請願

 

第200回国会 請願の要旨

新件番号 798 件名 水循環基本法の的確な履行と水制度及び水行政改革の断行に関する請願
要旨  水循環基本法(公布二〇一四年四月二日、施行七月一日、以下「基本法」という。)は、今年七月一日をもって施行後満五年を迎えた。基本法附則第二項には「本部については、この法律の施行後五年を目途として総合的な検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする」とうたわれている。基本法は、国民の期待を担って衆参両院の総員賛成により成立した議員立法である。国会は、基本法を成立させた当事者として立法府の立場から附則第二項に基づき本部による施行後五年間の運用実績を総合的に評価し、必要な改革処置を講じるものと期待されている。これは国民の切なる願いである。附則第二項の「総合的な検討」が仮に本部(政府)のみで進められるとすれば、本部が自らの手で自らを評価することになる。国民としては、かかる事態を座視できない。言うまでもなく、水は国民の生命の水だからである。国民として我が国の水を守るために意見を述べることは義務であり、後世の人々に対する責務でもある。国民の立場からこれまでの本部の対応を見ると、基本法の空文化が進み、期待は裏切られたとしか言いようがない。そればかりか、この現状を黙認すれば、基本法制定以前からの縦割りの水制度と水行政体制の存続を承認したことにつながる可能性があり、議員立法によって制定された基本法の本来の意図に反する不幸な事態を自ら招くことになる。このような事態を招いた真因は、基本法第四章「水循環政策本部」が現行の縦割り制度に基づく行政体制を糊塗(こと)した体制であり、基本法の運用が行政指導の枠内を出ないものであったため、改革が思うように進まなかったことにある。単なる行政指導は、外見を装いつつ自らは責任を取らず、地方自治体などに責任転嫁する御都合主義にほかならない。国会はこの事態を回避するために、現行基本法の抜本的改正を推進するとともに、本部に現行基本法の的確な履行と我が国の水制度及び水行政改革の断行を勧告することを求める。
 ついては、次の措置を採られたい。

一、水循環基本法制定の意図を誠実に履行し、健全な水循環を再生させ、我が国の水を守るために、少なくとも下記の十項目にわたってその実施を図ること。
 1 国会(立法府)は、「水循環基本法」を制定した当事者として基本法附則第二項「本部については、この法律施行後五年を目途として総合的検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ぜられるものとする」の規定を的確に履行すること。
 2 現行の本部体制(基本法第四章)は、基本法制定以前の縦割り体制を糊塗したものであり、その実態は何一つ変わっていないため、その限界は明らかである。このため、例えば「水循環庁」のような一元的組織を早急に創設し、抜本的な水行政改革を断行すること。
 3 基本法第二章「水循環基本計画」の中に「健全な水循環」の再生に必要な基本要件を全て押し込め、行政指導によって目的達成を図る現行の行政対応は著しい御都合主義であり、逆に水循環をゆがめるおそれすらある。このため、少なくとも下記事項について現行基本法を改正すること。
  (一)流域水循環計画を法定計画とすること。
  (二)流域水循環協議会に法的位置付けを与えること。
  (三)水循環目標像に法的根拠を与え、政府が目標の行政基準を提示すること。
 4 水循環目標像は、少なくとも水量基準、水質基準及び生態系保全基準で構成し、水質基準は環境基本法第十六条の水質環境基準との統合を図り、健全な生態系と共存できる水循環目標基準の早期達成を視野に入れて河川流域別に基準の設定と見直しを的確に推進するよう諸般の対策を講じること。また、著しい渇水、水質事故(災害時を含む)、水質テロなどによる下流域の広範な被害発生を事前に阻止するため、地下水環境を含め、流域を一貫した水量・水質監視体制を構築すること。
 5 基本法第十一条(法制上の措置等)に基づき、可及的速やかに「地下水及び湧水保全法(仮称)」を制定し、健全な地下水環境を保全すること。基本法第三条(基本理念)第二項は、水は地下水を含めて「国民共有の貴重な財産」と規定しているが、現在まで国民の共有権を担保する法的措置が講じられていない。一方では、リニア中央新幹線工事は強力に進められ、東京都下の名水の湧出量や霊峰富士の地下水・湧水もその減量が顕著となりつつあり、さらには埼玉県が誇る貴重なムジナモの生育にも支障が生じつつある。危機的状況を未然に防ぐためには、法制化を急ぐ必要がある。
 6 同じく基本法第十一条に基づき、可及的速やかに河川法による水利権許可行政の抜本的改革を推進すること。特に発電水力用水の許可水利権は、その水量がばくだいで、しかも許可期間が長期にわたるため、下流域一体の水環境、生態系環境に甚大な悪影 響を及ぼしている。水が国民の共有財である以上、水利権許可は、共有権者たる流域住民の意見を踏まえて決定されるべきであることは論をまたない。国民の水に対する共有権を保証する新規立法を制定し、水利権許可が流域住民の合意の上で行われるよう法制を整備すべきである。
 7 上下水道の普及が「国民皆サービス」に近い状態にまで進み、人口減少に向かう中で施設の更新が急がれている現在、水循環の健全化の観点から上下水道行政を統合する「水道行政一元化」の行政改革と関係政府組織の統合を断行すること。また、上下水道行政と関係の深い工業用水道行政、浄化槽行政及びし尿処理行政を水道行政一元化に合わせて統合するべきである。なお、下水道行政のうち、雨水排除に関わる事業分野は、河川事業との統合を考慮し、都市内の親水河川の再生に努めるべきである。さらに、合流式下水道の分流化を進め、清浄な河川水及び高度処理によってよみがえった再生水を都市内河川に導入し、河川流域の都市空間に清流を復活させ、国民に身近なところに快適な水環境を創出すること。
 8 河川行政は、洪水を河川本川に押し込める従来型の河川高水政策を変更し、流域土地利用と治山治水を一体とした「総合的高水対策」を推進する法律を定め、想定外の洪水・土砂害に対しても人命を守る対策を強化すること。総合的高水対策は、雨水の浸透、滞留、貯留及び流域の緑化の観点から流域の土地利用の適正化と密接不可分であるため法制化を進めること。
 9 水は、国民の「生命の水」であることから何物にも代え難い貴重な財産であるため、特に居住地域の態様にかかわらず国民福祉の公平性の観点から過疎地域の上下水道事業に対する政府の財政支援措置を講じるとともに、災害の時代とも言える現代にあっては国民に「生命の水」の入手を阻害するおそれのある改正水道法など新自由主義的法制について廃止を含めて再検討すること。
 10 総合的高水対策、水資源の節水やリサイクルなどを含む総合的な水資源需給計画の再検討などを通じて、不必要となるダムの撤去を進めるため、より高次元の総合的脱ダム政策と水資源需給政策を推進すること。

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