点目は、農家が種苗企業などから権利侵害で訴えられないよう、濫訴を防ぐシステムの整備が明記されていないことである。種苗企業などの育種・育成者権者が、農業者に対して権利侵害を理由に濫訴しないよう、権利侵害の立証は現物主義を原則とし、特性表を用いて権利侵害を立証する場合でも、農業者を訴える場合は、農家・農民団体の推薦者を加えた農林水産大臣諮問の第三者機関などを設置し、種苗会社や育種・育成者権者が農業者を訴える前に第三者機関に事前通知し、育成者権が及ぶ品種か否かを判定するシステムが求められる。このシステムが整備されていなければ、二点目と同じように、資本力が弱い日本の小規模農家は壊滅しかねない。これでは、日本国憲法第二十五条で定められている「生存権」の保障が困難になる。
二、「農業競争力強化支援法」第八条第四号を削除すること。
   この条項は、国民の税金を使って公的機関が蓄積した種苗の開発育成に関する知見を、外資を含めた民間企業に提供することを求めており、譲渡された民間企業の裁量によって種苗が合法的に海外で産地化されるなど、かえって海外流出を止められなくなる可能性がある。これは国民の財産を、国民の生命財産を守る義務のない者に売り渡す行為にほかならず、国民の権利を侵害するものである。よって当該条項の削除を求める。
三、各地の伝統的在来種を守るためのシステム、「ジーンバンク」の構築を推進すること。
   政府は種子法廃止・種苗法改正という措置により、これまで公共機関と農家が培ってきた種子の権利を、民間の手に移そうとしている。各地域の伝統的在来種の種子を守る法制も存在しない状況下で、これでは競争力の弱い小規模農家の衰退を招くばかりである。よってこれまで農家が育ててきた多様な種子を守り、地域の農業を存続させるため、種子を守る法制の整備と併せて、各地域の種子とそのデータを保存管理・活用するシステム、「ジーンバンク」の構築を推進することを求める。
四、遺伝子操作技術(ゲノム編集を含む)で開発された種苗に表示を義務付けること。
   農林水産省は、有機JASマークの使用を、遺伝子操作技術の一種であるゲノム編集技術を利用して開発したゲノム編集食品には認めない方針を決めた。その結果、有機栽培をする農家が種苗を購入する際に、遺伝子操作された種苗か否かが判別できるようにすることが必要になる。よって、種苗の販売・譲渡する際の包装・広告表示に、その品種が、遺伝子操作技術・ゲノム編集技術を使って育種開発された品種である場合は、その旨の表示を義務付けることを求める。

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